エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山 浪漫
episode47
悪役令嬢、言われてみればハーレム無双だった件。
どしーん。
ずしーん。
ずずずずーーーん。
どんな大怪獣が現れるかと思いきや、目の前に立っているのはぞろぞろとお供を引き連れた悪魔の少女だった。
艶々とした肌、福々しくも愛くるしい顔、ぽっちゃりとした酒樽のような体躯。何ともご利益のありそうな佇まいをしている。
黒い革製のビキニ姿のため肌の露出度は多いが、色気はなく健康的。握り飯でも持たせればよく似合いそうだ。羽織っている豪奢なシルク製のマントだけが彼女の位の高さを示している。
気になるのは彼女が地響きとともに登場するほどの体重の持ち主とは思えないことだ。ぽっちゃりした体型ではあるものの、身長はワタクシと大差ない。
脂肪より筋肉のほうが重いと聞くが、仮に彼女が筋肉の塊だったしても相当に違和感がある。人間サイズの肉体に無理やりドラゴンの肉体を押し込めたと言われて、ようやく納得できる。そんな感じだ。
「エトランジュとかいう女は、そなたか?」
「ええ。ワタクシがエトランジュ・フォン・ローゼンブルク公爵令嬢。貴方は?」
「わらわはサキュバス一族の女王アリスサンドロスが一人娘、アリア姫じゃ。今からそなたを成敗してやるから覚悟するがよい」
「あら、お姫様が賞金稼ぎ? サキュバス一族とやらは、それほど財政難なのかしら」
「無礼者! わらわは賞金などに興味はない。地獄の刑罰も受けずに、悪魔も人間も男女も見境なく仲間に引き込んで、悠々自適にハーレム生活を送っているけしからん女がいると聞いてな。わらわ自ら罰を与えてやることにしたのじゃ」
「ハーレム?」
はてな? なんことやら。
身に覚えのない罪を指摘され、思わず後ろに控える仲間たちを見渡してみる。
まず男性陣。
美しい金髪にブルーの瞳、フォーマルな執事姿が眼福のザ・イケメン、ヒッヒ。
全身からむせ返るほどのダンディズムを漂わせる筋骨隆々のジェントルメン、クック。
片眼鏡にキリリとした表情、知性と気品があふれんばかりの参謀、エリト。
ざんばら髪に眼帯と歴戦の勇者の風格にしびれる凄腕傭兵のシュワルツ。
銀髪おかっぱに短パンと白衣がよく調和してキュンキュンきちゃう天才少年イグナシオ。
男性陣は、ご覧の通り美少年から中年美丈夫まで幅広いターゲット層をカバーする盤石の陣容だ。
片や女性陣。
優しさと愛情が顔に滲み出ているスイーツ天使、専属メイドのスイーティア。
赤毛のショートヘアに楽天家らしい明るい笑顔が素敵な獣人三姉妹の長女ケル。
男装しようものならご令嬢方が夢中なるであろう凛々しくボーイッシュな次女のベロ。
ピンクのツインテールがトレードマークの甘えん坊、キュートなわがまま末っ子のスー。
こちらも男性陣に負けず劣らずの美女、美少女ぞろい。双方とも顔の強さで言えばレベル99に限りなく近いと思う。
さらには、分類不能だが愛嬌たっぷり笑顔が百点満点のムードメーカー、ヒャッハー。
可愛さにおいてワタクシランキング首位を長年独走している無敗の王者ネコタロー。
うん、なるほど。ハーレムを作っているつもりはなかったけれど、確かにこれは見る人から見ればハーレム無双な状況かもしれない。
だからと言ってそれを理由に成敗されると言われても困るんだけど。
しかし、無用な戦いはワタクシの好むところではない。いちいち言い訳するのは性に合わないが、ここはひとつ、誤解を解いておくとしよう。
「どうやら誤解があるようですわね。ワタクシの目的は地獄で快適かつスイーツなハッピーライフをエンジョイすること。ハーレムなんて興味ございませんことよ」
「それじゃ、それ!!」
んん?
それって、どれ?
「そのスイーツがどうしても許せぬのじゃ!!」
えええええええ!?
スイーツが許せないですって……?
え? だって、スイーツですわよ?
あの全人類が愛してやまないスイーツを許せないだなんて……
そんなことって、あり得ますの?