デモンズナイトフィーバー
喜多山 浪漫
episode 15
「おめでとうございます。地元征服率90%を達成しました」
秘密結社のアジトに機械的なアナウンスが響き渡る。
「フハハハハハ。これで地元はほぼ俺のもの……。って、言ってて情けなるほどショボいな」
「まあ、怪人だからな。しかし、ランクアップバトルに勝利すれば、悪として進化することができるぞ」
「ランクアップバトル?」
「さよう。怪人から次のランクへと進むための、いわば中ボス戦のようなものだ」
中ボス戦か。
なかなかドキドキワクワクさせてくれるじゃないか。
「ふーん。じゃあ、戦隊ヒーローのリーダーと戦うことになるのか?」
「我の過去をそのままたどった場合は、そうなる」
「な、なんだよ、邪神様。ずいぶん含みのある言い方じゃねえか」
「神のやつは唯一無二の至高の存在として君臨し、その威光を守るためなら手段を選ばぬ。我が怪人だったときは残念ながら最終的に神の使徒にキルされた」
へ?
キルされたってことは……。
「邪神様、死んじゃったの?」
「そうだ。だが、そのおかげで憎しみのエネルギーが増幅して次のランクに転生することができた」
邪神様の表情は苦々しげだ。
よっぽど酷い目に遭わされたのだろう。思い出したくもないといった様子だ。
「なーに、いくら追体験といってもキルされるところまで真似する必要ない。貴様は遠慮なく神の使徒をキルして勝利するがよい」
「うーん。そう言われてもなぁ……。邪神様が勝てなかったような相手に、喧嘩はからきしの俺が勝てるんだろうか?」
俺の不安に呼応するかのように、周囲の映像が乱れる。
邪神様いわく、この世界はゲームなのだ。
だから、俺が見ている風景はすべてCG(コンピュータグラフィック)で作られたもの。
その映像が何らかの障害によってバグのように乱れ始めた。
「おめでとうございます。地元征服率90%……あ戯ざXGま死た+:)kVジ&……」
無機質な声とともに周囲の映像が砂嵐のように乱れ、やがてブラックアウトした。
なんだ!?
また神のハッキングってやつか……?
何事かと戸惑っていると、真っ暗だったはずの空間が赤黒い夕暮れの風景に変わる。
んん?
どこだ、ここは……?
知らない街だ。路地裏のようだが……。
「にゃーご」
振り向くと、そこには一匹の黒猫がいた。
静かな光を湛えた瞳でこちらをじっと見つめている。
「にゃーご」
黒猫がもう一度鳴き声を上げたと思った瞬間、目の前が真っ赤になった。
「うわっ! なんだこりゃ!?」
目に何か入った。
慌てて目をこする。
何度か瞬きすると、少しずつ視界が戻っていく。
こすった手を見ると、真っ赤に染まっている。
ドクンと心臓が大きく鼓動を打つ。
激しい動悸。息が詰まる。
恐る恐る黒猫のほうを見ると、首を失った黒猫が相変わらず俺のほうを見ていた。
「にゃーご」
首の無い黒猫が変わらぬ鳴き声を発した。
「うわぁあぁああああぁあああ!!?」
……気が狂いそうになるほどの恐怖を味わった直後、脂汗にまみれた俺は自分が秘密基地のアジトに立っていることに気が付いた。
何だったんだ、今のは?
夢……? 幻覚……?
「にゃ? どうしたのだ、狂死狼よ。顔色がすぐれぬぞ」
「いや、今……。なんか変な映像が……」
「………Hなやつか?」
「ちげーよ!!」
どうやら先程の映像は邪神様には見えなかったらしい。
「ふむ。また神のやつがハッキングしてきたか」
「そうなのか……?」
神のハッキングだったら、ぴよちゃんのときみたいに邪神様にも見えてなきゃおかしいと思うんだけどな……。
ま、この世界はおかしなことだらけだし、いちいち気にしても始まらないか。
嫌なことはさっさと記憶から消し去って次に進む。中2のときに透明人間扱いされて以来、ずっとぼっちで生きてきた俺の生存戦略の一つだ。
俺は頭をぶるぶると振るわせて不要な記憶を振り払った。
さあ、お次はお待ちかねのランクアップバトルだ。