エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山 浪漫
episode24
悪役令嬢、現在の地獄の統治状況を知る。
ワルサンドロス商会までの道中、ヒマを持て余してきたので地獄に堕ちて以来ずっと気になっていた謎について、エリトに尋ねてみる。
「ねえ、どうしてワタクシは地獄に堕ちましたの?」
同じ疑問を持っていたのか、膝で抱えていたネコタローとスイーティアがうんうんと頷いて見せる。
対照的に地獄の三人組はと言えば珍獣を発見したかのような驚愕の表情で、ワタクシを見ている。
「え……? もしかして、ご主人様はご自分が死んだら地獄行きになるのが当然だという自覚がなかったのですか?」
「くっくっくっ。まかり間違ってご主人様が天国に行ったとしたら……想像するだけで、吾輩、笑いが止まらないのであります」
「ひゃは!? ご主人様って、冗談も上手なんだね~! ウケる~!」
どうやら三人組には再教育が必要なようだ。あとで校舎裏へ呼び出すとしよう。
それはともかく、ワタクシに尋ねられた当のエリトは答えに窮して困惑している。何やら言いにくそうなことがあるようだ。彼の口からもワタクシが地獄に堕ちて当然的な言葉が出てこようものなら、放課後を待たずこの場でまとめてボコボコにして差し上げよう。
「これは大変申し上げにくいことなのですが……、先代魔王様が行方知れずになって以来、甥っ子のアホーボーン様が地獄を統治なさっておられまして……、その魔王アホーボーン様の地獄の運営方針は何と申しますか……、一言で申しますと超テキトーなのです」
……なるほど。
では、ワタクシもネコタローもスイーティアもその超テキトーな魔王のせいで超テキトーに地獄に堕とされたというわけか。それが事実なら、いずれ魔王には顔面パンチの100発も喰らわして差し上げてやらねばなるまい。
「地獄の審判も先代魔王様の方針とは打って変わり、地獄で改めて罪の有無を吟味することなく、効率化の一環と称して人間世界で下された罪状をそのままコピペしている状況です。ゆえに人間世界で有罪になった時点で、地獄堕ちは確定なのです」
職務怠慢どころか、職務放棄。それでは地獄は冤罪被害者のオンパレードではないか。
超テキトーな魔王のせいで地獄に堕とされたことを憤っているのだろう。膝の上のネコタローが「フー!」と唸って怒りに震えている。
「けど、考えようによってはいい話じゃないですか。地獄の審判をちゃんとやり直してもらえたら、お嬢様は晴れて天国へ行けるわけですから」
「ふふっ。それは貴方にとっても同じでしょ、スイーティア」
自分のことよりも先にワタクシが天国へ行ける可能性に希望を見出す。この天使のようなスイーティアを地獄に堕とした者たちは万死に値する。
でも、正直なところワタクシ自身は天国とやらにまるで興味がない。
だって、天国って可憐な乙女であるワタクシが無実の罪でギロチンにかけられるのをみすみす見過ごしたアホな神の住処でしょ? 一発しばきに行くというのなら喜んで行くけど、そこに住みたいとは微塵も思わない。
それに――こうして地獄で暮らしてみると、地獄が自分の性に合っていることがよくわかってきた。ここは人間世界なんかよりも、よっぽど自由で生きやすい。
「ワタクシは地獄が気に入ったから、このまま地獄で快適にハッピーに暮らしますわ。けど、スイーティア。貴方が天国に行きたいのなら、今すぐにでも天国に行く方法を探しますわよ。お金に糸目をつけず、手段を選ばず、力ずくでもね」
「……ふふっ。ありがとうございます、お嬢様。でも、私はお嬢様さえいらっしゃれば、どこにいても幸せです。天国よりもお嬢様命。神様よりもお嬢様命。スイーティアは、お嬢様のいらっしゃるところ、地獄の果てまでもお供いたします」
ああ、スイーティア。貴方という人は……。
やっぱり嫁にするならスイーティア一択だ。異論は認めない。