キマイラ文庫

魔法捜査官

喜多山 浪漫

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目次

魔法捜査官

喜多山 浪漫

第4話

『Nightmare(悪夢)』<11>

 出口を求めて移動すること数分――

 長い通路の先に白っぽい物体が浮かび上がる。

 魔法生命体(ゴーレム)か!?

 思わず身構える。

 魔法を施された館内に魔法生命体(ゴーレム)がいるのは何ら不思議ではない。

 だが、うまく表現できないが、とても嫌な感じがする。

 数多くの魔法生命体(ゴーレム)と対峙してきた。CODEデスやCODEレッドにも出くわした。それらの危険な存在とは異なる、ねっとりとまとわりつくような死の香り。アレには接触してはならないと、僕の本能が全力で警鐘を打ち鳴らしている。先程から僕の両腕はぷつぷつと鳥肌が立ち、悪寒が止まらない。


 これまで余計な戦闘を回避してきたため、三人の魔法使いはHP(体力)、MP(マジックポイント)ともに温存できている。魔法もLV30まで使用できるため、相手がCODEデスやCODEレッドでもない限り、正面突破することも可能だ。

 だけど、アレとは戦ってはいけない。本能がそう告げている。死と直面する魔法犯罪現場において本能に従うことは決して間違いではなく、むしろ生存確率を上げる。ここは本能に従うべきだ。


「引き返しましょう。別のルートで移動します」


 僕は本能を信じて、正体不明の白い物体との接触を回避することにした。


「あの、風馬はん。ええんでっか? あれ、たぶん人間でっせ。白い服着た女の人みたいや」


「え?」


 人間?

 生存者がいたのか?


「確かですか?」


「はいな。わて、視力4.0でんねん」


 すごいな、ミスター。

 変わらず本能は警鐘を鳴らし続けているものの、あれが本当に生存者だとすれば保護しないわけにはいかない。

 しかし、鳥肌も悪寒も一向に収まらない。何かが普通ではない気がする。

 あれが生存者とは限らない。人間に擬態した魔法生命体(ゴーレム)や、B国の魔法使いである可能性もある。

 ……慎重に距離を詰める。

 ……白い物体は動かない。

 近づくにつれフラッシュライトに照らされた白い物体が、確かにミスターの言う通り、白い服を着た人間に見える。ただし、人間に擬態した魔法生命体(ゴーレム)や、魔法使いである可能性を排除できたわけではない。

 よく観察するために、更に近づいて白い服を着た人物の顔にフラッシュライトを当てる。


 ……女性だ。

 目を閉じているため正確にはわからないが20代前半だろう。

 白い服はウエディングドレスだった。

 元は純白であっただろうウエディングドレスは、べっとりと赤黒い血にまみれている。

 顔も腕にもおびただしい血が付着している。


 おや……?

 右腕にフラッシュライトを当てると何かが光を反射した。

 もう一度ライトを当ててみると、ウエディングドレスの女性の右手には、しっかりと包丁が握られているのがわかった。その包丁にも赤黒い液体がへばりついている。


 え?

 一瞬で頭が混乱する。

 彼女はこの地獄のような場所で包丁を武器に戦い、生き延びてきたのか?

 それとも、あの大量の遺体を築いたのが彼女自身なのか?

 何ら根拠はない。しかし、ひとたび彼女が大量殺戮をおこなった張本人である可能性が浮かんでしまったがゆえに、頭からこびりついて離れない。

 手が震える。

 足が震える。

 アレに近づいてはいけない。逃げろ逃げろ逃げろと全身の細胞が叫んでいる。


 だが、それでも僕は警察官だ。

 生存者であるなら保護しなければならない。怖いなんて言っていられない。

 僕はもう一度、彼女が人間であることを確認するために、顔に向けてフラッシュライトを当てる。

 息を飲む。

 身体が凍り付きそうになる。

 先程まで目を閉じていたウエディングドレスの女性が、ギロリと僕のほうをねめつけている。

 その目は血で濁っているせいか、白目がない。

 血まみれの顔が引きつったかのような笑みを見せたと思った瞬間、声にならない声――断末魔に近い奇声を上げながら、ものすごい勢いで僕たちに向かって走り出した。右手の包丁を振りかざしながら。


「退避! 退避します!!」


 迷いは一切なかった。

 恥も外聞もない。

 一も二もなく僕は本能に従って逃げることを選択した。