キマイラ文庫

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デモンズナイトフィーバー

喜多山 浪漫

episode 06

 戦闘員ペロリンジャーを我がしもべとして配下に加えた後、来たるべき戦いに備えてカリパクキッドと正義マンと、ついでに他にも数人ほどの戦隊ヒーローを誘拐→洗脳→人体改造した。

 と言っても、実際に誘拐しわけでも、洗脳したわけでもなく、人体改造したわけでもない。

『誘拐』のコマンドをポチっと選択すれば、あっと言う間にしもべを誘拐できる。このあたりもゲームさながらだ。


「えーと……。これでもう、しもべをゲットできたわけ? お手軽すぎない?」


「にゃははは。これはゲームだからな。それにゲットしたしもべたちは、どうせすぐにキルすることになる」


 ゲットしたしもべをキル?

 邪神様が何とも物騒な発言をする。


「え? せっかくゲットしたのにキルしちゃうの?」


「うむ。すでに貴様も気づいているように、しもべどもはロクでもない素性の連中だ。それに従順なわけでもない。どんどんキルしちゃいなさい」


 だからと言って、はいそうですかとキルできるなら、俺はとっくの昔に連続殺人犯だ。

 しかし、クズな野郎どもをキルするのに躊躇するとは我ながら意外でもある。今まで散々キルノートに書き殴り、妄想では何度も何度もキルしまくったのに、いざ実行するとなると躊躇いが生じる。俺にもまだ人間の心が残っていたのか。


「しもべたちはキルすればキルするほど転生して強化されていく。だから、むしろ遠慮せずにどんどん誘拐して、どんどんキルするが正解なのだ」


 しもべは死ねば死ぬほど強くなる。だから積極的にキルしまくれってことか。

 ……とんでもないゲームシステムだな。

 半ば呆れている俺のことなど気に留めず、発案者である邪神様は、さも当然であるかのように説明を続ける。


「これで悪の育成パートのコツはつかめたと思うが、育成ばかりに時間をかけてはいられない。邪神復活の儀式デモンズナイトフィーバーには期限があるのだ」


 やれやれ。

 悪徳ポイントを稼ぐだけでも一苦労だっていうのに、納期まであるのか。

 これがもし夢だとしたら、俺は骨の髄まで社畜ってことだな。嫌んなるぜ。


「期限ね……。期限内に儀式を成功させられなかった場合、どうなるんだ?」


 俺は素朴かつ根本的な疑問を口にした。


「それは……」


「それは?」


「邪神復活の儀式デモンズナイトフィーバーは失敗に終わり、そして……」


「そして?」


「……それは、あとのお楽しみというやつだ。にゃっはっはっはっ。」


 なんだよ~、もったいぶるなよ~。

 っていうか、あとのお楽しみって言われても嫌な予感しかしないぞ~?


「さあ、気を取り直してお次はお待ちかね。バトルの時間だ」


 バトルか。中2のときに編み出したものの、あまりの危険度に封印した我が暗黒の必殺技『ブラックファイヤインフェルノダークネスナックル』が火を噴くときがようやく来たか。ふっふっふっ。

