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目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode8

悪役令嬢、地獄でハッピーライフを決意する。

 その後、さらに調べていくと、三人組にはそれぞれ固有スキルが付与されていることがわかった。


 ヒッヒ   《近接物理攻撃に強い。たまに敵をノックバックさせる》

 クック   《防御力が高い歩く壁。たまにド根性でトドメの一撃に耐える》

 ヒャッハー 《弓が得意で遠距離攻撃可能。たまにクリティカルヒットを与える》


 こんな具合である。


 彼らは、1ヶ月はきっぱなしだったパンツを新品にはきかえたような晴れやかな気分だと言って喜んだが、そんな経験をしたことがないから、いまいちピンと来なかった。


「僕たちは、これから身も心もご主人様に捧げることを誓います」


「なら、最初の命令よ。

 一刻も早く紅茶とスイーツを用意してちょうだい」


 かしこまりました、と三人組は喜び勇んで、すっ飛んで行った。

 地獄に紅茶とスイーツがないことを危惧していたが、どうやら杞憂だったようだ。ほっ。


 すでにMPは使い果たした。もう限界だ。早く紅茶とスイーツを補給しないと、今度はワタクシが変身してしまう。

 とりわけスイーツはワタクシの魔力の源と言っていい。あれがないと本当に禁断症状が出てしまうのだ。


「ああ、彼女の作ったスイーツが食べたいですわ……」


 両親亡き後、誰もがワタクシを恐れ、忌み嫌っている中で、いつも味方でいてくれた特異な人物が二人だけ存在した。

 一人は執事。もう一人は専属メイド。


 執事の名は、ジュエルバトラー。ワタクシと同じ17歳。知能が高く、若くして知識も経験豊富。切れ長の目に丸眼鏡がよく似合う好青年だ。

 ワタクシを心配してのことなのだろうが、何かとお小言が多いのが玉に瑕。


 専属メイドは、スイーティア。彼女は5歳年上のお姉さん。

 とある災難から助けて(別に助けたつもりはないし、よく覚えてもいないのだが)以来、ワタクシの専属として身の回りの世話をしてくれていた。

 彼女の作るスイーツは、それはもう絶品なのだ。

 あの二人には生きていてほしい。ワタクシの分まで――

 ・

 ・

 ・

 なーんて、ちょっぴりおセンチな気分になったが、三人組が紅茶とスイーツを運んできてくれたおかげで心安らぐひと時を過ごすことができた。地獄に仏とは、まさにこのことだ。


「ふう……。ありがとう。命拾いしましたわ」


 大げさではなく地獄に堕ちてからここまで、紅茶とスイーツなしでやってこられたのは奇跡というものだ。

 レベルが1に戻っていることに気づかずにあれだけの魔法を連発したのだから、MPの消耗は尋常ではない。

 普通なら死んでいてもおかしくない。いや、もう死んでいるんだけど。


「にゃーご」


 膝の上で丸まっているネコタローが2枚目のクッキーをねだる。

 猫に砂糖菓子はご法度と言われているが、なぜか不思議なことにこのネコタロー、甘い物にめっぽう強い(いや、弱いというべきか?)。とにかく主人のワタクシに似て、甘い物が大好きなのである。


 地獄のスイーツと言っても特段変わったものではなく、人間世界で口にしていたものと比べても遜色のないものが出てきた。

 おそらく地獄でも高級品の部類だろう。三人組がワタクシに粗末なものを出すわけにはいかないと駆けずり回って見つけてきてくれたに違いない。ありがたいことだ。その忠誠心に心から感謝する。


 さて、身も心も癒されたところで今後の方針を決めねばなるまい。

 ネコタローに三人組、それに紅茶とスイーツ。これから地獄で生活していくのに必要最低限の環境はそろった。

 しかし、ワタクシはエトランジュ・フォン・ローゼンブルク公爵令嬢。ここで満足するわけにはいかない。

 身に覚えのない罪で処刑されて地獄に堕ちたことはまったくもって納得できないけれど、それでもどうせ堕ちてしまったのなら、地獄での生活をもっと快適に! 美しく! ゴージャスに! エレガントに! そしてスイーツな(←ここ一番大事)環境にしなくては!!

 目指すは地獄でハッピーライフをエンジョイする!! これですわ。


 こうしてワタクシは、地獄で第二の人生を踏み出したのであった。




 第1幕

  完