デモンズナイトフィーバー
喜多山 浪漫
episode 10
「……システム再起動。邪神復活プログラム【DNF】を再開します」
耳障りな機械的な音声が俺の脳を呼び覚ます。
ゆっくりと目を開けると、真っ暗な空間に見覚えのあるパネルが浮かんでいるだけ。そこには例のあの問いが表示されている。
「地元征服の準備はよろしいですか?」
・覚悟完了
・世界征服希望
何が起きているのか理解できずに、思わず自分の身体に手足が残っているか確認するが、手も足も胸も腹も大事なところも全部無傷の五体満足。
……どういうことだ?
あの思い出すだけで吐き気をもよおすような体験は幻だったのか?
しかし、口の中に残る胃酸と最低最悪の気分が、あれがただの幻ではなかったことを告げている。
「地元征服の準備はよろしいですか?」
・覚悟完了
・世界征服希望
もう一度「世界征服希望」を選択する勇気はない。
迷わず、緊急避難的に「覚悟完了」を選択する。
「それでは邪神復活プログラム【DNF】ミッションその1【地元征服】を開始してください」
こうして俺は再び地元征服に乗り出した。
すでに邪神様から親切丁寧なチュートリアルを受けていたため、地元征服のスタートは順風満帆だった。と言っても、ひたすら悪行コマンドを選択して悪行を重ねるだけで、さして労力がかかるわけではない。これまで三流ブラックゲーム会社で働いてきた身としては、とんでもなくホワイトな職場環境だ。
5種類ある悪行コマンド『非道』『冷徹』『狂暴』『狡猾』『妄執』を選択しながら、HP(体力)、物理攻撃、物理防御、特殊攻撃、特殊防御をバランスよくパワーアップしていく。
いずれ遠からず訪れるであろうバトルに備えて、新たなしもべを誘拐することも忘れない。誘拐してきた戦闘員の特徴に合わせて、特にHP(体力)、物理攻撃、物理防御を鍛えておく。三流でブラックとはいえ、曲がりなりにもゲーム会社でプログラマーをやっている身だ。このあたりのゲームのお作法はよく心得ている。
「にゃはははは。やるではないか、狂死狼。とても初めてのプレイだとは思えぬぞ」
さすがは我が選んだ使徒だと、邪神様はご満悦のご様子。
しかし、邪神様は知らない。
俺がシステムのナビゲーションに従わずにひたすら「世界征服希望」を選択した結果、【超絶修羅モード】へ突入し、阿鼻叫喚の地獄を味わってきたことを。
あれは何だったんだろう?
実はあれが邪神様の歩んできた道なんだとしたら、とてもじゃないけど俺には邪神は務まらない。せいぜい怪人で第二の人生を終えるのが精一杯だ。
あの【超絶修羅モード】に比べたら、地元征服なんてぬるま湯の天国みたいなものだ。
さて、ここで俺が地元征服のためにどんな悪事を働いたか紹介しておこう。
<悪行その1>
ブラック企業のトイレを詰まらせて大惨事を引き起こす。
<悪行その2>
セクハラ上司の犯行現場をSNSに投稿。社会的にキル。
<悪行その3>
ポイ捨て野郎に、いきなりバックドロップを決める。
<悪行その4>
詐欺師の自宅を突き止めて毎日ピンポンダッシュ。
……と、まあこんな感じで地道に悪行を重ねていった。
すると突然、「おめでとうございます。地元征服率10%を達成しました」という機械的な声が鳴り響いた。
え?
地元征服とはいえ、もう10%? いくらなんでも早くね?
「ふむふむ。順調に地元征服しているようだな。感心感心」
邪神復活の儀式が順調に進んでいることに邪神様は満足しているようだ。
大変結構なことだが、こんなことで本当に邪神になれるものなんだろうか疑問に思う。
「なあ、邪神様」
「なんだ、狂死狼?」
「なんで征服なんだ?」
「にゃ? どういう意味だ?」
「このデモンズナイトフィーバーって儀式は、邪神様の過去の追体験なんだろ? なんで、いちいち征服なんて面倒なことをしたんだ? どうせやるなら滅ぼせばいいのに」
「にゃはははは。物騒なやつだな。そんなに人類を滅ぼしたいのか?」
邪神様に物騒と言われると、よっぽど自分が頭のおかしなやつに思えてくるからやめてほしい。
「我は別に人類滅亡を願っていたわけではない。どうしようもないクズばかりの人類を徹底的に管理してやろうと考えたのだ。怪人として人類を征服し、恐怖で支配する。これが当時の我の目的だった」
あー。わかる。
たまにいるよね。悪には悪の正義がある的なやつ。
なるほど。邪神様はそのタイプの悪だったのか。
「ふーん。邪神様って意外と平和主義なんだな」
「にゃ!? 邪神であるこの我が平和主義だと? 戯言をぬかすでないわ……!!」
邪神様は真っ赤な顔をして否定したが、本当に人類がどうしようもないクズだと思っているのなら人類滅亡するのが一番シンプルだ。わざわざ管理するなんて、俺だったら面倒臭くて絶対にできない。
やっぱりこの邪神様、ちょっと普通とは違う気がする……。