キマイラ文庫

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デモンズナイトフィーバー

喜多山 浪漫

episode 13

 変わり果てた姿(戦隊ヒーローのイエロー)になった、かつての友ぴよちゃん。そのぴよちゃんが神のしもべとなって俺の前に現れた。

 ぴよちゃんは、いわば人質のようなもの。戦いにくい相手を用意して、邪神復活の儀式デモンズナイトフィーバーを阻止しようという神の魂胆だ。腹立たしいが効果は抜群。言うことを聞かないしもべたちがぴよちゃんを攻撃するのが心配で、しもべを戦闘に参加させずに単独行動を選択した俺は、格好の餌食となった。

 主人公レベルがまだまだ低い俺には、一人で敵を無双するなんて芸当は無理だった。敵の攻撃を一身に受け、見る見るうちにHP(体力)が削られていく。


「狂死狼よ。ぴよちゃんと戦いたくない気持ちはわかるが、貴様がキルされては元も子もないぞ」


「んなことわかってるよ! でも、このままじゃ……」


 残りのHPは1割程度になっている。あと一撃か二撃喰らったらジ・エンド。

 俺だってこのままやられるのは嫌だ。しかし、いかんせん回復手段がない。


「回復魔法とか回復アイテムとか存在しないのかよ、このゲーム……。とんだクソゲーだぜ」


「クソゲーとは失敬な。悪はチマチマと回復薬を使ったり、回復魔法で癒したりしないだけだ。ただし、回復手段はちゃんと用意してある」


「そうなのか? どうすれば回復できるんだ?」


「HPがなければ、しもべを食べればいいじゃない。」


「は?」


 マリー・アントワネット?

 パンが無ければケーキを食べればいいじゃない、みたいな?


「邪神流キルバトルの本質は、いかにしもべを利用するか、だ。HPがないなら、しもべからHPを吸収すればよい」


「悪っ! この人、悪っ!!」


「にゃはははは。我は邪神だからな。このぐらい当然だ」


「しもべからHPを吸収か……。なんか嫌だけど、このまま何もできずに終わってしまうよりかは……」


「迷っている暇はないぞ、狂死狼よ。すぐにしもべを召喚してHP吸収で回復。そして反撃に移るのだ」


「……わかったよ。ぴよちゃんを救う方法を見つけたいしな。このままやられるわけにはいかない。よし、やってやるよ」


 邪神様の助言に従い、俺はあらかじめ誘拐しておいたしもべたちを召喚。そのうちの1体からHPを吸収して、自身のHPを回復した。

 実際にしもべを食べるわけじゃなくて、エネルギーを吸い取る形式だったのが救いだ。ガチでしもべの血肉を喰らう的なやつだったら無理だった。このあたりは邪神様の配慮だろうか? とにかく、ありがたい。


 HPを回復して態勢を立て直したはいいが、ぴよちゃんが実質人質になっているため、形勢不利は変わらない。しもべたちが従順で俺の言うことを聞いてくれるなら戦いようもあるのだが、しもべたちは制御不能だ。しかも、勝手に動き回るだけならまだしも、ぴよちゃんを敵だと認識して攻撃し始める始末。勘弁してくれ。


「ぐっ! こいつら……! しもべのくせに勝手に動き回りやがって」


「狂死狼よ。邪神流キルバトルの本質をまだ理解しておらぬようだな」


「え?」


「貴様はしもべからHP吸収した。HP吸収されたしもべは、今どんな状態にある?」


「そりゃ、当然瀕死の状態だけど……」


「このままではどうせ神のしもべどもにキルされてしまう。どうせキルされてしまうぐらいなら……」


「そっか! 俺がキルしてキルスキルを発動させればいいのか!」


「そういうことだ。にゃははははは」


「HP吸収→キルスキルのコンボってわけか。悪いこと考えるなぁ、この人……」


 まあ、邪神なんだから当然ちゃあ当然なんだけど。

 邪神流キルバトルとか言っていたけど、その本質が少しずつ理解できてきた。要するにしもべを使い潰せばいいわけだ。キルしたしもべは、強くなって転生するって話だし、そう考えるとよく考えられたゲームサイクルだな。うん。

 これが夢か妄想かわかんないけど、現実に戻ったらこのシステムをパクって……いや、オマージュしてゲームを作るのもいいかもしれない。


 それからHP吸収→キルスキルの有用性を覚えた俺は、猿の如くHP吸収→キルスキルを連発して、神のしもべを一掃することに成功した。

 しかし――


「ぴよぴよ。ぴよぴよ……」


 敵勢力に属していたぴよちゃんも消えていく。

 ぴよちゃんとの二度目の別れ。ああ、涙が止まらない。


「俺にもっと力があれば、ぴよちゃんを救えたかもしれないのに……」


「泣くな、狂死狼。ぴよちゃんに戻るべき肉体がなくとも、その魂が消滅したわけではない」


「え……?」


「デモンズナイトフィーバーの輪廻に巻き込まれた以上、魂が消滅せぬ限り、また出会うこともある」


「そ、そうなのか……?」


 邪神様が、こくりと頷く。


「……わかった。いつかぴよちゃんを救うために、俺はもっと強くなるぞ。悪として」


 ぴよちゃんとの二度の別れの後、俺は強さを追い求めた。

 あんな思いをするのは、もう御免だ。だから強くなりたい。

 正義だとか勇気だとか、そんな真っ当な力を信じても意味がないことは中学のときに悟った。俺が信じるのは、もはや悪の力のみだ。

 そんな俺の決心を見透かしたように、アジトに戻った途端に邪神様が新たな機能を追加してくれた。


「狂死狼よ、まだまだ悪として未熟な貴様のために『強盗』コマンドを解放しておいたぞ」


 ニコニコしながら邪神様は言うが、強盗の二文字に不穏なイメージしか湧かない。

 己が頼るのは悪の力のみ宣言したばかりだけど、強盗て……。


「先程のような絶対に負けられないバトルでは、アイテムをじゃんじゃん活用して総力戦で挑むことをオススメする。そのアイテムを手に入れる手段が『強盗』なのだ」


 負けられないバトル。

 そうだ。これからも負けられないバトルが幾度となく俺の前に立ちふさがるだろう。

 乗り越えるには悪の力で、手段を選ばず、力ずくでも何でも勝つしかない。


「強盗の方法は簡単。コマンドをポチっと選択するだけだ」


「それだけ? 犯行予告したり、張り巡らされた罠をかいくぐったり、カーチェイスで逃亡したりしないのか?」


「しない。これはゲームだからな」


「ゲームだからこそ、どこぞの怪盗紳士みたいに華麗なる盗みをやってみたいんだけど……」


「つべこべ文句を言うな。諸事情あって時間短縮ためにあれやこれやは割愛しているのだ」


「時間短縮ねえ……もしかして、邪神様、焦ってる?」


「べ、別に焦ってなどおらぬ。一刻も早く邪神として復活したいだけだ」


「ふーん」


「ほれ。わかったら行動せぬか。さっさと地元征服を成し遂げて怪人を卒業、次なるステージへ行くぞ」