キマイラ文庫

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デモンズナイトフィーバー

喜多山 浪漫

episode 05

 続いて邪神様は、儀式を円滑におこなうための『しもべ』について解説してくれた。

 しもべとは邪神の使徒である俺に付き従う存在らしい。ただし、悪の力で強制的に従わせているだけだから忠誠心など欠片もなく、ゆえに従順じゃない。そんなやつ、足手まといになるだけじゃないのかとも思うが、それでもひとりぼっちで儀式を進行するよりかは遥かにマシなのだと邪神様は言う。


 邪神様の解説は、やけに親切丁寧で、とってもユーザーフレンドリーだ。しかも手作りのゲームだからだろうか、熱がこもっている。俺なんかは短くない社畜生活のおかげで、こういうゲーム作りへの情熱とか愛はとうに失ってしまっているから、なんだか少しうらやましい気がする。


「よいか、狂死狼よ。邪神復活の儀式最大の障壁となるのは神の使徒だ」


「神の使徒……。まあ、邪神の使徒がいるぐらいだから、神の使徒がしてもおかしくないよな。ちなみに、それってどんなやつなんだ?」


「戦隊ヒーローだ」


「せ、戦隊ヒーロー!?」


 え?

 俺、これからヒーローと戦わなきゃならないの?


「怪人の敵はヒーロー。これは不変の真理である」


「ま、まあ、確かに」


 これでも男の子だ。今はやさぐれて悪に染まっているが、純真な少年時代にはご多分に漏れずヒーローに憧れたこともある。よもや、その憧れのヒーローと戦う日が来ようとは。人生、何が起こるかわからないものである。


「だが、怪人ひとりぼっちではヒーローに勝てぬ。ゆえにまずは、しもべとして戦闘員を用意する」


「おお! 戦闘員を率いて戦隊ヒーローと戦うのか。悪の秘密結社の幹部なったみたいでワクワクしてくるぜ」


「にゃははは。気に入ったようだな。ならば手始めに最初の戦闘員をゲットせよ」


「戦闘員をゲットって……どうやって?」


「誘拐しろ」


「悪っ! この人、悪っ!! おまわりさーん!!」


 思わず大声で叫んでしまった。


「誘拐する相手は戦隊ヒーローだ」


「悪っっ!! ヒーローを誘拐するだなんて、よくもそんな悪いこと思いつくなぁ」


 まあ邪神だから、これぐらいは序の口なのかもしんないけど。


「そして誘拐した戦隊ヒーローを洗脳して人体改造して戦闘員にする」


「悪っっっ!!!! 邪神様の血は何色だ!!?」


 ついつい定番のツッコミを入れてしまった。相手は邪神なんだから、そもそも血が通っているかどうかすら怪しいのに。


「にゃははははは。そう褒めるな。さあ、狂死狼よ。その手を悪に染めて記念すべき1体目の戦闘員を用意してみよ」


 と、邪神様はノリノリだけど、こちとら初見プレイ。いくら親切なチュートリアルがあるとはいえ、これはゲームと違って現実(妄想?)として目の前で起こっていることなのだ。いきなり「さあ、やってみろ」と放り出されても困る。


 さてどうしたものかと思案していると、半透明のメニューが眼前に浮かび上がる。

 そこには、ご丁寧に「誘拐するしもべを選択してください」と書かれている。

 ははーん。なるほど。このメニューから好きなキャラクターを選択すればいいわけか。わざわざ探し回らなくていいし便利っちゃあ便利なんだけど、なんともシステマティックで味気ない。


「にゃははは。自らの手で誘拐できなくて不満のようだな?」


 邪神様、鋭い。


「いやまあ便利なのはありがたいんだけど、これじゃあ、あんまり悪事を働いている感覚はないよな」


「にゃははは。そう言うな。我としては一刻も早く復活したい。そのためにいろいろと短縮しているのだ。それにリアルに誘拐するとなると、いくら口では強がっていても抵抗があろう? んん?」


 邪神様、鋭い。

 確かにガチで誘拐するとなると少なからず抵抗がある。


「そ、そんなことねえよ。俺はもともとダークサイドの人間だからな」


「にゃははは。まあそういうことにしておいてやろう。さあ、狂死狼よ。さっさと戦隊ヒーローを誘拐するがよい」


 うん、そうなんだよね。

 誘拐する相手は戦隊ヒーローなんだよね。

 表示されたメニューに目を向けると、そこには多種多様な戦隊ヒーローたちの名前がずらりと並んでいる。ヒーローの名前、ステータス、特徴などが一式表示されている。


「んん?」


【正義マン】

  SNSで正義ぶって他人を苦しめている迷惑なやつ。

 自分の正義を疑わないやつほど厄介な人間はいない。

 いつかキルしてやる。


【カリパクキッド】

  俺のゲームを「借りるぜ」と言って勝手に持っていきやがった。

 いつか100倍にして返してもらってからキルしてやる。


【ペロリンジャー】

  飲食店でみんなが使う調味料をペロペロしていたのを目撃。

 お前ん家の調味料をペロペロペロしてからキルしてやる。


 こいつら、どこかで……。

 名前には覚えがない。顔も戦隊ヒーローの姿になっているからよくわからない。だが、ステータス画面に表示されている説明文には見覚えがある。この内容は以前、俺がキルノートに書き記したものとまったく同じだ。

 どういうことだ?

 やっぱり、これは俺の夢か妄想なのか?


「ほれ。どうした、狂死狼よ。早く選ぶがよい」


「あ、ああ」


 えー……。

 こんなクズどもをしもべとして従えなきゃなんないの?

 罰ゲーム感が半端ないんですけど……。

 どいつもこいつも選びたくないやつばかり。しかし、邪神様に急かされて仕方なくペロリンジャーを選んでみた。理由は名前が一番面白かったのと、ステータス値が比較的高かったからだ。


 その後の洗脳→人体改造という工程は全自動で進んだ。洗脳も人体実験も専門知識のない俺には絶対に無理なので大いに助かる。

 ペロリンジャー(飲食店の調味料をペロペロしていたアホ)が洗脳されて人体改造される様子は、見ていて胸がすく光景だった。ざまあ見ろ。

 相手が正義の味方だったら罪悪感にさいなまれて、こうはいかなかった。ルールとか良心とか世間体とかに影響されずに、クソみたいな人間どもを容赦なく処するには、やはり悪の心と力で、悪をもって悪を制するしかないのだと確信する。


 こうして出来上がった戦闘員ペロリンジャーは、怪人・邪龍院狂死狼にとって最初のしもべとなった。

 戦闘員と言えば怪人に付き従ってヒーヒー言ってる全身黒タイツを連想するが、この邪神復活の儀式デモンズナイトフィーバーにおいては、言うことを聞かない困った戦闘員になる。

 はてさて、そんな従順じゃない戦闘員を率いて、ちゃんと悪の道を突き進んでいけるのだろうか……?

 早くも心境は「怪人はつらいよ」だ。