エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山 浪漫
episode50
悪役令嬢、怒りの乱れ撃ち。
いやいや、終わりませんからね?
こんなバッドエンドで終わってたまるものですか。
しかし、嗚呼なんという悲劇だろうか。愛しのイチゴのショートケーキが目の前で火あぶりの刑に処せられてしまうだなんて……。
神を名乗る輩は、仕事もせずに一体何をしているのか。いずれマウントポジションからボコボコにしてやる必要がありそうだ。
思わず人生終了したかと錯覚するほど、お先真っ暗、心は奈落の底に落ちかけてしまったが、このまま我が第二の人生を終わらせてなるものか。
命尽き果てようとも愛しのイチゴショートの仇を討つまで死ぬわけにはいかない。この恨み晴らさいでか。
けれども、忘れてはいけない。どれほど怒り心頭、怒髪天を突いても突いても気が済まない心理状態であったとしてもワタクシはエトランジュ・フォン・ローゼンブルク公爵令嬢。あくまでお淑やかに、あくまでエレガントにあらねばならない。
……と心の中では思っているものの、冷静に行動しようと努める理性の働きと、一刻も早く息の根を止めてやりたいという本能の働きとが先刻からチグハグに機能し始めており、最終的には1対99の大量リードで本能が圧勝。ワタクシの次の行動が決定した。
「むきゃきゃきゃきゃきゃきゃーーーー!!!!!!!」
「お嬢様がブチ切れた!!?」
その後のことは自分でもよく覚えていないのだが、見るも無残、語るも憚られる阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられたことだけは何とはなしに記憶している。
まずは愛用しているWSCディフェンダーを両手に、片っ端から敵めがけて乱れ撃ち。
しかしながら大気中の精霊四属性を自由に選択して撃ちまくれる弾切れ知らずのアーティファクト級マジックアイテムとはいえ、いかんせん短銃。ワタクシの怒りを表現するには少々威力が足りなかった。
「イグナシオ! もっと威力のえげつない銃を!!」
「は、はい、エトランジュお姉様!!」
お次に取り出しましたるは、『WSC(ワルサンドロス)ウージー地獄改』。かつてシュワルツとの戦闘で彼が自慢げに使用していたイグナシオ特製のサブマシンガンだ。
あれからイグナシオとシュワルツから教わったのだが、マシンガンとは命中率の低さを弾数で補う連射式の重機関銃で、サブマシンガンは携帯性に優れた軽量な短機関銃のことを言うらしい。サブマシンガンは比較的乙女にも扱いやすいため、これを両手に持ってブッ放した。
ガガガガガ!
ガガガガガガガガガガッ!!
ふむ。なかなかの威力。だが、その銃声は公爵令嬢が奏でるにはいささかゴージャスさに欠ける気がした。
「もっとよ、イグナシオ! もっと災害級の破壊力のある銃をちょうだい!」
「う、うん! これならどうかな、お姉様!!」
ワタクシの無茶ぶりにてんやわんやのイグナシオ。それでもすぐさまワタクシの望みを叶えてくれるあたり、さすが天才少年、さすが我が弟。
その彼が取り出したるは異形の丸太のような銃身をした機関銃のようなものだった。
「これは多砲身機関銃、いわゆるガトリングガンってやつさ。艦艇や航空機に装備するマシンガンと言えばわかりやすいかな。とにかく大きくて破壊力は抜群。そのガトリングガンの中でも1分間に4000発の5.56㎜弾の射出を誇るエンプティ・シェル社のXM556をベースに魔改良を施したのが、この『WSC(ワルサンドロス)XM556改・デビルシスター“エトランジュ”』さ。一番の特徴は命中率の低さを自動追尾機能でカバーした点だね。この自動追尾機能はエトランジュお姉様の脳と魔法でリンクさせたAIを搭載していて、お姉様が狙った敵を完全に消滅させるまでどこまでも追い続けるんだよ。結果、お姉様の前にはぺんぺん草一本たりとも残らないってわけさ」
うん、とんでもない破壊兵器だってことはよくわかったんだけど、そんな破壊兵器にワタクシの名を銘打つのはおよしなさい、我が弟よ。
まあ、それはそれとして早速威力のほどを見てるとしよう。
バルルルルルルルルルル!!
バルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!
おー、これはいいですわ。射出音も心地よく気分爽快。すさんだ心が洗われるようだ。
嗚呼、なんて晴れやかな気持ちなのかしら。
おほほほほ。これは癖になりそうですわ。
弾幕と粉塵でみるみるうちに敵陣の様子が見えなくなってゆく。このままいけばすべての生命は跡形もなく消滅し、イグナシオの言った通りぺんぺん草の一本も残らない焼け野原となるだろう。
ふっふっふっ……!
おっほっほっほっ!!
ふはははははははははははは!!!!
「お嬢様。失礼いたします」
ドスッ!
敵は前方のみだと思っていたら、背後から突然の衝撃が襲ってきた。
なんで?
どゆこと……?
いつの間に背後に敵が…………?
薄れゆく意識の中、パチパチと拍手のような音が聞こえる。
これは耳鳴り? 片っ端から銃を撃ちまくったせいかもしれない。
パチパチパチパチ。
「ナイス正拳突き。グッジョブだ、メイドのお嬢ちゃん」
「ひゃは~、すごーい! メイドちゃんは地獄の平和を守る正義のヒロインだね~♪」
「お手柄ですね、スイーティアさん。あのまま半狂乱のご主人様を放置しておいたら、僕たちまで巻き添えになるところでしたよ。スイーティアさんは命の恩人です」
「えへへ、それほどでも。ブチ切れたお嬢様をお止めするには、ああするしかなかっただけですから」
「いやいや、ご謙遜を。我々がやると、あとでどんな報復が待ち受けているかわかったものではありませんからね。助かりましたよ。このエリト、あなたの勇気ある行動に敬意を表します、スイーティア嬢」
「それにしても、地獄で地獄を見ることになるとはね……。エトランジュちゃんを怒らせると、こういうことになるわけね。気をつけよ~っと」
「だな。スーも、エトランジュを怒らせないように気をつけな」
「うん、わかった。エトランジュちゃんのスイーツだけは盗み食いしないでおくのでスー」
意識が朦朧として、いまいち事態がよくつかめないが、どうやらスイーティアのおかげで地獄の平和が守られたようだ。
ひょっとしてワタクシを背後から襲った敵を始末してくれたのかしら? さすがワタクシの専属メイドですわ……。
安心したら今度は強烈な睡魔が襲ってきた。
スイーティア……。
ワタクシ、疲れましたわ。
なんだか、とっても眠いの……。
スイーティア………………。
……あれ?
これって、まさかこのまま天国へ行っちゃうパターン?