キマイラ文庫

アオハルクエスト

ヤマモト ユウスケ

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目次

アオハルクエスト

ヤマモト ユウスケ

一章

黒獅子(2)


 餅川麗依は聞いた。耳をつんざく音を。悲鳴に似た咆哮を。

 大気を引き裂くように、力が走った。

 黒獅子が口から吐き出したものは、咆哮ではない。

 渦巻く黒い力の奔流を孕んだ、砲撃であった。


 音が止んだ後、そこには体が半壊した輝木まろんの巨像が残っていた。

 土と木で形成された瞳には力がなく、ただ、ぼろぼろと崩れ落ちている。

 薙ぎ払うように放たれた獅子吼。巻き込まれた地竜が二頭、体側を削られて地面に倒れた。骨が見えるほど、肉が抉られている。


「……武田センパイ、いるか!?」


 答えはない。

 餅川麗依は舌打ちをして、ゆっくりと立ち上がった。


「内部から、咆哮で削って抉ったんだ。そういう音だった。アタシの音圧砲にちょっと似てるが、威力は向こうの方が遙かに上だな」


 ギターの土を払い、軽く鳴らす。抱えたまま転がってしまったが、チューニングは問題ない。

 黒獅子はこちらを見据えている。


(今の攻撃。連発は……、さすがに出来ないでいてくれると嬉しいんだが)


 ん、ん、と喉の調子を確かめる。

 地竜は二頭とも死んだ。黒狼も黒蜥蜴も、黒獅子の獅子吼によって粉砕され、群れの大半が吹き飛ばされている。

 ――また、玉砂利の範囲にいた生徒達も、そのほとんどが……いない。


「黒揚羽生徒会長。聞こえているよな?」


 仕切り直し――だが、戦況はすこぶる悪い。

 誰かが悲鳴を上げた。連鎖して、また誰かが大声を上げる。足並みが崩れて、バラバラに――逃走が始まっている。


『無事か、餅川!』

「武田センパイと輝木センパイが落ちた。黒獅子は口から竜巻ビームを吐く。現場は恐慌状態。敗走……潰走かな。そんな感じだ」


 端的に。広報として、事実だけを伝える。


「じゃ、何秒か稼ぐから。後は頼むぜ、大将」

『――了解した。任せておけ、広報』


 ふ、と笑って【音響怒声/デシベルシャウト】を発動。

 ギターをかき鳴らし、麗依は渾身のロックを黒獅子にぶち込んだ。


 ●


 黒揚羽聖十郎は、即座に判断した。


「――直接、現場を見ながら撤退を指示する! 兼光、本部は任せたぞ。私に何かあったら平岩を代わりに立てろ。……如月院副会長、頼む」

「はい、黒揚羽生徒会長。最速で行きます」


 何かを言いかけた兼光の返事を待つことなく、真理愛の校章陣が足下に展開。聖十郎は真理愛の腕に抱かれたまま、空に飛び出した。

 空を飛びながら、眼下に念話を放つ。


『諸君、聞け! 静かにせい! 静かにせい! 学校は逃げん! 押したり蹴ったりせずに退避せよ! まだ怪我のないもの、体力のあるものは怪我人を運べ! 体躯の差を忘れるなよ、獣人、亜人は小さな種族を潰さぬように気をつけろ!』


 思えば、初日もこうだった。

 空を飛びながら、目に映る範囲全てに声を投げかけ、混乱を鎮めて――。

 ふと、気づく。


「ずいぶん遠くに来た、と思っていたがね。異世界に来てから、我らが学校を出るのはコレが初めてか」

「そうなりますね。外壁付近での戦闘指示はありましたけれど」


 そうか、と頷く。


『――諸君! 落ち着きたまえ! 私はすぐそばにいる! 空から貴様らを見ているとも! そして――まだ、戦える者はいるかね!?』


 笑うように、語りかける。

 すでに輝木が落ちた。武田も落ちた。餅川も、おそらく。

 だが、それでも――。


『戦える者は笑って前に進め! 戦えない者も笑って下がれ! 暴君、黒揚羽聖十郎が命じる! 笑え! 少年漫画の主人公みたいにな! 勇姿も無様も、全て私が見届けてやる!』


 一息入れて、演説を打つ。


『それが、私に出来ることの全てだ! 見守り、語りかけ、命じること! 喚き続けることしか出来ない、矮小な妖精の身だ! だが――いつも、諸君のそばにいる! 諸君が嫌がっても、そばから離れてやらんぞ!』


 だから、行こう。

 ぎゅ、と己を抱く腕に力が入った。


「私も、そばにおります、黒揚羽生徒会長。そして――」


 如月院副会長が、言う。


「――そばにいるよ、聖十郎君」


 如月院真理愛が、言うのだ。


「聖十郎君は、私が見守って、語りかけて、命じてあげる」


 ああ、と頷く。


(その通りだ。その通りだとも――真理愛)


 陳腐なことこそ、言葉にしよう。


「我らは共にいる。共にいて、共に行こう。真理愛――お前が好きだ」

「ええ、私も――聖十郎君が大好きです」


 黒揚羽聖十郎の青春とは、つまり、ずっとそれの繰り返しだ。

 言葉で攻め、言葉で守り。

 言葉で燃やし、言葉で燃やされ。

 言葉で寄り添い、言葉で癒やす。


 全てが、言葉。


 伝わっても受け入れられるかどうか、いや、そもそも伝わるかどうかさえ分からないけれど、それでも、言葉を届けることだけはやめなかった。


『――諸君、何度でも言うぞ! 私がそばにいる! それが、私のマニフェストなのだからな!!』


 それこそが、黒揚羽聖十郎の政治なのだから。


 ●


 ――魂の輝きが一定値を突破いたしました。ACE認定を行います。


 【念話魔法/テレパシー】

 【聖十郎宣言/タイラント・マニフェスト:ACE】


 ――今後も皆様の奮闘を遠く地球よりお祈りしております。