キマイラ文庫

ビューワー設定

文字サイズ

フォント

背景色

組み方向

目次

サマータイムモンスターズ

横田 純

048

8月14日:ゴーレム

 その時だった。

 魔王城から、巨大な影が降りてきた。


 岩でできた巨人が、ゆっくりと地上に降り立つ。

 あれは──


「ゴーレムだ……!」


 高さは10メートル近くあるだろうか。

 祭りの|山車《だし》よりもさらに大きい。


「こいつがボスやな」


 ローリーの合図で、前線のメンバーが身構える。


「こいつ倒して|終《しま》いや! いくで!!」



"|風と共に去りぬ《かぜさり》"!!!


"|青い火の玉《ブルーブレイズ》ストレート"!!!


"|絶望の黒き稲妻《ダークサンダーブレード》"!!!


"|追尾する流星《ホーミングスター》"!!



 メンバーがゴーレムに向かって攻撃を仕掛ける。

 しかし、岩でできたゴーレムの体は硬く、攻撃がほとんど通らない。


「ダメだ……!」


「ワイにまかしとき」


 ローリーが紫黒色の石を高々と掲げる。

 まばゆい光と黒いエネルギーが混ざり合い、自分の体の何倍も大きな巨大槍が具現化する。


「これで終わりや!!」



"|聖槍金剛夜叉《カオスジャベリン》"!!!



 ローリーが放った巨大槍がゴーレムを直撃した。

 地響きのような低い唸り声をあげてゴーレムの体が崩れ落ちていく。


 片腕が落ち、膝が折れる。

 もうもうと土埃が上がる中、|跪《ひざまず》くような体勢で、ゴーレムは動かなくなった。



「よっしゃ! 作戦成功や!」


 防衛隊メンバーがわあっと歓声をあげる。

 しかし、瀬凪だけが真剣な顔でゴーレムを見つめていた。


「どしたん? 瀬凪ちゃん」


 ローリーが気づいて声をかけると、瀬凪は、


「なんか……変じゃないですか?」


「変って?」


「今までの魔物って、私たちが倒したらみんな石化してましたよね」


「せやな。このゴーレムは岩やから、もともと石化してるようなもんやけど」


「……|割れてない《・・・・・》んです」


「え?」


「今までの魔物は倒したら石化して、もとの形がわからないぐらい粉々に割れたんです。みんなそうでした」


 それを聞いて、防衛隊メンバーに緊張感が走った。


「あのゴーレム……|まだ生きてる《・・・・・・》んじゃないですか?」



 瀬凪の考えは的中していた。


 次の瞬間、ゴーレムは雄叫びをあげながら、半壊した体をよじらせた。

 残った片腕を地面につけると、ゴーレムの体が淡く光りだした。


 |明らかに《・・・・》|何かやっている《・・・・・・・》。

 だが、それが何なのかわからない。


「なんやねん、死んだんちゃうんかい」


 ローリーは再び戦闘態勢をとると、


「まあええ。ワイのMPはまだ残ってるで。何発でもブチ込んだる」


 そう言って、紫黒色の石を握りしめた。



 しかし、事態は急速に悪化していた。

 それに気づいたのは、村の入口付近で着ぐるみを着て立っていたデコイだった。


〈あの……イッチくん、ちょっといい?〉


「デコイさん、どうしたんですか?」


〈いや……なんかさぁ……ここから見える山の斜面が、|盛り上がってきてる《・・・・・・・・・》のよ〉


「盛り上がってきてる……?」


〈そう。土がこう、ボコっとしてさ……〉


 僕はカメラを切り替えて、村の入口付近の映像をスマホに映す。


 着ぐるみを着たデコイのはるか向こう。

 まるで蚊に刺されたみたいに、山がボコっと盛り上がっている。


 いや……あれは……ただ盛り上がっているんじゃない。

 盛り上がった土がどんどん形を変えて、人型に近づいていく。


〈ちょっと待って。あれって……ゴーレムじゃない?〉


 デコイさんの言葉で、僕はひやりと背すじが寒くなった。

 そして次の瞬間、スマホに向かって叫んでいた。


「皆さん! ゴーレムは別の場所に、新しいゴーレムを召喚しようとしてます!!」


「なんやて!?」


 続いて、湯水准教授からも通話が入る。


〈しかもどうやら1か所じゃないぞ。カメラナンバー22、47、86をチェックしてくれ〉


 カメラを湯水准教授に言われた番号に切り替える。

 カメラに映ったそれぞれの地点で同時に土が盛り上がり始めている。


〈位置は商店街を中心として、東西南北に1体ずつだ。このままだと囲まれるぞ〉


 恐れていたことが起こった。

 秒殺作戦の致命的な穴──

 戦力の大半を魔王城の真下に集結させていたのが裏目に出た。


 ゴーレムが召喚されようとしている4か所は離れている。

 秒殺部隊がいる場所からは全力で走っても5分。

 遠い場所は15分はかかりそうだ。



「このアホがぁ!! 何してくれてんねん!!」



"|聖槍金剛夜叉《カオスジャベリン》"!!!



 ビギッ。


 パリーン!



 ローリーが魔王城真下のゴーレムを貫いた。

 次の瞬間、ゴーレムの体は霧散するように砕け散り、たくさんの石が降り注いだ。


〈どや!? 召喚止まったか!?〉


 僕はカメラを見つめながら、ローリーさんの声を聞いていた。

 しかし。


「ダメです……間に合いませんでした」


 村の四方に、10メートル近い巨人が4体、完成していた。


 さらにここで計算外のことが起きた。

 それは、やぐらの上にいるアリサが最も早く気づいた。


〈ねえイッチ……おかしいんだよ〉


「おかしいって、何が?」


〈祭に来てる人たちが、みんなゴーレムの方を見てる。スマホで写真撮ったりしてる〉


「そんな! だって魔物は大人に見えないはずだろ?」


〈そうだけど! だってみんな見てるんだもん!〉


 僕も商店街のカメラを確認する。

 たしかに、観光客がゴーレムの方を見て騒いでいる姿が映っている。


 パニックになったりしているわけではない。

 観光客は、今のところ「あれも祭の山車のひとつだ」と思っているような──

 そんな楽しげな雰囲気が伺えた。


「どうして……!?」


 次第に不安の色が濃くなっていく。


〈イッチくん、これは私の仮説だが──〉


 湯水の言葉に、全員が耳をそばだてる。


〈魔王城から現れたゴーレムと、新たに召喚されたゴーレムでは決定的な違いがある。それは、体を構成する物質だ〉


「体を構成する物質……?」


 そこまで言われて、僕は気づいた。


 魔王城から現れる異界の魔物は、大人には見えない。

 だが、新たに召喚されたゴーレムは|夏摩村を囲む山の斜面《・・・・・・・・・・》で生まれた。

 つまり──


「ゴーレムの体表を覆っているのは|僕らの世界の土《・・・・・・・》……だから、誰にでも見えてしまう」


〈そういうことだ〉


 最悪だ。


 これから僕らは、この場にいる全員から見えている魔物を倒しにいく必要がある。

 それも、こんなに人が大勢いる中で。

 ひとつ間違えばパニックになるのは間違いない。


 全員の力を合わせてやっと1体倒したゴーレムが、離れた場所に4体もいる。

 さっきは岩でできたゴーレムだったが、今度は土。

 瀬凪の風は? アヅの炎は? フジキューの黒い雷は効くのか? 

 この状態だと、チームを分けても対応できるかわからない。

 ここからどうやって村を守ればいい……?



 僕の考えがまとまる前に、4体のゴーレムはゆっくり前進を始めた。