魔法捜査官
喜多山 浪漫
第1話
『Serial killer(連続殺人鬼)』<1>
この物語はフィクションです。
登場する人物、名称、団体等はすべて架空のものです。
……そう言い切れるなら、どれだけいいだろうか。
残念ながら、この物語には少なからず真実が含まれている――
東京は世田谷区。閑静な住宅街で殺人事件が発生。
これが僕、風馬駿(かざま しゅん)の異動後、初の任務となる。
本当に、僕に務まるんだろうか?
ただならぬ現場の気配に、つい弱気が出てしまう。
いかんいかん。新米でもあるまいし。
僕は、現在27歳。童顔が災いして、いつも年下に見られている。この商売、年下に見られて得することはほぼない。
肩書きだけは、すでに警部補。キャリア入庁すると自動的に警部補からのスタートになる。そんな制度に違和感を覚えるが、お国が決めたことなのでどうしようもない。
それはともかくとして、警視庁捜査一課は早々とこの事件を、近頃世間を騒がせている連続殺人鬼(シリアルキラー)の犯行と断定した。
現場周辺はただちに広範囲にわたって封鎖され、野次馬もマスコミさえも、いまだ捕まらぬ連続殺人鬼の次のターゲットになることを恐れ、現場に近づこうとしない。
夕食時だというのに住宅街は異様に静まり返っている。近隣住民は、みな家に閉じこもり震えているのだろう。
国民の安全安心を担う警察官としては、何としてもこの事件を早期に解決せねばならないという思いが湧き上がってくる。
しかし、一番の問題――
僕の弱気の原因は、被疑者が『魔法使い』だということだ。
「おや? 緊張しておられるのですか、捜査官殿。こういうときはスマイル、スマイルですよ」
この場にふさわしくない満面の笑みをたずさえ、黒縁メガネの優男が声をかけてくる。
彼の名はアルペジオ。この事件を一緒に担当する僕の相棒だ。
警視庁捜査一課、魔法犯罪捜査係。それが僕たちの所属する部署だ。
アルペジオという名前は、もちろん本名ではない。コードネームだ。彼もまた被疑者と同じく、魔法使いである。要するに毒を以って毒を制す。怪物を退治するためには怪物を、というわけである。
そして、僕は不幸にもその怪物たちを指揮し、怪物たちを捕縛または殺処分する任務を帯びた警察官――『魔法捜査官』になってしまったのだ。