デモンズナイトフィーバー
喜多山 浪漫
episode 16
かつて邪神様が敗れたほど困難な戦い。それがランクアップバトルだ。
邪神復活の儀式デモンズナイトフィーバー怪人編の締めくくりであり、怪人にとってのラスボス戦とも言える。
RPGをプレイするときはしっかりレベル上げをして、装備を整えてからしかボス戦に挑まない慎重派の俺は、当然のように充分過ぎるほどの悪徳ポイントを貯めてからランクアップバトルに挑戦することに決めた。決して、問題を先送りしたわけでも、俺がビビりなわけでもない。
しかし、そろそろ怪人編のタイムリミットだぞ、と邪神様からしつこくせっつかれ、しぶしぶランクアップバトルに突入する羽目になったのだ。どうやらタイムリミットまでにクリアしないとゲームオーバーになるらしい。一方、タイムリミットよりも早くクリアすれば、うれしい報酬(アチーブメント)も用意されているというから、本当にまんまゲームをしているみたいな気分になる。
「おめでとうございます。地元征服率100%を達成しました。これよりランクアップバトルを開始します」
機械的な音声が俺を祝福する。
これから始まるであろう激闘を思えば、何もめでたくなんてないのだが。
周囲の景色が一瞬にして秘密結社のアジトから、高層ビルの屋上らしき場所に変化する。いちいち移動しなくていいのは助かるけど、目まぐるしく変化する世界にちょっと気持ちがついていかない。
目の前にはすでに戦隊ヒーローたちが待ち構えている。
ブルー。グリーン。イエロー。ピンク。
あれ……?
一色足りないぞ。リーダーのレッド不在では戦隊ヒーローが成立しないではないか。
「とうっ!!」
不審に思っていると、気合の掛け声とともに赤い何かがどこからともなく降ってきた。
そいつは、いわゆるスーパーヒーロー着地を決めると、意志の強そうな瞳でキッと俺のほうをにらみつけて指さす。
「見つけたわよ、邪神の使徒め!!」
そいつは女だった。
しかも見覚えがあるどころか、あの隕石らしき物体に衝突する直前まで見ていた、あの世界的スター、釈迦堂マリアその人だった。
「ぶほっ!? しゃ、釈迦堂!? しかも、中学時代の……!?」
そうなのだ。釈迦堂は俺と同じく、なぜか中学時代の姿をしている。これは一体全体、どういうことなんだ? まさか釈迦堂まで精神年齢が中学で止まっているなんてことはないよな……?
「どうした、狂死狼よ。やつを知っているのか?」
「いや、知っているっていうか、その……」
邪神様がしどろもどろになっている俺を見てピーンときたみたいな顔をして、ほくそ笑む。
「ははーん。神のやつめ、そう来たか」
何を想像しているのかわかるけど、そういうんじゃないぞ、絶対に。
「邪神およびその使徒に告ぐ! 今から退治してあげるから覚悟しなさい!」
俺は釈迦堂に気づいているが、釈迦堂のほうは俺にまったく気づいていないようだ。
そりゃそうだ。こんな姿だし、長いこと会ってないし、中2のときにちょこっと一緒だったぐらいの陰キャの俺のことなんて覚えなくて当然だよな。
第一、相手は世界に名だたるハリウッドスター様だ。俺のような岩の裏でこそこそと蠢いているダンゴムシとは身分が違う。
「さあ、いくわよ! 変・身!!」
圧倒的格差の前に卑屈になっている俺のことなどお構いなしに、本物の戦隊ヒーローよろしく、釈迦堂がノリノリでブルー、グリーン、イエロー、ピンクと一緒にポージングを決める。
「五人そろって神戦隊ゴッドレンジャー!!」
決めポーズの後は、ゴッドレンジャーを名乗る戦隊ヒーローたちの背後がなぜか爆発する。戦隊ものの定番演出である。
「神め……。なんだかヤバそうな女を使徒に選びおったな」
このノリについていけずにいるのか、邪神様が若干引いている。
「あいつは釈迦堂マリア。今じゃ誰もが憧れるハリウッドスターとして世界をまたにかけて活躍している。……けど、あんなにノリノリで戦隊ヒーローになりきるようなイカレたやつだっけな……???」
俺の知っている中学時代の釈迦堂は、真面目で融通が利かないぐらいの委員長キャラだったんだが。
「貴様もノリノリで怪人になりきって悪にイカレているのだから、精神年齢似た者同士でお似合いではないか」
不意に放たれた「お似合い」という言葉にドキッとする。嬉しいからなのか、不釣り合いだと自覚しているからなのか、この胸の痛みの理由を自己分析できない。
「神があの釈迦堂とかいう女を選んだのも貴様の心を揺さぶるため……。そして、その狙いは見事的中したようだな」
「な、何わけわかんねえこと言ってんだよ! た、確かにあいつとは中学の同級生だし、すんげー美人で押しも押されぬ世界的大スターだけど……。そんなことで心を揺さぶられる俺じゃない! 悪に愛などいらぬ!!」
「にゃははははは。誰も愛とは言っておらぬが?」
「あ」
うん。確かに。
何言ってんだろ、俺。
愛? 何それ?
意味がわからない。
そんなもの、誰に対しても期待していないはずだろ、俺は。
「狂死狼よ。愛がないとぬかすならば、あの女を躊躇することなくキルしてみせよ」
!!!!?
「ちょっと待て。それは極論じゃねえのか?」
「そんなことはない。あの女は怪人編のラスボスだ。キルしないことにはデモンズナイトフィーバー怪人編をクリアできないぞ」
「マジか。釈迦堂をキルしろってのかよ……」
これが夢でも現実でも、悪夢に違いない。
だが、少なくともこれは俺の妄想ではなさそうだ。いくら妄想でも俺が釈迦堂をキルしたいなんて思うはずがない。
「この世に悪の栄えたためしはない! 邪神の使徒よ! 覚悟なさい! 今からあなたをキルします!!」
俺が釈迦堂をキルすることに葛藤を覚えているっていうのに、釈迦堂のほうは高らかに俺をキルすると宣言する。
「ほへ!? 俺、キルされちゃうの!?」
「ほれ。相手は殺る気まんまん。キルせねば、キルされるぞ。どうする、狂死狼よ? にゃははははは」
邪神様の高笑いが、葛藤し混乱する頭の中でグルグルと回転する。
ああ、頭がおかしくなりそうだ。
こうして邪神復活の儀式デモンズナイトフィーバーに巻き込まれた俺と釈迦堂は、現実か妄想なのかもわからないまま、終わりのないキルゲームのプレイヤーとなったのだった。
これは俺と邪神様と釈迦堂の『アク』の物語――
➡ゲーム版『デモンズナイトフィーバー』へ続く
さて。
小説版『デモンズナイトフィーバー』、お楽しみいただけましたでしょうか。
<はじめに>で申し上げた通り、小説版とゲーム版では内容にそれなりの差異があります。ゲームではセリフのみで構成される物語も、小説では地の文たっぷりで主人公・邪龍院狂死狼の心情を描いています。本作は体験版的な位置づけではありますが、ゲームを遊んだ後にセリフとセリフの間にある心の動きを楽しんでいただくことができます。
また、小説版ではキルスキルのコンボが発動しますが、ゲーム版では検討の結果、オミットしました。SRPGとしての面白さやゲームバランスなどを総合的に加味した結論です。
このように小説には小説ならではの面白さ、ゲームにはゲームならではの面白さをご用意しています。最終的にはデモンズナイトフィーバーの世界すべてをしゃぶりつくしていただければ、これに勝る喜びはございません。
喜多山浪漫