エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山 浪漫
episode77
悪役令嬢、魔王のものはワタクシのもの。
地獄の大洞穴にあった城門を飛び越え、奥へ奥へと進んでいく。
さすがに魔王城に到達するまでに飛行型の悪魔たちが来襲してくるかと警戒していたが、特に何事もなく拍子抜けするぐらいあっさりと魔王城と思しきひときわ大きく豪奢な城の前に着陸することができた。
かつて魔王と戦った伝説の勇者たちは、ちゃんと正面から城門を攻略するなり、秘密の入り口を見つけるなりしてきたのだろう。魔王とその配下たちもまさか空飛ぶ乗り物でショートカットしてくるやつがいるとは思ってもみなかったのかもしれない。
せっかく侵入者を待ち構えるために日頃からのたゆまぬ鍛錬や、試行錯誤を重ねてきた罠を用意していたのなら誠に申し訳ないことをした。お詫びにワタクシがこの魔王城の主となったあかつきには、すべてそのまま採用してあげることにしよう。
魔王とその配下たちの油断を証明するかのように、魔王城の正面入り口にある巨大な扉もパックリと口を開いたままだ。油断ではなく余裕、王者の風格というやつなのかもしれないが、できれば建造物は破壊せずに侵入したいワタクシとしては、しめたものである。
移動要塞マカロンを飛行タイプから陸上タイプにトランスフォームモードを切り替え、ありがたく検問なしで扉をくぐり抜けさせていただく。あとは扉を閉ざして、我々の侵入に気づいた悪魔たちが背後から押し寄せてくるのを防げばいいだけだ。そうすれば33名で戦うワタクシたちの敵を、魔王城内にいる悪魔だけに絞ることができる。
しかし、ここで一つ問題に気づく。
何かというと、このあと扉を閉ざした場合、扉を破壊して城内に押し入ろうとする輩が必ず現れるということだ。彼らが魔王への忠誠心で動いているのか、ワタクシに懸けられた賞金首が目当てなのかはわからないし、この際どうでもいい。とにかく門を破壊されるのは嫌だ。せっかくここまで飛行モードで余計な戦闘を避け、建造物を破壊しないように行動してきた努力が水の泡になる。
ここは何としても後顧の憂いを断っておきたい。
「うーん。どうしたものかしら……?」
「何をお悩みなのですか、ご主人様?」
頭をひねっていると参謀のエリトがお悩み事ならお任せくださいとばかりに声をかけてくる。
「どうせエトランジュのことじゃ。何か良からぬことでも企んでおるのじゃろう」
サキュバスの姫アリアが半ば確信した様子で断ずる。
良からぬことだなんて失礼な。ワタクシは常にワタクシと仲間たちのメリットのことしか考えていません。まあ、その結果、敵に回った方々にはひどい目に遭っていただくことがままあるかもしれないけれど。
「おい、エトランジュ。敵さんのおいでのようだぜ」
「ひい、ふう、みい……パッと見ただけで500はいるみたいでスー」
獣人三姉妹には、かつて居住していた魔王城の案内を依頼している。その三姉妹の次女のベロと末っ子のスーが、さっそく飛行してきたワタクシたちに気づいて追ってきた悪魔たちの来襲に気づく。
さすがワンちゃんタイプの獣人。鼻が利くようだ。
「まあ、こんなに早く敵がやってくるなんて……なんてラッキーですの!」
「お嬢様、頭、大丈夫ですか?」
ぐふっ。我が専属メイドの発言はたまに我が心をえぐりに来ることがある。
「心配はいらないわ、スイーティア。ここで扉の外にいる方たちに絶対的な恐怖を植えつけておけば、扉を壊してまで城内に押し入ろうなんて考えるお馬鹿さんは現れないでしょうからね。ここは徹底的にやっておくとしましょ」
「なるほど、そこまでして城に傷をつけたくないわけなのね、エトランジュちゃんは」
呆れたという顔で三姉妹の長女ケルは言う。
え? 当り前じゃないの? かつて人間世界に君臨した暴君が「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの」と言ってのけたらしいが、近々この城はワタクシのものになるわけなのだから1ミリたりとも傷つけたくない。そのための配慮なのに、なぜ呆れられるのだろう。不思議だ。
「というわけで、イグナシオとシュワルツ。貴方たちにお願いするわ。迫り来る敵を排除なさって。徹底的に、二度と抗戦したくなくなるように、とことん恐怖を植え付けて差し上げて」
「はい、お姉様」
「へいへいっと。前々からとんでもないお嬢様だとは思っていたが、ここまでやるとはさすがの俺もドン引きだぜ」
我が自慢の弟イグナシオは素直に二つ返事。なんてかわいい子なの。
一方、やれやれと言った様子のシュワルツ。憎まれ口をたたいているものの、その瞳にはすでに歴戦の勇者の闘志が宿っており、ワタクシが注文した「恐怖を植え付ける」ための武器の選定についてイグナシオと相談を始めている。
魔王のものはワタクシのもの。ワタクシのものはワタクシのもの。
魔王城を美しいまま手に入れるため、さっそく作戦開始ですわ。