魔法捜査官
喜多山 浪漫
第4話
『Nightmare(悪夢)』<8>
続いて僕たちが見せられたのは敗戦後の日本だった。
敗戦処理としておこなわれたのはGHQによる粛清――見せしめの公開リンチだった。
それが東京魔法裁判。
次々とA級戦犯として処刑される政府および軍部高官と魔法使いたち。
日本の魔法使いは総じてハイレベルだった。世界でも類を見ないほどの。
そのせいで連合軍は幾度も戦場で苦渋を飲まされた。欧米列強の支配者層は、まさかアジアの小さな島国に、これほどまでの痛手を負わされるとは思っていなかった。だから腹いせとともに、二度と歯向かえないようにするために日本の、特にハイレベルの魔法使いたちを一掃、死滅させようとした。
敗戦すると、あれだけ魔法使いを英雄視していたマスメディアと世論は、手のひらを返したように魔法使い批判を始めた。さんざん自分たちで煽るだけ煽っておいて、諸悪の根源は魔法使いだとして責任のすべてを魔法使いに押し付けたのだ。
そしてGHQの手先となった日本人による魔法使い狩りが始まる。これがアンチ・マジック・ファミリーの出発点となる。GHQとその手先は、アルペジオ、鏑木、深雪たちをA級戦犯として処刑台に吊るし上げようと執拗に追跡した。英雄からA級戦犯に身を落とした彼らに安息の場所はなかった。残飯を漁り、泥水をすすって生き残る日々。直視するに堪えない姿だった。
そんな逃亡生活の中で鏑木の瞳が次第に曇り、復讐の炎を灯していくのがわかった。
これが鏑木の原点か。
鏑木の気持ちは痛いほどわかる。祖国のために命懸けで戦ったのに、祖国に裏切られたのだ。しかし、だからと言って罪を重ねる彼を野放しにするわけにはいかない。たとえ彼が戦っているのが法では裁けない巨悪だったとしてもだ。
先の大戦が残した傷跡は大きい。
敗戦後の日本の歴史は、GHQに追従するマスメディア、作家、教育者、活動家ら左翼思想、共産主義者によって、「植民地支配と差別への抵抗」を「侵略戦争」に塗り替えられた。その歴史認識は今もなお続いている。
現在、日本のメディアや教科書が伝えるのは戦争犯罪国としての日本だ。
日本の暴走を止めるため、正義の鉄槌として仕方なく原爆を落とした。そんな加害者の暴論がまかりとおっている。日本人はGHQとそれに追従する者たちによって徹底的に罪の意識、自虐史観を植え付けられた。
日本は世界で最も長い歴史を持つ国である。神話の時代から続く神代の国だ。
しかし、敗戦後は学校で日本人形成の基礎となる建国の歴史や神話を教えることを禁じられた。GHQによって戦争の火種となる危険思想としてタブー視されたからだ。その結果、日本人は日本人であることに誇りを持てなくなった。そして高度成長期を経て、古き良き日本人の美徳の代わりに資本主義の皮をかぶった拝金主義へと傾倒していった。
神話を語り継がなくなった国は総じて滅びるという。
日本は若い世代の死因1位が自殺で、16%を超える。これは先進国首脳会議の中で最悪のトップである。我が国は、戦後教育という根深い毒に冒されていることに気づかぬまま、緩やかな死に向かっている。
現在の日本を支配する自虐史観がGHQとその手先として活動した反日日本人の手によるものだということは自分なりに調べて知っていたものの、こうして魔法と魔法使いが悪の象徴に仕立て上げられていく過程をまざまざと見せつけられると、情報操作というものの恐ろしさに寒気がする。この世界が、人の手によって作り上げられたおぞましい悪夢のようにさえ思える。
再び現実に引き戻された後、身体に鋭い痛みが走る。
なんだ?
精神干渉系魔法が肉体にも作用したのか。
「捜査官殿。右手……」
ん?
僕の右手がどうかしたというのか。
右手を持ち上げてみると、女の頭部が僕の右手をガジガジと噛り付いている。
「う、うわわああああああ!!!!」
女の頭部には虫の足が生えている。魔法生命体(ゴーレム)だ。
慌てて叫んで振り払おうとするが、振り払えない。力任せに壁に打ち付けるがそれでも食いついて離れない。
「動かないで、ダーリン!!」
ローリングサンダーの怒声に思わず直立不動する。
「おらぁ!!!!」
右ストレート一閃。
女の顔をした魔法生命体(ゴーレム)の頬にローリングサンダーの拳がめり込む。
砕けた数本の歯とともに、ようやく女の顔が僕の右手から引き剥がされる。
……よかった。
右手はある。嚙み千切られてはいなかった。
しかし、油断している暇はない。
僕たちが精神干渉系魔法にかかっている間、どうやら魔法生命体(ゴーレム)に囲まれてしまったようだ。こうなってしまっては戦闘を回避するのは難しい。やむを得ない。
「魔法使いアルペジオ、魔法使いミスター、魔法使いローリングサンダー、戦闘モード。LV30以下の魔法の使用を許可します。魔法生命体(ゴーレム)を排除してください」