魔法捜査官
喜多山 浪漫
第4話
『Nightmare(悪夢)』<5>
この古びた洋館の内部は、一体どうなっているんだ?
広い。あまりにも広すぎる。どう考えても普通じゃない。
時折現れる魔法生命体(ゴーレム)を処理、あるいは回避しながら、かれこれもう半刻は迷宮のごとき館内を彷徨っている。体感的には、ちょっとしたショッピングモールぐらいの広さはあるように思う。いくら大きい屋敷とは言え、住宅街に建っている建造物だ。これほどの広さがあろうはずがない。
「アルペジオさん。この只事じゃない広さは……」
「ええ。魔法がかけられていますね」
連続殺人鬼(シリアルキラー)・時任暗児が潜伏していた廃ビルもそうだったが、魔法を施すことで建物の空間を拡張し、変形させることができる。そこに侵入者を阻む魔法生命体(ゴーレム)を配置すれば、まさしくダンジョンの出来上がりだ。
この洋館がご近所で幽霊屋敷と呼ばれているのも、あながち的外れではないようだ。
それにしても、この屋敷に一体何があるというのか?
僕たちに捜査させることで、鏑木は何を伝えようとしているのか?
竜崎係長の話だと、この屋敷はB国企業の日本支社が所有しているらしい。
B国と言えば、日本と領土問題を抱えている国の一つだ。B国による領海領空侵犯はたびたび外交問題になっている。外交問題と言っても日本政府は弱腰の姿勢を貫き、断固たる姿勢を示すと言いながらお家芸の「遺憾の意」とやらを示すだけだ。いくら遺憾の意を表したところで、相手にとっては痛くもかゆくもない。それどころかB国以外の国に対して、「この国は領海領空侵犯してもリスクがない」と公言しているようなものだ。武力行使とまではいかなくても、せめてガツンと経済制裁の一つでもかましておくのが本当の外交のあるべき姿だと考える僕は過激な思想の持ち主だろうか。
過激ついでに言っておくと、この屋敷がB国資本の企業が所有しているのと同様に、日本の土地は外国資本に買いまくられている。
なぜか? 日本国の法律がそれを許してしまっているからだ。
住宅地からライフラインともいえる水源、国防の要所である自衛隊や米軍の基地周辺の土地に至るまで買いたい放題というのだから意味がわからない。
そんな抜け道だらけのガバガバな法律は放置しているくせに、魔法に対する規制だけはやたらと厳しいことに作為を感じられずにはいられない。
さすがに外国人による土地の購入については法整備の動きがないわけではないようだが、反日国の手先と化している売国政党・売国議員たちによって阻まれているのが実情である。
ちなみに、この事実をまともに報じるメディアは皆無だ。
B国はアンチ・マジック・ファミリーのスポンサーという噂もある。
もしかして、鏑木はいかにこの国が腐敗しているかを僕たちに思い知らせて、アルペジオを仲間に引き込もうとしているのではないか?
もしそうだとして、僕はアルペジオを止められるだろうか。腐敗した国家、魔法使いを排除しようとする国家のために命を懸けて働いてほしいと口にできるだろうか。
思考の沼にはまりつつあったところに、突然身動きが取れなくなる。
金縛り……!?
罠か……!?
視界が奪われ、あたり一面が真っ白なもやに包まれる。
まさか、これでジ・エンドなんてことはないよな……?
「落ち着いてください、捜査官殿。これは魔法による精神干渉のようです」
アルペジオの静かな声に、動揺した心が落ち着きを取り戻していく。
「どうやら地雷式の魔法みたいでんなぁ。特定の場所を踏んだら起動するやつですわ。B国のもんが仕掛けたんか、それとも……」
鏑木が仕掛けたか。
「こちら管制室。精神干渉系魔法の場合、こちらからは状況が一切つかめない。慎重な対応を心がけるように」
オラクルから轟管制官からの指示が飛んでくる。
慎重な対応をしたいのは山々だけど、何が起こっているのかわからない以上、どうにもならない。
「ダーリン。何か聞こえる」
ローリングサンダーが緊張をはらんだ声で囁く。
この状況下、緊張感を持つのは大変結構なのだが、ダーリンはやめてほしい。
だが、ひとまずそれはさておき、耳を澄ませてみると確かに音が聞こえる。
その音が少しずつ大きくなる。
銃声だ。射撃練習場で聞く銃声とは明らかに異なる。
しかも、一発や二発ではない。そこかしこから銃声が響いている。
砲撃音。
爆発音。
旧式のプロペラ機が飛び交う音。
白いもやが晴れ、僕たちの目の前に広がったのは、記録映像や映画の中でしか見たことのない、戦場だった。