アオハルクエスト
ヤマモト ユウスケ
一章
地竜戦(6)
食費を抑えるんです、と木蓮は続けた。
「現在、食料はすべて【物資創造/リソースクラフト】で購入しています」
購買部職員、化け狸のスキルだ。創造とは書いてあるが、SPを消費する都合、交換、あるいは購入という方が正しい。
そのおかげで地球と変わらない――わけではないが、日常に大きなダメージを負うこと無く生活できている。
「これの一部でも自給自足で賄えれば、相当な節約になります。ゆえに、開墾による田畑の新設を必要としているわけですね」
「え、でも校内にも畑ってあるよね。ビニールハウスも」
輝木の会話は、いつも純粋でまっすぐだ。疑問に思う。それを口にして問う。迷いや逡巡が無い。何故か木蓮によく話しかけてくるし、そうする時は顔が至近距離にあって緊張するが、そういう性格なのだろう。勘違いしてはいけない。うむ。
「はい、あります。園芸部やガーデニングクラブが管理しているものですね。ただ、あれらは部活動のためのものであって、全校の食を支えられるほどの規模はありません。園芸部の皆さん、家庭科部連合、社会科教員等の協力を得てシミュレーションしましたが、畑とビニールハウスに加え、校内の花壇すべてを潰して農地に転用しても、食材全体の1パーセントにも満たないという計算でした」
園芸系はドライアド、|木霊《こだま》など植物に関する種族に変異している。彼らのスキルは植物に関するもので、成長促進による短期収穫なども可能だが、それらを加味した上での数字である。
「ぜんぜん足りないじゃん」
「そう、ぜんぜん足りないんです。農地が分散して非効率的なんですよね。作るならグラウンドのような一定の広さのある土地ですが、しかし、農地転用は難しいでしょうね。あれらの場所は現在、訓練場として活用していますし、たとえ校内すべてのグラウンドを潰して畑にしても、やっぱり足りないんです」
生徒会長が「あと、グラウンドを畑にしたらブチギレて暴動を起こしそうな野球部の女子マネもいるしな」と茶々を入れた。失言ですよ、と思う。
「なので、やるなら校外。ジャングルを切り開いて開墾したいんです。加えて、水源も見つけられれば、SPに頼らない自給自足を目指せます。……結構な時間がかかるでしょうけどね」
なるほどー、と輝木が手を打った。
「ご飯のためなんだね! それじゃ、有用な資材の捜索っていうのは?」
「節約とは逆のアプローチ、新規SPの獲得ですね。我々は物資をSPに返還することで新規SPを獲得していますが、防衛で得た魔獣の素材だけでは、あまり稼げません。だから、高効率でSPと交換できるオブジェクトを捜索したいんです」
そして、結論を言えば。
「何にしても、我々は校外での活動から、生活の活路を見いださなければなりません。そのためにも地竜が邪魔だ、というわけですね」
話が繋がった。
●
なるほどなるほど、と輝木は頷く。
そして、言う。
「じゃあ、地竜は私がドカンと倒してあげるよ! 任せちゃって!」
会議室が、しん、と静まった。
ふむ、と武田権太郎は吐息をこぼす。
(美術系の文化部が、大きく出るのであるな……!)
もちろん、もう文化系の部活だからどうの、とは考えない。頼もしい生徒達がいると知っている。が、しかし、適材適所で言えば、戦闘は体育会系の管轄で、文化部はサポートが主だろうとも思っているし、それらの協力をこそ理想としていた。
だから、武田は手を挙げる。
「体育会の代表、武田権太郎が問うのである。輝木殿、具体的にどう倒すつもりであるか? 地竜は巨大で強靱、ある程度戦闘慣れした体育会系の護衛隊が蹴散らされた相手である。無策であれば単なる無謀、当然、見逃せん」
「はい! おっけーです。まず――わかりやすく説明するけど、この輝木まろん、ゴーレムって種族なんだよね!」
ゴーレム。一万人、数百種類いる晴天学園の種族の中でも特に珍しい一種だと記憶している。
体育会系は各種獣人種や巨人、ビッグフットなどの、肉体的に強靱な種族に変異した。
対して、文化会系は、それこそ高円円のブラウニーのような、フィジカル的には貧弱な種族が大半である。その例に漏れず、武田には、球体関節の輝木がひどく脆そうに見えるが、彼女は自信満々に言葉を続ける。
「ゴーレムの本体、核は小さな球体なんだよね。この体は、核が動かす外殻に過ぎないの。基本的には食べたものを内部で再構成して肉体にするから、関節部とかは骨や角質をベースにした球体関節だけど、大部分が人間と同じなんだよ」
そして、と輝木まろんは言葉を紡ぎながら、右拳を緩く掲げた。
「私達ゴーレムは、肉体を欠損しても、核を損壊されない限り、死なない……つまり隔離結界送りにならないのです! すごい! しかも、肉や野菜を補充すれば元のボディの復元も可能だし――改造も可能なの。【エメスシェイプ/未完成造形術】――」
がしょんっ、と音を立てて、輝木の右腕が|変形《・・》した。前腕部が雨傘の骨のように開き、内部から金属製の鋭い杭が露出している。
おお、と会議室がどよめいた。
「私達、補充する物質は、何でもいいの。今日の私の右手は、廃品の傘と校舎裏の廃棄机の金属パーツで作った武器。これ、かなり戦闘向きだと思うけど、どうですか先輩!」
「ふむ。しかし、輝木殿。武器がある、というだけでは、まだ太刀打ちできないと思うのであるが」
「もちろん、これだけじゃなくて――」
輝木まろんは、屈託無く笑った。
「私、実はもうACEスキル使えるんだよね! 青春してるから!」
会議室が、また静まりかえった。
ややあって、生徒会長が小さな手を挙げた。
「それは……いつ、覚醒したのかね?」
「二日目です!」
「二日目? いつから数えて二日目なのかな」
「この世界に来た日です!」
「そうか、そうか。なるほど」
生徒会長が嘆息して、それから全員が息を合わせて、
「「「じゃあそれもっと早く言えよ!」」」
ちょっとキレた。
●
作戦の決行は、五日後と決まった。