魔法捜査官
喜多山 浪漫
第3話
『Grimoire(魔導書)』<7>
「では、改めて。捜査官から管制官に連絡。校内に多数の魔法生命体(ゴーレム)が発生。魔法の使用を許可願います」
これで許可が下りなかったらブチ切れてやるぞ。
「了解。魔法の使用を許可する」
よかった。さすがに許可は下りるよな。
「使用者・魔法使いアルペジオ───」
「ちょっと待った!」
せっかく許可が下りたのに誰だ、待ったをかける不届き者めは。
そこには、管制官には見えるはずもないのに、ピシッと優等生のように姿勢よく挙手するローリングサンダーがいた。
「ここはアタイにやらせてくれ」
ローリングサンダーは、アルペジオを押しのけるように進み出る。
自分が戦うというのか。外見に違(たが)わず好戦的なことで。
「……理由は?」
管制官の問いに、ローリングサンダーが腕組みをしながら堂々と答える。
「どこの馬の骨ともわからねえ新米に背中を預けるわけにはいかねえからな。アタイがテストしてやるんだよ」
んん? どういうことだ?
もしかして、本城とローリングサンダーのバディが戦うんじゃなくて、僕とローリングサンダーが組んで戦うってこと?
いやいや待て待て、そんなのおかしいだろ。
意味がわからなくて、本城のほうを見ると「あとはよろしく」とでも言わんばかりにこちらに向かって敬礼している。ふざけんな。
「なるほど。今のうちにお互いの相性を見ておくのも悪くないわね。……よろしい。許可するわ」
許可するんかーい。
いやいやいやいや。このまま大人しく流れに身を任せるわけにはいかない。断固抗議せねば。
「ちょっと待ってください。僕の相棒はアルペジオさんでしょ? だいたい何でこんな状況下で僕がテストされなきゃならないんですか? 意味不明です!」
あまりの展開に、僕は言葉を選ばず思ったことをそのまま口に出した。
「あら。大泉の事件のときは魔法使いミスターとも組んだじゃない。魔法使いアルペジオはあなたの相棒ではあるけれど、専属じゃない。他の魔法使いと組むケースはこれからも発生する。だから柔軟に対応するように」
子供の安全よりも魔法生命体(ゴーレム)の排除を優先するくせに、こんなどうでもいいことには柔軟性を求めるのか。実際には管制官の裁量の範囲内で決められることとそうじゃないことがあってのことなんだろうけど、どうにも釈然としない。
それにアルペジオは相棒だけど専属じゃないなんて断言されると、なんて表現すればいいかわからないけど、これまで二人で培ってきたものが否定されたみたいな気がして、胸のあたりがモヤモヤ?ムカムカ?……とにかく複雑な気持ちになる。
しかし、そんな僕の気持ちなど意に介さず、管制官は淡々と、粛々と続ける。
「では、もとい。魔法の使用を許可する。使用者・ローリングサンダー。対象となる魔法生命体(ゴーレム)の魔力反応から判断し、魔法使用制限解除LV8とする。可及的速やかに教室内にいる魔法生命体(ゴーレム)を殲滅せよ」
「はいはい、わかりましたよ。やればいいんでしょ、やれば」
こうなりゃ、もうヤケクソだ。
何だったら憂さ晴らしに魔法生命体(ゴーレム)に一本背負いを喰らわせてやりたいぐらいだ。……気持ち悪いし、怖いからやらないけど。
「魔法生命体(ゴーレム)の数から推測して連戦になることが予想される。気をつけることね」
お気遣い、どうもありがとうございます。
でも、それがわかっているなら、アルペジオも参戦させるとか、魔法の使用制限をもう少し上方修正するとか、手心を加えてほしいものだ。
具体的には、せめてLV15にするとか……。
ま、言うだけ無駄か。