魔法捜査官
喜多山 浪漫
第4話
『Nightmare(悪夢)』<1>
海を見下ろせる高台。遠くから波の音と海鳥の声が聞こえる。
東京都の隣県にある本城家の墓前で手を合わせる。
やっと静かに彼の冥福を祈る時間を得た。
本城の葬儀――あれは最悪だった。
マスコミは本城が殉職した事件を私立鳳凰学園猟奇殺人事件と銘打ち、前代未聞・史上最悪の少年魔法犯罪としてセンセーショナルに喧伝した。
当然のように本城の葬儀には大小様々なメディアが取材に押し掛けた。彼らは一様に神妙な面持ちでカメラの前でコメントしているが、誰一人として本城の死を心から悼んでいるようには見えなかった。所詮、彼らがほしいのは話題性と視聴率。それだけだ。
突如降ってわいた訃報とマスコミの取材攻勢に本城のご両親と弟妹は憔悴しきった様子だった。家族を失った悲しみに打ちひしがれているところに、あたかもそれが当然であるかのようにマイクを向け、コメントさせようとするマスコミの傲慢さには憤りを禁じ得ない。彼らは国民には知る義務があると報道の使命と自由を盾にするが、僕にはただの野次馬根性としか思えない。
竜崎係長の特別な配慮もあり、僕以外にもアルペジオとローリングサンダーも葬儀への参列を許された。
だが、結論から言うとアルペジオとローリングサンダーを参列させたのは大失敗だった。二人の魔法使いに対するマスコミの扱いといったら、まるで彼らが共犯者であるかのようだった。
マスコミは二人の魔法使いに怯えた目でマイクを突き付けながらも、何とかして謝罪のコメントを引き出そうと躍起になり、心無い言葉を浴びせたのも一度や二度ではなかった。
ローリングサンダーが暴れ出すんじゃないかとハラハラしたが、本城の葬儀を台無しにしたくないためか歯を食いしばって我慢していた。
マスコミの連中は、彼らに何を謝罪しろと言うのか?
アルペジオもローリングサンダーも、命懸けで多くの子供たちを救った警察官なんだぞ!!
僕はマイクを奪って叫びたくなる衝動をこらえるのに必死だった。
おそらくニュース番組の中では、キャスターやコメンテーターたちが知ったような顔をして魔法犯罪の危険性を唱え、予防策と厳罰化を謳っているに違いない。その様子を想像すると怒りで頭が爆発しそうになる。
あの葬儀で唯一救いだったのは、本城の家族が誰も僕たちを責めなかったことだ。竜崎係長と僕だけじゃなく、魔法使いであるアルペジオとローリングサンダーに対しても差別なく受け入れ、焼香に訪れる他の友人知人と同じように丁寧に一礼し、弔問したことに謝意を示してくれた。
てっきり石の一つでも投げつけられるものと覚悟を決めて参列したのだが、そんなことはなかった。普段から本城が任務の大切さと、魔法使いに対する世間の誤解を家族に説いてくれていたのだろう。あの人懐っこい明るい笑顔で……。
一方、被疑者とがりえいこ(後日、戸苅瑛子と判明)の家族はマスコミと世間から激しいバッシングを受け、悲惨な末路をたどることになった。ただでさえ犯罪者を出した家庭への世間の風当たりは厳しい。それが前代未聞の少年犯罪――しかも魔法犯罪となれば、なおさらだ。
自宅前でフラッシュを浴び、涙を流しながらひたすら何度もカメラに向かって頭を下げる両親。自宅には脅迫まがいの電話や手紙がひっきりなしに来ているという。彼らとて被害者だというのに。
そう。彼らは被害者なのだ。
被疑者・戸苅瑛子にしても、生まれ持った性質から犯罪者予備軍ではあったものの、学校の図書室で見つけた魔導書(グリモワール)のせいで強制的に魔法使いになったに過ぎない。その魔導書は何者かによって意図的に仕掛けられたものだったのだ。本当に裁かれるべきはその“何者か”であるべきなのに、被疑者の家族がスケープゴートに仕立て上げられた。
祈りを終えて、本城が眠っている墓石を静かに見つめる。
事件の真犯人とも言える“何者か”を、いつか必ず捕まえて罪を償わせてやる。
そう本城に誓う。
だけど……。
その何者かの正体は現時点でまったく見えていない。鏑木の言葉が事実なら、その何者かは相当な権力を持ち、国民が犠牲になるのを厭わない過激で卑劣な組織だ。そんなやつらを相手に、今みたいな煩雑な手続きと、過剰なまでの制約の中、国民と僕たち自身の生命の安全を守っていけるのだろうか。
「大丈夫ですよ、先輩なら」
本城の声が聞こえたような気がして、驚いて振り返る。
そこには潮風に吹かれる草花が生い茂っているだけで誰もいない。
空耳か?
いや。でも、今のは確かに……。
アルペジオとミスターは、この世に霊なんていないと断言していた。
けど、僕はそう思わない。
きっと弱気な僕を見かねた本城が、励ましに来てくれたに違いない。