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目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode69

悪役令嬢、判決を下す。

「では、判決を下します」


 王都の最高裁判事のごとく、毅然とした振る舞いと口調で宣告する。

 叔母夫婦にとっては最後の審判。自分たちの生命がかかっているため、先刻からワタクシの言葉を、固唾を飲んで待っている。


「ワタクシを罠に嵌めて処刑した罪については、証拠不十分のため無罪」


 叔母夫婦の表情がパァと明るくなる。

 一方、仲間たちは不満顔だ。王族暗殺計画を偽造し、ワタクシを陥れた直接の犯人ではないかもしれないが、ワタクシが処刑されるのを、ただ指をくわえて見ていただけの彼らは十分罪深いという思いなのだろう。


「続いて、お父様とお母様を殺害した罪。これについては、事故なのか殺人なのか確たる証拠がないこと、それにこればかりは義叔父様と叔母様を信じたい……。よって、本件も無罪としますわ」


「よぉしっ!! 全面勝訴!!」


「やったわね、あなた! これで無罪放免ね!」


 歓喜の声を上げ、無罪判決を喜び合う叔母夫婦。

 義叔父は渾身のガッツポーズを決め、叔母はご機嫌で鼻歌を歌い始める。

 しかし、二人は大きな勘違いをしている。


「全面勝訴? 無罪放免? おほほほほほ、ご冗談を。そんなわけないでしょう?」


「な、なぜだ!? たった今、二つの嫌疑について無罪だと、お前自身が宣告したばかりではないか!」


「そうよ、そうよ! この大嘘つき!!」


「どうやら綺麗さっぱりお忘れになっているご様子ですけれども、お二人ともワタクシを害そうと1000人がかりで攻撃を仕掛けてきたことをお忘れではなくって?」


「「あ」」


 どうやら、なぜ自分たちが取り囲まれ、縄で縛り付けられているのか思い出したようだ。

 つい先ほどまで戦争していたのだ。言い逃れの余地はない。


「私利私欲のためにワタクシの仲間を危険にさらした罪は重いですわよ」


「ゆ、許してくれ、エトランジュ! 地獄での生活があまりにも辛かったから、つい出来心でやったことなのだ! 私たちは何も悪くない! 地獄の環境が悪いのだ!!」


「わ、私はウォルフ兄様の実の妹なのよ!? その私にひどいことをしたら、天国にいる兄様がどれだけ悲しむかわかっているの!?」


 うーん。びっくりするほど反省の色が見えない。まあ、反省するという点においてはワタクシも人のことをどうこう言えないのだけれど。

 しかし、こういう態度に出られると、いかに世間で情け深いと評判のワタクシでも情状酌量の余地がない。怒れる仲間たちの気も済まないだろう。


 とはいえ、罪を憎んで人を憎まずという言葉もある。

 ワタクシにはその言葉はあまり心に響かないのだが、優しいお父様とお母様ならきっと叔母夫婦が心を入れ替えて真っ当な人間になるための機会をお与えになるはずだ。

 よし。ここはひとつ、叔母夫婦の選択肢を与えるとしよう。

 なんだかんだ言いながらも、やっぱりワタクシって人情派。


「義叔父様、叔母様。お二人には、これから申し上げる三つの選択肢があります。そのいずれかを貴方がた自身でお選びになってください」


 叔母夫婦の顔がみるみるうちに青ざめていく。

 一体、どんな選択肢を想像しているのやら……。


「一つ、今すぐ消滅」


 ひゅっと息を飲む二人。

 当然の反応だ。死んで地獄に堕ちてきた身の彼らにとっては早くも再び死刑宣告されたのと同じなのだから。


「消滅すれば地獄の刑罰を受ける必要もなくなりますし、苦しまずに楽になりますわよ? うまくいけば来世は石ころの裏で蠢いている虫ぐらいには転生できるかもしれませんわね。いかがかしら?」


 叔母夫婦が無言で首をブンブンと何度も何度も横に振る。

 すごい。人間の首って、こんなに早く動かせるものなんだ。人体の神秘を見た。


「あら、残念。オススメでしたのに。では、二つめの選択。このまま大人しく地獄で刑罰を受けること。お二人の生前の罪がどれほどのものか存じ上げませんけれど、きちんと地獄での刑期を務めあげれば、来世は下水道を元気に駆け回るネズミぐらいには転生できるかもしれませんわね。このプランもオススメですけれど、いかがかしら?」


 叔母夫婦の反応は変わらず、ずっと首を横に振り続けている。

 このままだとワタクシが手を下すまでもなく首がもげてしまうのではないかと思う。


「仕方ありませんわね。それでは最後の選択です。ワタクシたちに攻撃を仕掛け、命の危険にさらした罪を償い、ワタクシの家来になること――」


 先程まで恐ろしいスピードで左右に動いていた叔母夫婦の首がぴたりと止まる。

 義叔父のかつらは激しい振動のせいでずり落ちそうになっている。

 プルプルと震えている頭の中ではワタクシの軍門に下ることのメリットとデメリットを猛スピードで計算しているのだろう。


 叔母はわなわなと身体を震わせて顔を紅潮させている。これまで小娘と見下してきたワタクシの家来になるという屈辱、公爵夫人宰相夫人としてのプライド、生への渇望が混然一体となり、怒涛の葛藤中といったところか。


 1 今すぐ消滅

 2 地獄の刑罰を受ける

 3 ワタクシの家来になる


 三つめの選択肢を提示したことによって、叔母夫婦が①や②を選ぶ可能性もある。

 彼らにとってワタクシの家来になるというのは、それだけ過酷な選択なのだ。


「さて、お二方。どの選択になさいます?」