キマイラ文庫

魔法捜査官

喜多山 浪漫

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目次

魔法捜査官

喜多山 浪漫

第3話

『Grimoire(魔導書)』<2>

 出動要請の一報から5分と経たず、担当の捜査官と魔法使いが竜崎係長の指示によって招集された。捜査官はわかるとしても、魔法使いは厳重な管理下にある。このスピード感で招集に応じられるのは、日頃からの周到な根回しの成果だろうか。捜査一課の敏腕刑事としてたたき上げてきた竜崎係長の頼みを断れる人物は少ない。信頼と実績というのもあるが、竜崎係長の圧(プレッシャー)によるところが大きいと僕は睨んでいる。だって見てよ、ほら。あの猛禽のような鋭い目つき。良く言っても殺し屋にしか見えない。


「聞いての通りだ。ただちに現場へ急行しろ。これ以上、犠牲者を出すんじゃない。絶対にだ。いいな、お前たち?」


 いいも悪いもない。

 そんな目つきで凄まれたら、答えは「はい」か「Yes」か「はい喜んで」しかない。

 僕の隣には魔法使いアルペジオがいる。彼は竜崎係長と旧知の間柄らしく、そのせいか凄まれてもどこ吹く風。いつもの飄々とした表情でのんびりと構えている。出会った当初は頼りなかったこの風貌も、今では共に死線を潜り抜けてきた相棒として頼りに思う。

 問題は、もう一組の魔法捜査官だ。今回の事件は被疑者の候補が多いらしく、二組の魔法捜査官で事件解決にあたることとなった。魔法犯罪捜査は捜査官と魔法使いの二人一組のバディが大原則。ご多分に漏れず、もう一組の彼と彼女も二人一組のバディなのだが、その対照的な容姿風貌が先程から気になって仕方がない。


 捜査官の彼は、本城翼(ほんじょう つばさ)。僕と同い年の27歳。デスクワークの合間に隣の席にいた彼から聞いた話では、高校卒業後、ノンキャリア採用の交番勤務からスタート。交番勤務と所轄の刑事課時代に複数の魔法犯罪の解決に貢献した実績から竜崎係長に目を付けられ、引き抜かれたそうだ。気の毒に……。

 本城の第一印象は刑事というよりもアイドルグループに所属していそうな容姿端麗な好青年。明るくて気さくで、隣の席で同い年の僕とはすぐに打ち解けた。僕以上の童顔だが、高校卒業後に警察学校を経て警察官になっているため、僕よりもだいぶ先輩にあたる。しかし、職位が巡査の彼は、警部補の僕を先輩先輩と呼ぶ。


「いやいや。同い年なんだし、警察官としてのキャリアも魔法犯罪の捜査官としての経験もキミのほうが先輩なんだから、先輩はやめてくれない?」


 と初対面のときにお願いしたのだが、今も変わらず本城は僕のことを笑顔で先輩と呼ぶ。

 うーむ。もしかして、からかわれているのだろうか?


 その問題は一旦置くとして、本命は彼ではない。本城の隣にいる彼女だ。

 派手に染め上げた金髪。「喧嘩上等」の4文字をでかでかと刺繍した特攻服。右手には木刀。ガムをクッチャクッチャ噛んでいる姿は、まるで少年課に補導されてきた暴走族そのものだ。

 濃い目の化粧で年齢がよくわからないが、おそらくは高校生。いや、もしかすると中学生かもしれない。左腕には魔法犯罪捜査係のマスコットキャラ・黒猫のニャンゾ~くんと白猫のネコミちゃんをしっかりと抱えている。本城からニャンゾ~とネコミちゃんを作ったのは魔法使いだと聞いてはいたが、まさかこのヤンキー少女が作者だったとは。意外と心は乙女でメルヘンなのか。

 加えて、これまた本城からの情報だが、どうやら竜崎係長に惚れているらしく、竜崎係長の命令だけは素直に聞くそうだ。「でも、俺の言うことはちっとも聞いてくれないんすよねー」と愚痴をこぼしていた。竜崎係長以外は男も女も地位も年齢も関係なく、ほぼ全員一律ゴミ扱い。それが彼女のスタンスらしい。

 それを知ってか知らずか、アルペジオがニヤニヤといたずらっ子みたいな顔をしてヤンキー少女に話しかける。


「あなたは確か、えーっと……魔法使いヤンキーさんでしたっけ?」


「ああん!? 誰がヤンキーだ!? ブッ殺すぞ、てめえ!!」


 首をカクカク上下させながらアルペジオに詰め寄る少女は、どこからどう見てもヤンキー以外の何者でもない。

 彼女とのやり取りが楽しくて仕方ないと言った表情でアルペジオが続ける。


「あれ? 違いましたっけ。じゃあ、魔法使い夜露死苦さん……??」


 アルペジオがヤンキー少女のコードネームで遊ぶ。警視庁所属の魔法使い同士、知らぬ仲ではないだろうし、こうやって会うたびにじゃれているのかもしれない。本城から相棒は不良少女だとは聞かされていたがコードネームまでは聞いていなかったし、不良少女とはいえ、ここまでの代物とは思わなかった。いや、だって、一応ここ警視庁だし。まさかこんな、喧嘩上等そこんとこ夜露死苦なレディースが登場するとは誰だって思わないだろ。

 僕の戸惑いを察したのか、睨みつけていたアルペジオから目線を外し、今度は隣にいた僕にガンを飛ばしてくる。うひー。


「おう、てめえが噂の新米か。アタイは人呼んでローリングサンダー。どうだい、カッコいいだろ? アタイが付けたんだぜ」


 これは彼女なりの自己紹介のつもりだろうか?

 ローリングサンダーって、確か雷鳴って意味だっけ?

「人呼んで」と言いながら「アタイが付けた」とか、言っていることが支離滅裂で正直まったく意味がわからない。ああ、頭が痛くなってきた。


 ミスターといい、このローリングサンダーちゃんといい、警視庁所属の魔法使いにまともなやつはいないのか? うちのアルペジオが至ってまともな人間のように思えてきた。

 いくら凶悪な魔法犯罪に立ち向かうためとはいえ、警視庁は採用基準をもう少し見直したほうがいいと思う。