 この世に仮初の生を享けて29年、一度も喧嘩したことがないから結局使う機会はなかったんだけど。


「戦いの準備なら、いつでもできているぜ」


「にゃはははは。さすがは我が使徒。頼もしいことだ。ならば怪人・狂死狼として戦隊ヒーローどもをキルしまくるがよい」


「……怪人が戦隊ヒーローをキルしまくるって……よい子が見たら泣くぞ?」


「安心しろ。相手は神のしもべとは名ばかりの悪党どもだ。それにこれはゲームだ。遠慮はいらん。どんどんキルしちゃいなさい」


「戦隊ヒーローの中身が悪党って……よい子が知ったら泣くぞ?」


「そのよい子のみんなに説明できないようなあんな罪やこんな罪を犯した悪党どもが相手なのだ。安心してキルするがよい」


「確かに相手がそんな悪党なら躊躇する必要はないか……。いわばゴミ掃除みたいなもんだしな」


 クズはどこまでいってもクズ。反省も改心もしない。だから汚物はキルしてこの世から消し去るのが、もっとも適切な解決方法なのだ。

 これまでもずっとキルノートを書きながら、悪党どもをどうやってキルしてやろうか妄想を膨らませてきたが、ようやく実現するときが来たようだ。


「どうせならキルノートにノミネートした連中と戦えればキルしがいがあるんだけどな……」


 しもべにしたペロリンジャーやカリパクキッドもキルノートにノミネートした覚えのある連中だった。もしかすると……。


「その願い、叶えてやろう。そのキルノートとやらの情報を入力すれば、そやつらの魂を召喚して敵として登場させるなど造作もないことよ」


 トゥンク……。

 やだ。邪神様ったら素敵すぎる。

 本当に神のしもべも邪神のしもべも全員キルノートにノミネートされた悪党どもになるなら、敵も味方も遠慮なくキルしまくれることになる。

 ちゃんとプレイヤー(=俺)のニーズを汲み取っているなんて。至れり尽くせり。なんて神仕様のゲームなんだ。……あ、邪神だから邪神仕様か。

 感動を覚える俺をよそに、邪神様は何やら怪しげな呪文を唱え始める。


「アブラマシ、ヤサイマシマシ、メンカタメ、ニンニクマシマシ……にゃぁぁぁぁぁああーーーーー……!!!!」


 邪神様の雄叫びと共に、あたりの風景がぐにゃりと歪んでいく。すると目の前には見覚えのある景色が徐々に展開される。

 あのいつまでも修理されない曲がったガードレール。古びた町中華の看板。お化けが出るって噂のあった雑居ビル。まぎれもない俺の地元だ。

 確かに怪人・邪龍院狂死狼のミッションは世界征服ならぬ地元征服だと聞いちゃいたが、マジで地元で戦う羽目になるとはな……。

 幸いこれは現実じゃないから、怪人にコスプレしている姿をご近所さんに見られたところで精神的ダメージは追わずに済む。せっかくだから、この状況を大いに楽しませてもらうとしよう。


「さあ、狂死狼よ。バトルの時間だ。邪神の使徒として、神のしもべどもをキルしまくるがよい。にゃははははは」


 邪神様の高笑いに呼応するかのように戦隊ヒーローらしき格好の神のしもべたちが登場する。

 これが敵……。マジで戦隊ヒーローと戦わなきゃならないわけか。

 中身は悪党だと言い聞かされても心臓がバクバクするのは、こんな俺にもまだ良心ってやつが残されているからなのか? それとも喧嘩なんて生まれてこの方、一度もしたことがないからビビってるからなのか?


「な、なあ、邪神様。こいつらキルしちゃって本当に大丈夫なのか?」


「うむ。大丈夫だ。邪神の名に懸けて保証しよう」


 邪神様の保証か。

 自分で聞いておいてなんだけど、なんて信用できない言葉なんだ。


「怖気づいたか? だが、敵はやる気満々だぞ」


 顎で促されて戦隊ヒーローたちに目をやると、なるほど殺気にギラついた目でこちらを見ている。確かにやる気満々のようだ。

 キルしなきゃキルされる場面だ。それはわかる。わかるんだけど……。

 俺が躊躇している間に戦隊ヒーローたちがずずいと進み出て、あたかも本物の戦隊ヒーローのようにポーズを決める。


「シャカマリは! 中2の夏から! クソビッチ!」


「私、釈迦堂マリア! 好きなものはチンチン!」


「たくさん食べて仕事をもらうの!」


「ま~んの力、見せてあげる!」


「月に代わってお下劣よ!」


 5人そろって戦隊ヒーローよろしく、決めポーズをとって決めゼリフっぽいのを吐いているが、その内容はロクでもなかった。

 しかも、どこかで聞き覚えのあるセリフだと思ったら、例のメッセージアプリ『パンピーズ』で釈迦堂のネガキャンをしていたアンチどもの投稿の内容そのまんまじゃねえか。


「まさか、こいつら……釈迦堂の悪口を拡散してたクソどもか……!?」


「にゃはははは。これで貴様もやる気になっただろう?」


 どういう仕組みで連中が召喚されたのか想像もつかないが、そこはそれ。どうせ考えても理解できないから、邪神様が夜な夜なプログラミングした成果だと思って無理やり自分を納得させる。

 それよりもキルノートにノミネートした連中をボコボコにキルできる機会なんてそうそうあるもんじゃない。ここは邪神様の御厚意に甘えて、ありがたく楽しむとしよう。


「上等だぜ! 全員キルしてやる!!!!」