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目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode66

悪役令嬢、王族暗殺未遂の前科あり?

「それでは、一つめの質問をします。ワタクシは、なぜ処刑されなければならなかったのかしら?」


 睡眠薬を盛られ、宮廷魔導士100人がかりで捕縛され、ギロチン台の前で声高らかに宣告された罪状は王族暗殺未遂。当然、ワタクシに身に覚えはない。

 王や第一王子をいっそ殺してやろうかという衝動にかられたことは一度や二度ではないが、それは心の中の出来事であり、現実にはちゃんと思いとどまっている。

 ワタクシって、えらい。ワタクシって、理性的。

 ……と、誰も褒めてくれないので自画自賛してみる。


 ワタクシは由緒正しきローゼンブルク公爵家の正統なる後継者であり、頼んでもいないのに勝手に後見人となったのはエーデルシュタイン王国宰相である義叔父ラギール・フォン・ランデール公爵であり、さらには欲しくもないのに強引に与えられた第一王子の婚約者という立場にあった。

 大人しくしていれば自動的に王妃の座が転がり込んでくるわけだ。

 普通に考えれば、人がうらやむポジション(ワタクシ自身は後見人も婚約者も全然うれしくないけれど)にいたのだから、わざわざ危険を冒して王族暗殺未遂など起こすはずがない。

 にもかかわらず、ワタクシの罪は既定路線であるかのように断定され、即日断罪された。

 明らかに何者かがワタクシを陥れようと画策したのだ。


 ワタクシが成人する前に死ねば、後見人たる義叔父と、お父様の実の妹である叔母は、ローゼンブルク公爵家の財産を我がものにできる。

 叔母夫婦は、ワタクシが死んで得をする人物、つまり動機的には真犯人の最有力候補なのである。

 しかし、ワタクシの質問に対する反応は意外なものだった。


「へ?」


 義叔父がお間抜けな顔で素っ頓狂な声を上げる。


「は?」


 叔母は「何をぬかしてやがるんだ、コイツは?」とでも言いたげに怪訝な表情をしている。

 これは一体、どうしたことか。予想外の反応に戸惑ってしまう。


「何を言っているのだ、エトランジュよ。お前が処刑されるのは当然のことではないか」


「そうよ。今まで死刑にされなかったのが不思議なぐらいですわ」


 え? え? どういうことかしら?

 ワタクシが処刑されるのは当然? 今まで死刑にされなかったのが不思議?

 彼らが何をのたまっているのか理解できない。頭が混乱する。

 しかし、そんなことはお構いなしに叔母夫婦がここぞとばかりに、ワタクシが過去におこなった、(彼らにとっての)悪行を次々と暴露していくのであった。


 たとえば、世界征服などという分不相応な野望を持つ王に闇魔法を見せろと命じられて、やむなしに対応したときのこと――

 ・

 ・

 ・

「第一王子の婚約者エトランジュよ。そなたの闇魔法の評判は聞き及んでおる。この場でその威力を披露してみせよ」


「……どのような魔法をご所望でしょう?」


「うむ、そうじゃな。どうせなら強力なやつがいい。隣国のやつらが震え上がるような闇魔法だ」


「……この場で使用するのは少々危険かと思いますが、よろしいのでしょうか?」


「構わん構わん。このエーデルシュタイン城は堅牢をもって諸国にも知られておる。建国より500年が経過した今日に至るまで一度たりとも傷をつけられたことがないのじゃぞ」


「……本当によろしいのですね?」


「くどい。王たるこのワシがやってみせよと命じたのじゃ。そちは大人しく従えばよい」


「……では、万が一にも城に傷がついたとしても国王陛下の責任ということでよろしいでしょうか?」


「はっはっはっ、面白い。そちの闇魔法にはワシも期待しておるのじゃ。この城に傷の一つでもつけられたなら褒美をとらせてしんぜよう」


「(よし、言質はとれましたわ)……そこまでおっしゃるのでしたら、ご覧に入れましょう。……暗黒星よ。闇に煌めく星々よ。我が呼びかけに応え、怨敵を殲滅せよ。メテオ」

 ・

 ・

 ・

 闇魔法の中でも禁呪とされるメテオを屋内で使用したのだ。500年の歴史を誇るエーデルシュタイン城の謁見の間は脆くも半壊。

 形あるものは、いつか壊れる。栄枯盛衰、盛者必衰の理というやつだ。仕方ない、仕方ない。


 しかし、王はひっくり返って卒倒し、隣にいた王妃は泡を吹いて痙攣し、ワタクシを売り飛ばした叔母夫婦は一目散に逃げだした。

 唯一、その場に立っていられたのはワタクシと、意外にも第一王子。

 その第一王子も立ったまま真っ白になって気絶していただけだったけれど……。


 その後、王妃と第一王子は王城を破壊した罪でワタクシを追放しようとしたけれども、王の命令に従っただけだということはその場にいた大勢の臣下の知るところであり、ワタクシを売り込んだ叔母夫婦が自分たちに累が及ばぬように最終人間兵器の威力の素晴らしさを殊更強調してくれたおかげで無罪放免となった。


 というのが事の真相なのだが、叔母夫婦は「あれは王族暗殺計画の序章にすぎなかった」だの、「そのあと王を脅迫して金貨をせしめた」だの、勝手に尾ひれはひれをつけていく。

 確かに金貨は頂戴したが、あれは王が城を傷つけることができればご褒美をくれると言ったから、その約束を守らせてあげただけのこと。ワタクシは何も悪くない。仲間たちも叔母夫婦の虚言妄言など耳を貸さないだろう。


「それは確かに処刑されるのは当たり前なのであります」

「その場で死刑にされなかったのがホントに不思議なのでスー」

「王たちからすれば姐さんを処刑したのはモンスター退治みたいなもんだったんだろうなぁ」


 あれれー?

 満場一致でワタクシが処刑されたのは当然という結論に至ってしまった。

 おかしいなぁ。なんでだろ……?