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目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode73

幕間狂言:正ヒロイン、勇者パーティーを結成する。

 魔王探しの任をジュエルに命じたとき、もう少し抵抗されると思ったけど意外とすんなりと引き受けてくれた。

 腹立たしいほどエトランジュ一筋だったジュエルも、当のあの女が死に、その忠誠心は行き場を失ったのかもしれない。時が経てば、あんな女のことなど忘れてしまうだろう。そのタイミングを見計らって、私が優しく声をかけてやれば、いとも簡単になびくに違いない。

 あの生意気なジュエルが、私にかしずく姿を想像するだけでゾクゾクする。


 第一王子との最後の学園生活を飾るに相応しい一大イベントの準備は整った。

 聖ウリエール学園最終学年の第一王子と、今年入学したばかりの私がかけがえのない青春時代を過ごせる期間は、もう1年にも満たない。

 だが、先に片づけておくべき重要イベントは、すべて片づけた。

 エトランジュの断罪。

 第一王子との婚約。

 お父様とお母様の始末。

 ……準備は万端だ。


 残る重要イベントは、勇者パーティーを結成して、魔王を退治すること。

 そして第一王子との結婚。

 そのあとは……。ふっふっふっ。


 エトランジュが死んでからというもの、ようやく私の思い描いた通りの世界になってきた。やはりあの女が最大の障害だったのだ。

 あの女ときたら悪役令嬢のくせにヒロインである私をちっともいじめてこなかった。

 いじめるどころか、まったく私に関心を示さなかった。

 この私を意にも介さないなんて……。本当にムカつく女。


 悪役令嬢はヒロインの引き立て役であるべきなのに。

 悪役令嬢がちゃんと悪役令嬢しないと、ヒロインが目立てないじゃない。

 ヒロインは悪役令嬢にいじめられるからこそ、イケメンたちに同情され、仲良くなり、イチャイチャラブラブやっちゃって、ゴールインできるのに。

 エトランジュ・フォン・ローゼンブルクは悪役令嬢失格だった。

 あんな出来損ないの悪役令嬢は、もっと早くに始末すべきだった。

 しかし、そう簡単にはいかなかった。


 エトランジュは手強い。その闇魔法の威力は凄まじく、私の光魔法に唯一対抗できる力を持っている。

 けど、それ以上に厄介で、どうしようもなく腹立たしかったのは、彼女の我が道をゆく強靭な意志だ。

 周囲の目や声をものともせずに我が道をゆく精神力。

 あれが恐ろしい。

 あれが悔しい。

 あれが許せない。

 悪役令嬢のくせに、あれではまるでヒロインのようではないか……。


 エトランジュがこの世に存在したままだと、学園生活最後の重要イベントが台無しになる。

 あの女がいたら勇者抜きで勝手に魔王をやっつけて、勝手に冒険を終わらせてしまうに違いない。

 勇者パーティーを復活させて、魔王を倒し、私が正ヒロインから光の聖女へとクラスチェンジするという大事なイベントを無茶苦茶にされてしまう。

 だから断罪し、始末した。

 最後の学園生活を完璧にするため、どうしてもエトランジュは邪魔な存在だったのだ。

 私は悪くない。エトランジュが悪いのだ。

 けど、もう終わったことだ。

 あの女のことは、もう忘れよう。


 ジュエルが退室した後の生徒会室を見回してみる。

 そこには私が理想として描いてきた世界がある。

 選りすぐりのイケメンたち。魔王退治のために集まった勇者パーティーのメンバーだ。

 聖ウリエール学園・高等部に上がる以前から人選に人選を重ね、綿密な計画を練り、私が高等部に入学したときに全員そろうようにちゃんと計算してあるのだ。

 苦労あって、こうして最高のラインナップをそろえることができた。


 勇者:生徒会長 第一王子

 聖女:副会長 アンジェリーナ・フォン・ローゼンブルク

 戦士:広報 ナイトハルト・フォン・アインツェルゲンガー

 戦士:庶務 ジークフリード・フォン・ゼーレ

 魔導士:書記 シュテルクスト・フォン・ヴァイザー

 ヒーラー:会計 エミール・フォン・フリューゲル


 勇者である第一王子と聖女の私は、すでに学園どころかエーデルシュタイン王国全土が認める鉄板のカップルだ。

 第一王子を料理に例えるなら、いわばメインディッシュ。

 となれば、前菜とスープ、サラダにデザートも欲しくなるのが女の性というもの。


 ナイトハルト・フォン・アインツェルゲンガーは、武勇を誇るアインツェルゲンガー辺境伯の次男。第一王子とは同級生で、親友と言って差し支えない間柄だ。

 武芸のほうは辺境伯家の中では今一つという評価のようだが、そんなことはどうでもいい。

 均整の取れた細身の筋肉質の肉体に、見ていて飽きることのない甘いマスク。

 前菜として申し分ない。毎日でも食べられる。


 ジークフリード・フォン・ゼーレは、私より一つ上の高等部二年生。現・騎士団長であるゼーレ伯爵の三男坊だが、実は王と伯爵夫人の間に生まれた第二王子である。その醜聞は公然の秘密であるため、誰もが第一王子を王太子と呼ばずに第一王子と呼び続けている。ま、両方手に入れるわけだから私にとっては些末なことだ。

 彼には将来、騎士団長として王家に仕えてもらう予定だが、武芸の評価は中の下ぐらい。だけど問題ない。どうせお飾りの騎士団長なのだ。せっかくなら見栄えのいい男をはべらせておきたい。

 その点、ジークは文句なし。おかわりしたいぐらいの濃厚で豊潤で喉越し最高のスープだ。


 シュテルクスト・フォン・ヴァイザーは、宮廷魔導士の長であるヴァイザー侯爵の一人息子。私の同級生だ。

 宮廷魔導士長の一人息子として存分に甘やかされて育ったため、わがままで生意気なやつだが、初等部時代にきっちり躾けてあるので私に対してはとても従順。

 容姿は私の好みに育ててきたので、こちらも文句なし。

 口の中の気分を変えたいときのサラダとして気軽にいただける。


 エミール・フォン・フリューゲルは、一神教であるエーデルシュタイン王国において神官長を務めるフリューゲル公爵の長男。その血筋は王家に連なり、公爵家の中でも筆頭の地位にある。

 第一王子、ナイトハルトと同級生の三年生だが、控えめな性格で自分の意見をほとんど口にしない。

 中性的な容姿と長く美しい髪とも相まって、殿方に言い寄られることも多いとか。

 このデザートは、メインディッシュの後に舌で転がすようにして味わいたい。


 以上、私と第一王子を含めて計6名が勇者パーティーとなる。

 一応、建前上は勇者パーティーを名乗ることにしておくが、聖女とその仲間(本命、愛人、奴隷)たちというのが実態だ。

 勇者である第一王子とはすでに結婚することが決まっているので、あとはじっくり他のメンバーも攻略していくとしよう。

 と言っても、シュテルはすでに躾けが済んでいるし、残りの先輩方にもそれなりに手は付けてあるので、攻略は時間の問題だろう。

 全員攻略すればハーレムエンドの完成だ。


 あ、そういえば、ジュエルも勇者パーティーのメンバーに入れたんだっけ。

 ジュエルはエトランジュを始末しなければ現れなかった隠しルートのレアキャラだ。この機会に是非とも攻略しておきたい。

 食前酒(アペリティフ)として喉を潤すか、食後酒(ディジェスティフ)として楽しむか。

 どちらにしても美味しくいただけそうだ。