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目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode87

悪役令嬢、魔王の本気を見る。

「来るぞ」


 静かにつぶやくネコタロー。

 その直後、禍々しい魔力が魔王アホーボーンの手のひらに集中していく。

 闇魔法の発動か。

 こうして他人が闇魔法を使う姿を見るのは、なんだか新鮮だ。いつも一方的に使うばかりだったし。


「させないよ!! シュワルツさん!!」


「おう! こっちは準備万端、いつでもOKだぜ、坊ちゃん!!」


 先手必殺とばかりにイグナシオとシュワルツが『WSC(ワルサンドロス)XM556改・デビルシスター“エトランジュ”』を構える。

 魔王アホーボーンに闇魔法を使う間も与えず、始末してしまおうという算段だろう。


 バルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!

 バルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!


 よほど魔王の闇魔法を警戒しているのか、はなっから容赦なくガトリングガンをブッ放す二人。

 ワタクシの名を冠したこのバケモノじみた兵器の前に、さしもの魔王もひとたまりもあるまい。

 心優しいワタクシは、そっと目を閉じて祈りを捧げる。

 さらば、魔王アホーボーン。貴方のことはたぶん忘れない。地獄も魔王城もすべてワタクシがいただくから安らかに眠ってちょうだいな。


 弔いの言葉を心の中で唱え終わり目を開けると、てっきりお亡くなりになったものとばかり思っていた魔王アホーボーンの手のひらに、無数の鉛玉が集まっている様子が目に飛び込んできた。


「あ、姐さん! あの魔法は……!!」


「闇魔法マグネチートですわね」


 驚きを隠せないシュワルツ。

 彼と初めて会ったときに、彼の銃撃を闇魔法の磁力ですべて吸い寄せて無効化したのが、他ならぬこの闇魔法マグネチートだった。

 そういえば、あのときはただ鉛弾を集めるだけだと芸がないと思って、もう一つの闇魔法を使った。


「黒炎の女王に命ずる。我が道を妨げる存在を融解せよ。メルティアラ」


 まさかまさか。

 ワタクシと同じことを?

 やめてやめて。

 貴方と同じ思考回路だったなんて事実は、とてもじゃないけど受け容れられない。

 しかし、現実は残酷なもので魔王アホーボーンの呪文によって闇魔法メルティアラが発動される。

 ドロドロに溶けた銃弾が少しずつ人の形へと変わっていき、やがて完成したのが半裸状態でポーズを決めた魔王アホーボーンの像だった。

 できることなら見たくなかった。

 チート兵器と言っても過言ではないガトリングガンの銃撃を防ぎきるとは、もしかするとワタクシのマグネチートよりも威力が高いかもしれない。

 だが、それよりもショックだったのは、魔王アホーボーンとやっていることが同じだったという現実。できればこの現実からは早々に目を逸らしたい。


「なんの、これしきのことで我が地獄の軍団はひるみませんことよ!!」


 ワタクシの言葉に呼応するように、三人組、獣人三姉妹、アリアとその親衛隊が時間差をつけて飛びかかる。

 さあ、魔王よ。この多重時間差攻撃をどうしのぐ。


「常しえに定められし理を捻じ曲げよ。我は反逆する者なり。グラビティ・ヘル」


 勢いよく飛びかかった三人組たちが不自然に地面に吸い寄せられる。

 間違いない。闇魔法グラビティ・ヘルだ。しかも、禁呪クラスとまではいかないまでも、闇魔法の中でも上位魔法に属するグラビティ・ヘルを時間差攻撃してきた相手に多重発動させるとは。これで闇魔法を極めた先代魔王が認めた才能というのは、噓偽りないことが証明された。

 魔法が使えたときのワタクシに同じことができたかというと、おそらく無理だ。

 ここまでさんざんお馬鹿な行動を見せてきた魔王アホーボーンだけにとても腹立たしいが認めざるを得まい。こと闇魔法に関しては魔王アホーボーンのほうが上だということを。


「魔力だけは凄まじいと思っていましたが、まさかこれほどまでとは……」


 総参謀長を自認するエリトの慧眼でも魔王の真の力は見抜けなかったようだ。

 己に対する怒りなのか、それとも恐怖のためか、彼の身体はふるふると震えている。


「まるでお嬢様と戦っているようです」


 失礼しちゃうわと否定したいところだが、次々と繰り出される闇魔法を見せつけられては否定できない。正直なところ、今の今まで自分と比肩しうる闇魔法の使い手が存在するとは思っていなかった。

 生前、闇魔法を習得して以来、敵意を向けてくる相手にやりたい放題やってきたが、初めて闇魔法で攻撃される側の気持ちがわかった気がする。

 確かにこれは恐ろしい。人間が扱っていい代物ではない。禁呪まで使える人間を王族が脅威とみなすのも無理はない。これはギロチン送りにされても文句は言えない……かもしれない。


「暗黒星よ。闇に煌めく星々よ。我が呼びかけに応え、怨敵を殲滅せよ。メテオ」


 トドメとばかりに、魔王アホーボーンが闇魔法メテオを唱える。

 以前はワタクシも愛用していた禁呪だ。

 だが、今のワタクシにはメテオを防ぐ手段はない。

 まさか黒き惨劇、暗黒の魔女、闇の聖女と呼ばれたワタクシが、闇魔法で二度目の人生を終了することになるとは。


 因果応報?

 いいえ、反省なんて絶対にするもんですか。

 必ず三度目の人生を楽しんでやりますわ。