アオハルクエスト
ヤマモト ユウスケ
一章
出陣(2)
武田権太郎は、率先して道の作成、及びレイド対応に当たった。
樹木を切り倒し、地面を平らにして道を作る。それだけの工程だが、手順はかなり多い。樹木の枝を払い、倒す方向を計算して斧を打ち込み、倒した樹木を移動させ、切り株を引っこ抜いてまた移動させ、穴を埋めて草を刈り、大きな石を移動させ、土を盛ったり減らしたりして、最後にタンパーで叩いて均し……と、数メートル進むだけで大変な労力がかかる。
オヤシロの正確な位置は特定済みだ。外壁から約五キロメートルの距離にある。意外と近いものの、うっそうとしたジャングルによって位置関係が掴めず、把握できていなかったのである。
測量は空中から行われた。飛行可能な種族もいたため、以前から提案自体はあったものの、巨鳥型魔獣の襲撃を受けた場合、なすすべなく攻撃されてしまう可能性もあり、見送られていた。
だが、今回は『野球部のエース斉藤を、測量技術を持つ登山部等の部員と共に、副会長のサイコキネシスの足場に乗せて空に上げる』という兼光発案の奇策で測量が実行された。
巨鳥型魔獣は遠目に散見されたものの、襲撃されることはなかった。学園長の【晴天領域/スクールリング】の効果範囲は空まで及んでいる可能性も示唆されたが、まったく襲われないわけではない。この手の測量は最後の手段とされた。
そうして、五キロメートルの道路工事を一週間に詰め込んでやることになったわけだが、当然、疲労の色は濃い。四六時中、魔獣のレイドも受ける。初日の進行は一〇〇メートル以下だった。
これではいけない……と判断され、生徒会長及び学園長協議の下、ある人材が派遣された。
「いやぁ……怖いなぁ……」
ワイシャツとスラックスを着た、狸耳の成人男性――化け狸の教職員である。
隔離結界に入れないため、校舎外での活動は最低限と位置づけられていたが、彼らの投入によって作業効率は革新的に向上した。
護衛を付けて安全を確保し、いつでも校舎側に逃げ帰れるような場所に限定して、ではあるが、現地で【物資創造/リソースクラフト】を使用できるのは非常に意味が大きい。
邪魔で仕方ない木々や石を、そのスキルでSPに変換出来てしまうのだ。
生えた状態の樹木には使用できないが、切り倒した樹木、引っこ抜いた切り株、石や刈った後の草などには使用出来る。それらを片付ける労力が全てなくなったことで、数倍の速度を獲得できた。
また、現地でSPを麻袋に交換し、現地での土嚢作成が可能になったのも大きい。これはボランティア部の発想だった。
土嚢を積み上げて土をかぶせ、タンパーで叩くと簡易的な舗装になるのである。作業の速度も質も、大幅に向上した。
道の脇に高めに積み上げることで防壁にもなり、一石二鳥だった。
黒皮の狼やトカゲを殴り倒しながら、獣人種族、亜人種族、妖怪種族の強靱な肉体を活かして|工事《・・》を進める。四時間ごとに交代で校舎に戻り、合計十二時間の休息。その後、また工事に戻る。
気が滅入りそうな生活だが、癒やしはある。
メシだ。
「大盤振る舞いですよぉー!」
家庭科部連合事務総長、高円円が率いる大食堂の臨時炊事部隊もまた、昼夜を問わず従事していた。
権太郎は休息のたびに大食堂を訪れて、
「円殿。今日は何であるか」
「いらっしゃい、権太郎君。今日は親子丼ですよぉ。特盛りにしておきますねぇ。紅ショウガはお好きですぅ? じゃあそれも大盛りにしておきますねぇ、えへへ」
高円円と、軽く談笑するのが一連の流れとなっていた。
体育会の代表でありACEスキルを得ている権太郎は、緊急事態のたびに起こされたし、場合によっては地竜との戦闘もあった。
食事の時間すらも不定期なのだが、不思議なことに、権太郎が行くと必ず円が対応してくれた。
「円殿はちゃんと寝ているのであるか?」
「え? 寝てますよぉ、ちゃんと」
「本当であるか? いつも大食堂にいる気がするが……」
「あっ、あー……偶然ですよぉ、偶然。まあ大食堂の仮眠室に控えてますしぃ、すぐ出てこられるから、一応、教えてもらえるようにはしてますけどぉ……」
円は少し赤面して、目を逸らしつつ何か呟いた。
「なるほど、偶然であるか。とはいえ、無理はなさらぬように」
「権太郎君も、ですよぉ」
微笑み合うと、なぜか周囲から舌打ちが複数聞こえてきた。
(……ふむ。みなストレスが溜まって、些細なことでいらついてしまうのであろう。早くオヤシロ攻略を終わらせたいものであるな……!)
武田権太郎は、そう決意を新たにした。
●
野球部は、主に防衛戦力だ。
余剰戦力を道路工事の護衛及びレイド対応に充ててはいるが、ポジションを動かせない戦力も存在する。
「俺ら、暇だよなー」
対空戦力の斉藤である。
オヤシロ攻略が始まっても、いつもと変わらず、野球部の部室に詰めて巨鳥の襲来に備えていた。
「……オヤシロ、何があるんだろうな」
「地球に帰るための、何かがあるといいんですが」
タブレットを操作中の桐野からそう返ってきて、斉藤はにんまりと笑った。
「早く帰りたいよな。そしたら桐野とイチャイチャ出来るし」
「出来ません。甲子園が先です」
「お。そんじゃ、後なら良いんだな? イチャイチャしても」
「……知りません」
顔を背けられた。
野球部部長、小林はそんな二人を半目で見て、
「あーあ。俺もオヤシロ攻略側に回ろうかな……」
嘆息し、ぼやいた。
●
そして――五日目。
オヤシロ攻略部隊は、開けた場所を目視出来る位置まで辿り着いた。
「うーむ」
と、双眼鏡を構えた兼光が唸る。
朱塗りの社は、体育館一つ分ほどと、それなりの大きさだ。周囲、直径一〇〇メートルほどの範囲に玉砂利が敷かれ、あたかも結界のようになっている。
玉砂利の範囲には地竜型、巨鳥型などの魔獣が数頭たむろし、獅子型の黒い魔獣もいる。それらは、こちらを認識してはいるようだが、襲ってくる様子はない。
おそらく、オヤシロを守護しているのだろう。
『兼光。目視したか。……獅子はどうだ?』
生徒会長からの念話が繋がっている。
兼光自らが最前線まで出張ってきたのは、戦地を確認するためだった。
『目視確認済み。獅子は地竜より一回りは小さいですが、生物としては十二分にデカいであります。あと、また一段階、テクスチャーが細かくなっているように見受けられるのでありますな』
『地竜以上か。厄介だな』
ある仮説があった。
“表皮のテクスチャーが細かい魔獣ほど強い”という仮説だ。
のっぺりとした黒皮の狼型に比べ、地竜型は表皮の生物感が増していた。巨鳥型もまたそうだった。
その理屈でいくと、黒獅子は地竜以上の脅威と考えられる。
『とはいえ、獅子型は一頭。地竜も目視範囲では四頭。何とでもなりましょうな』
『そうかね?』
『ええ。こちらは体育会、文化会合わせて有効戦力が二千人以上いるのであります。防衛隊から人手を回せば、さらに五百人以上は確保できます』
『物量差で押し潰す、というわけか』
『で、あります』
兼光雅美は、にやりと笑った。
『武田閣下と輝木殿までいるのであります。負ける要素がありませんな!』
『それフラグじゃないか……?』