アオハルクエスト
ヤマモト ユウスケ
一章
エピローグ
数日後。
オヤシロを攻略したことで、晴天学園にはいくつかの変化があった。
ひとつは、降って湧いた五億SPによって、ある種の特需が発生したことだ。
ギルド委員会はさらに活発化し、文化祭と体育祭が同時に来たようなお祭りは続くことになった。コールドスリーププランは先送りされたままとなった。
そして、二つ目は。
「――生徒手帳。表記のノイズが低減され、読める範囲が大幅に増えた。さらに、私がオヤシロに触れた際に聞いた言葉も込みで考えると……」
大会議室。長机の上のクッションを置いて、その上に鎮座しているのは、マスコットサイズの黒揚羽聖十郎である。
情報共有のための会議の真っ最中であった。
「オヤシロは、|女神《・・》が用意した、我々に対する支援リソースなのだろう。生徒手帳には、ほかにも多数あると記されている。攻略のたびに数億単位のSPを手に入れることが出来るだろう。これで、我々の生活は延命された。喜ばしいな、諸君」
ほう、と、そこかしこから安堵の息が漏れる。
そこで会計の木蓮が「ですが」と声を上げた。
「逆に言えば、我々はオヤシロを発見し、攻略し続けない限り、たやすく息切れしてしまうんです。五億SPって、節制していても一ヶ月半くらいしかもちませんからね。今のお祭りペースなら、半月から一ヶ月ってところでしょうか」
「その通りだムッツリ会計。依然として晴天学園は火の車、コールドスリープ一歩手前、すぐにでも次のオヤシロを見つけねばならんわけだが……今日は情報共有が議題だからな。そちらの探索手法や提案については一旦置いて、生徒手帳の確認に戻るとしよう」
黒揚羽聖十郎は、ミニサイズの生徒手帳を振って示した。
「今回、読めるようになった一つの単語。今も言ったが、これがキモだと私は考えている」
その単語は、
「――“女神”だ。赤で二重線を引くべき単語だな。生徒手帳の記述から察するに、どうやら魔獣を生んだのは女神だという。しかし――オヤシロを用意しているのも女神だ。これはどういうことだろうな?」
会議室は、静かだ。だが、無言なのではない。誰もが、思考を巡らせている。
転移直後の会議は白熱したが、今日はまた違う熱があるな――と、聖十郎は思う。混乱と困惑の中で生まれた摩擦の熱ではない。
確固たる意思で薪をくべた、燃えさかる焚き火の熱だ。
「女神は支援リソースとしてオヤシロを用意しているのに、女神は我々を魔獣で妨害もするらしい。意図が分からん」
学園長、皐月ガブリエルが手を挙げた。
「ゲームマスターがキャラクターにゲームをさせたいだけ、ということじゃないかしら。女神が文字通りのものであるならば、それは超越存在だということ。推し量ることは不可能かもしれないわよ?」
「だとしても、推量が不可能だと断定できるまでは考え続けるべきだろう。何にしても不可解だが、今すぐ答えが出るものでもあるまい。各自、心に留め置いて、考え続けてくれ。……せっかくだ、学園長。あなたのニュースについても触れよう」
皐月ガブリエルを手で示す。
「――これは明確に良いニュースだがね。オヤシロを中心とした一帯が、学園長の掌握する|校区《・・》となった。【晴天領域/スクールリング】の対象になったのだ。魔獣の襲撃が大きく減るだろう。あのジャングル一帯が、だ。これが何を意味するか、わかるかね?」
真っ先に手を挙げたのは、唇の端を釣り上げて笑うレプラコーンだ。
「余剰の土地が生まれた、ちゅうことか。ほんなら……畑やな?」
「その通りだ、平岩。開拓をやる。我々はこの地に道を拓き、防壁を建て、畑を耕して実りを得る。そして、またオヤシロを見つけて攻略し、学園そのものを拡大、増築させていくのだ。そうすることで、我々は生き続けられる。戦い、勝ち取り、進み続ける限り、我々の青春は続く――というわけだ」
「では、次のオヤシロの場所のアタリはついているのであるか」
武田権太郎が挙手して問うてきた。
聖十郎は頷く。
「無論――まったくアテはない。だが、不信任決議のときとは違う。ヒントはないが、オヤシロにさえ辿り着けばいいという、わかりやすい基準もある。各方向への調査を行う予定ではあるが、ひとまず――」
黒揚羽聖十郎は、にやりと笑った。
「――私が会話した黒い人影。あれが指さした方向に進んでみようと思っている」
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