キマイラ文庫

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デモンズナイトフィーバー

喜多山 浪漫

episode 08

 はじめてのバトルは思いのほか呆気なく終わった。

 戦闘と言うよりも一方的な虐殺。しかも敵もしもべも容赦なく皆殺し。

 殺人マシーン・邪龍院狂死狼、爆誕。

 まったく現実味のない戦いだったから気兼ねなく勝利に酔いしれることができる。むふふ、悪くない。


「て、てめえ……。その顔、どっかで……」


 ん? アスファルトに這いつくばる戦隊ヒーローが、苦しみに歪んだ表情で瞳に激しい憎悪の光を宿らせながら何やら言っているぞ。

 ふふん、負け犬の遠吠えというやつか。無様だな。だが、夜な夜な釈迦堂の悪口を投稿していたアンチの最期に相応しい。


「……もしかして、透明人間の田中か……!?」


 心臓を鷲掴みにされた。

 胸の奥がギュッと締め付けられる。

 脳裏には中学時代の出来事がモノクロでフラッシュバックする。


「………………田中? はて? 何のことかな? 俺の名前は邪龍院狂死狼。邪神の使徒だ」


「いや……。てめえはやっぱり田中だ。くそが……。あんときの仕返しか? ……覚えてやがれ」


 名ばかりの戦隊ヒーローは、悪党の最期に相応しい定番の捨て台詞を吐くと姿を消した。立ち去ったわけではない。這いつくばったまま、身体がゆっくりとフェードアウトして消えたのだ。


「消えた……? 死んだのか?」


「案ずるな。死にはせぬ。儀式のために一時的に魂を借りただけだからキルされた魂は現世の肉体に再び戻る。連中からすれば、貴様にキルされた悪夢を見た程度の感覚だろう」


「実際にキルしたわけじゃないんだな?」


 大事な点だから念を押すように確認する。


「にゃははは。ホッとしたか?」


「そ、そんなんじゃねえよ。あのクソどもを、もっとお似合いの方法でキルしてやりたかっただけだ」


 俺のテンプレートのような強がりに邪神様がニヤニヤしている。

 心の中を見透かされているみたいで、めちゃくちゃ居心地が悪い。


「そういうことなら喜ぶがいい。やつらもすでにデモンズナイトフィーバーの輪廻に取り込まれている。キルしてもキルしても姿を変え、強くなって再登場するから、むしろ油断せぬことだ」


「え? 今後もあいつらが出てくるのか?」


「あいつらだけではないぞ。貴様がキルノートとやらに書き記した連中がじゃんじゃん湧いて出てくるように仕様変更しておいた」


「……お、面白いじゃねえか。望むところだ。だったら、じゃんじゃんキルしてやるぜ」


 強がってみたけど、ちょっと不安になる。

 もともと喧嘩なんてしたことないうえに、相手は悪党どもばかり。しかも唯一の戦力である戦闘員を全員血祭りにあげて失ったばかりだ。


「不安そうだな? おおかた戦闘員を全員キルして、ひとりぼっちになって心配なのだろう?」


 う“……。また見透かされた。


「だが、安心するがよい。戦闘員も戦隊ヒーローたちと同様にデモンズナイトフィーバーが続く限りは何度でも復活する。教えたであろう? しもべたちはキルすればキルするほど転生して強くなるのだ」


「あ……」


 そういや、そうだった。


「思い出したようだな。だから安心してキルするがよい。ちなみに死んでも復活するのは貴様とて同じこと。邪神復活の儀式デモンズナイトフィーバーの輪廻に取り込まれるとはそういうことなのだ」


 つまり、邪神復活の儀式を完了させて邪神様を元の姿に戻すまで俺は解放されないってわけか。なんだか終わりのない悪夢を見せられている気分だぜ。


「……ところで、邪龍院狂死狼よ」


「何だ?」


「田中って、誰?」


 ちっ。覚えていやがったか。


「……………ノーコメント」


 いくら相手が邪神様でも、黙秘権の行使くらいはさせてもらう。

 誰にだって思い出したくないことの一つや二つはあるのだから……。