キマイラ文庫

魔法捜査官

喜多山 浪漫

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目次

魔法捜査官

喜多山 浪漫

第4話

『Nightmare(悪夢)』<4>

 行けども行けども不気味なダンジョンのような通路が続く。

 あの扉から。

 あの物陰から。

 あの曲がり角から。

 いつお化け……じゃなくて、魔法生命体(ゴーレム)が飛び出してくるかと内心ビクビクしながら歩いている。

 しかし、捜査官として、三人の魔法使いを指揮する身として、そんな情けない姿を見せられるはずもなく、気取られないように努めて平静を装う。もっとも、オラクルを通して僕たちのバイタルをチェックしている管制官には、僕のちっぽけなプライドから来る強がりなんてお見通しかもしれないけれど。


 先頭を歩く僕が通路を右に曲がった瞬間、白い物体が見えた気がした。

 その白い物体は、すぅーと音もなく消えた。

 ……今のは違うよね?

 ……お化けじゃないよね?

 ……ただの白い魔法生命体(ゴーレム)だよね?

 自分にそう言い聞かせるが、今見たものが何だったのかわからず、心のざわめきが止まらない。


「こ、ここって近所では有名な幽霊屋敷らしいですけど本当に出るなんてこと、ないですよね……? その、魔法生命体(ゴーレム)的な意味ではなくて……」


 僕は超常現象や未確認飛行物体など、その手の存在には中立なスタンスだ。いるかもしれないし、いないかもしれない。自分の目で見たわけじゃないから何とも言えない。

 でも、だからと言って、いかにも幽霊が出そうな洋館を捜査するのが怖くないわけじゃない。いや、もっと正確に言うならば、かなり怖い。理屈じゃなく、怖いものは怖いのだ。先程の白い物体はそんな僕の恐怖心が見せた幻影なのかもしれない。


「ははは。幽霊なんているわけないじゃないですか、捜査官殿」


「せやで、風馬はん。あないなもんは想像の産物にすぎまへん。人は死んだらおしまい。ジ・エンドや。幽霊なんかおりまへんおりまへん」


 アルペジオもミスターも即答で幽霊の存在を否定した。

 どうして幽霊が存在しないと言い切れるのか。即答で断言されたせいで、本当は幽霊なんて存在してほしくないはずなのに、ついむきになってしまう。科学的に証明されていないのは魔法だって同じだ。断定的に否定する彼らの考えに納得がいかない。


「でも、もしかしたらいるかもしれないじゃないですか」


 と、しつこく食い下がってみる。


「そうですねー。……でも、いないものは、いないんですよ」


 アルペジオは食い下がる僕に配慮しながらも、確信をもって幽霊の存在を否定する。

 彼の中には、幽霊が絶対に存在しないと確信に至るだけの材料があるようだ。だが、その材料がいかなるものなのか、語る気はなさそうだし、僕には想像もつかない。

 釈然としないが、これ以上の議論は無駄のようだ。


「ねえ、ダーリン。もしかして、怖いの? アタイが手ぇ握ってあげよっか?」


 つつつと近づいてきたローリングサンダーが手を差し出す。


「だ、大丈夫! 怖くなんかないから! さあ、皆さん! 捜査を続けましょう!」


「もう、照れちゃって。ダーリンったら、可愛い♥」


 怖さを紛らわすためとはいえ、余計な話題を振るんじゃなかった。

 僕は反省し、押し黙って捜査を続行することにした。