キマイラ文庫

魔法捜査官

喜多山 浪漫

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目次

魔法捜査官

喜多山 浪漫

第4話

『Nightmare(悪夢)』<9>

「大丈夫でっか、風馬はん?」


「ええ、もう大丈夫です。ありがとうございます、ミスターさん」


 魔法生命体(ゴーレム)との戦闘を終えた後、右手を負傷した僕を魔法使いミスターが回復魔法ヒールで手当てしてくれた。


「ローリングサンダー、ありがとう。助かったよ」


 お礼を言いながら、右手をグーパーグーパーして完全に回復したことを確認してみせる。

 右手とお別れせずに済んだのはローリングサンダーのおかげだ。感謝の一言に尽きる。


「へへ。礼なんていらねえよ。アタイとダーリンの仲じゃねえか。水臭えな」


 僕とキミの関係は捜査官と魔法使いであって、それ以上でもそれ以下でもないんですけど……?


「それよりも、ローリングサンダーなんて他人行儀な呼び方はよしてくれよ」


「え? でも、それがコードネームだろ? 他になんて呼べばいいんだい?」


 嫌な予感しかしないけど、一応恩人だから礼儀として聞いてみる。


「そりゃあ、もちろんハニーだろ」


 何がもちろんなんだかまったくわからないけれど、彼女とダーリン&ハニーと呼び合う日が来ることは生涯訪れないと断言できる。


「ひゅー♪ お熱いことでおまんなぁ」


 ミスターが茶化すが、これ以上相手にしていられない。

 突然の魔法生命体(ゴーレム)の襲撃によって有耶無耶になってしまっていたが、精神干渉系魔法で見せられた光景を忘れることができない。

 先の戦争をきっかけに失墜した魔法使いの地位。そのあおりをまともに受けたアルペジオの胸中やいかばかりか。


「アルペジオさん……。大丈夫ですか?」


「……ええ」


 それからアルペジオはうつむきながらポツポツと語り始めた。過去を明らかにされた以上、もう隠すことはないと思ったのだろう。その表情は暗い迷宮の中で読み取れない。

 アルペジオは、復讐の道を選んだ鏑木とは袂を分かち、魔法使いとしての正体をひた隠しながら路上生活を送っていたという。


「あの頃は仲間を失った悲しみと、戦争に加担した後悔で、早くお迎えが来るのを待つばかりの日々でした……」


 それが、ある事件をきっかけに竜崎係長に拾われ、半ば強引に魔法犯罪捜査係に所属することになった。


「あのとき竜崎さんが拾ってくれなかったら、私は今頃、死んでいたでしょうね……」


 アルペジオの言葉に、先程までおちゃらけていたミスターもローリングサンダーも心痛な面持ちだ。同じ魔法使いとして、アルペジオの境遇に思うところが多々あるのだろう。

 アルペジオは戦争で多くの人を殺めてきたことに強い罪悪感を抱いている。敵だけじゃない。大切な仲間たちを守れずに死なせてしまった。それが彼のせいじゃないことは、本人も頭ではわかっているはずだ。けれども、そうして割り切るにはアルペジオの心は優しすぎるのだ。


「捜査官殿。私が幽霊を信じないのは、もし幽霊がいるならとっくに私は呪い殺されているはずだからですよ」


 自虐的な言葉の中に、幽霊がいるなら呪い殺してほしいという願望めいたものを感じる。あるいは、幽霊でもいいから、呪ってくれてもいいから会いたい人がいるのかもしれない。


「私には生を謳歌する資格なんてありません。でも仲間たちの屍の上に生き永らえているこの身。自害だけはできません。だから、こうして警察の犬となって、せめて人様のお役に立つために命を削るのがお似合いなのですよ」


 ひょっとして、アルペジオは死にたがっているのではないか。

 背中を預けた戦友である鏑木は復讐の道を選択した。

 常にアルペジオに寄り添っていた深雪と呼ばれていた人物がどうなったのかはわからない。

 アルペジオが、彼(彼女?)を置いて世捨て人になるとも思えない。たぶん生きてはいない。

 アルペジオは、死に場所を求めて魔法犯罪捜査係で魔法使いを続けているのか。

 だとしたら……そんなの、悲しすぎる。