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エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode41

悪役令嬢、謎解きはスイーツのあとで。そして次なる戦いへ…。

 地獄の番犬ケルベロスの正体は、獣人三人?娘のケルとベロとスーが三位一体ならぬ三身合体した姿だった。

 そのケル、ベロ、スーの三人娘とは、すでに午後のスイーツタイムを共に楽しむ仲になっている。


「ねえねえ、エトランジュちゃん。どうしてアタシたちがスイーツ大好きだってわかったの?」


 大きな口でショートケーキを頬張る赤毛のショートヘアの女の子は長女のケル。人懐っこくて誰とでもすぐに打ち解ける社交家だ。けれどもスイーツには、てんでまるっきり弱い。


「オレたちの弱点がバレたのは、スーのやつが口元にホイップクリームを付けてたからだろ。どうせまた、オレたちに内緒でおやつをつまみ食いしたんだろうさ」


 むすっとした表情で末っ子を睨みつけながらも4杯目のチョコレートパフェを攻略中の女の子はベロ。長身でブルーのロングヘア。顔は不機嫌だが、しっぽをブンブン振り回して心は上機嫌。当然、この子もスイーツに目がない。


「でもでも、こうやって夢のようなスイーツに囲まれて過ごせるのはスーのおかげなんでスー」


 悪びれもせずチーズケーキとイチゴのタルトを交互に楽しむのは末っ子のスー。言動から二人の姉に甘やかされて育ってきたことは容易に想像がつく。くせっ毛のピンクのツインテールが特徴的だ。言うまでもなくスイーツの亡者。


 ケルベロスの弱点は謎解きなどという大げさなものではなく、至極単純明快なものだった。

 仲間たちの活躍で俯瞰して戦況を見極めることができるようになったワタクシは、ケルベロスの左の首、つまり末っ子のスーの口元に白いクリームが付いていることを見逃さなかった。

 最前線で戦っていたら見過ごすような小さなヒントを発見することができたのは、ワタクシ抜きで十分戦えることを示してくれた仲間たちのお手柄だと言えよう。


 戦場にホイップクリームを付けてくるような相手に何が有効かはワタクシが宇宙で一番よく知っている。

 類は友を呼ぶ。スイーツ好きはスイーツ好きを知る。スイーツは世界を救う。やはりスイーツは偉大なりけり。


「ねえねえ。聞いてよ、エトランジュちゃん。アホーボーンのやつったら、ひどいのよー」


「あの野郎、エトランジュの首を獲ってこなかったら一生スイーツ抜きの刑だって脅しやがったんだぜ?」


「一生スイーツ抜きだなんて、スーは死んじゃうんでスー!」


 なるほど、三人娘は地獄の魔王の命令でワタクシの首を狙ったわけか。

 スイーツを人質に取られたのなら致し方あるまい。ワタクシだってスイーツを人質に取られたら喜んで王と第一王子の首を引っこ抜くだろう。


「そんなにワタクシの首がほしいのなら自分でお越しあそばせばよろしいものを、家来に押し付けて、しかもスイーツを人質にとるだなんて言語道断。そんなおバカさんがトップだから地獄がいつまで経っても快適でスイーツな環境にならないのですわ。これは断固抗議せねばなりませんわね」


「ちょ、ちょっとお待ちください、ご主人様。地獄の貴族に名を連ねる者として申し上げますと、相手は腐っても魔王様。たとえアホでも、その魔力は魔王級なのです。いくらご主人様でも殺されてしまいます」


 エリトの進言に静まり返るティータイム。

 地獄に堕とされた、ただの可憐な公爵令嬢に過ぎないワタクシが魔王に挑むなんて、確かに無茶に違いない。けれども……。


「人にはね、決して譲れないものがあるのよ」


「スイーツですね。おかわりを作ってきます」


 笑顔で颯爽とキッチンへと向かうスイーティア。

 いや、そういうことを言いたいんじゃないのだけれど……。

 うちの専属メイドはワタクシのことをスイーツの権化か何かだと誤解しているようだ。

 せっかくいいことを言おうと思っていたのに、思いっきり話題が逸れてしまった。

 まあいい。結局のところ、大事なのはこの地獄で素敵な仲間たちと一緒に、快適でスイーツなハッピーライフを過ごすのが何よりも大切だということに変わりはないのだ。


 これまでのワタクシは、自分の生き方を貫くために戦ってきた。それが対立を生み、最終的には処刑された。

 しかし、今は違う。自分の生き方は変わらず貫き続けようと思うが、同じかそれ以上に大事なものができたのだ。

 仲間。友情。これに勝るものがあるだろうか。

 ケル、ベロ、スーの三人娘も今やスイーツの輪で広がった仲間だ。その仲間が苦しみ、虐げられている状況を黙って見過ごせるはずもない。


 ワタクシは、エトランジュ・フォン・ローゼンブルク公爵令嬢。

 仲間たちのためにも、地獄の魔王には力ずくでも快適でスイーツでやりたい放題なハッピーライフを約束させてやりますわ。


「敵は魔王城にあり! 移動要塞マカロン、全速前進でまいりますわよ!!」




 第4幕

 完