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エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode9

幕間狂言:正ヒロイン、我が世の春を謳歌する。

「どうしたんだい、浮かない顔をして?」


 そう言って私の頬に優しく触れてくるのは、このエーデルシュタイン王国の次代を担う第一王子。

 上目遣いに瞳をうるませると、彼が優しく微笑みかけてくれる。

 あー、いつ見てもいい男だわー。

 これが私の男だなんて最高すぎるわー。


「血のつながりがなかったとはいえ、義姉と慕っていた方が亡くなったのです。それなのに、私だけがこんなに幸せでいいものか……」


「何を言うんだ、アンジェリーナ。気に病むことは何もない。あの女は、エトランジュは、王族の命を脅かした大罪人。処刑されて当然だ。あの人間兵器と婚約せよと父上に命じられたときはこの世の終わりかと絶望したものだが……それも終わったことだ。こうしてようやく真実の愛を手に入れたんだ。もう恐れるものは何もない」


「ああ、王子様……」


 手を広げて迎え入れようとする王子に応えるため、私はそっと彼の胸に寄りかかる。

 あくまで健気に。可憐に。清楚な乙女として。さあ、抱きしめて。

 すると、王子の腕が私の身体を包み込むように優しく抱きしめる。ああ、最高。


「もう離さないよ、アンジェリーナ。あの人間兵器との婚約は破棄した。そしてキミとの婚約も無事に成立した。あとは大々的に婚儀をおこなうばかりだ」


 思わず「ひゃっはー!」と叫んで小躍りしたい気分になる。

 しかし、巷では義姉が『悪役令嬢』と後ろ指をさされているのに対して、『正ヒロイン』と呼ばれ、貴族のご令嬢がたの羨望の対象になっているこの私。ここはぐっと堪えて心の中で叫ぶのに留めておくことにする。


「でも、やっぱり私だけが幸せになるなんて……」


 なーんてね。本当はそんなこと、これっぽっちも思っていない。

 今までやりたい放題してきて、私をさんざん見下してきたあの女が……エトランジュのやつが地獄に叩き堕とされる姿を見ることができたのだ。ギロチンにかけられて首ちょんぱ。うふふ、ザマァ見ろだ。


 あの女が所有していた家名も財産も領地も、すべて私が相続した。王子の心も完全に私のものになった。あの女からすべて奪い取ってやった。

 今日は人生最高の日。我が世の春とはこのことだ。

 だが、そんな本心はおくびにも出さない。正ヒロインとして。


「優しいアンジェリーナ。キミは何も心配しなくてもいい。すべて僕に任せて。一生キミを守ってあげるよ」


「ああ、王子様……」


 なんてチョロいんだろう。楽勝だ。

 あの女がいたせいで随分遠回りさせられたけど、もう私の邪魔をするやつは誰もいない。このままこの世で最高のハッピーライフを満喫してやるとしよう。おほほほほほほ。