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エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode46

悪役令嬢、心は無敵状態。

 ワタクシとイグナシオが姉弟仲良く特訓している間、我が地獄の軍団が何をしていたかというと、のんべんだらりと無為な時を過ごしていたわけではない。それどころか年中無休24時間営業のてんてこ舞いだったらしい。

 というのも、魔王アホーボーンがワタクシの首にかけた賞金を狙って、地獄の悪魔たちが次々と昼夜を問わず急襲してきたからだ。


 エリトからの報告が事後になったのは、何やら秘密の特訓に励んでいるご主人様に余計な心配をかけたくなかったことと、賞金目当ての悪魔ぐらい自分たちだけで撃退できることを証明したかったからだという。

 おかげでワタクシとイグナシオは日夜特訓に集中することができたし、仲間たちも連戦連勝の無傷だったから、事後報告についてはお咎めなしとした。


 一抹の不安と寂しさを感じるが、彼らだけで問題を解決しなければならない場面はこれからも出てくるはずだ。その予行演習だと思えば、今後も彼らの裁量に任せて事後報告で済ませる案件を増やしたほうがよいだろう。

 多少の問題はどれだけ心配でも、ぐっと堪えて我慢する。彼らを信じて温かく見守るべし。ここは主人たる者の度量の見せ所とも言える。


 特訓期間は他にも嬉しい効果をもたらしてくれた。ワタクシたち姉弟が地獄の特訓を通じて絆を深めたのと同様に、仲間たちも戦いを通して絆を深め合っていたのだ。

 ヒッヒ、ネコタロー、スイーティア、ケル、ベロ、スーの前衛部隊。

 エリト、シュワルツの後衛部隊。

 クック、ヒャッハーの遊撃部隊。

 と、一応の役割分担はあるものの、固定観念にとらわれず、戦況や敵の特性によって臨機応変にフォーメーションを組めるように作戦会議、特訓、実戦、反省会のサイクルを回し、彼らは改善と成長を積み重ねていった。


 その結果、最近エリトとケルが何やらいい雰囲気だとか、ベロがヒッヒに恋心を抱いているだとか、そんな噂話まで聞こえてくるほど絆が深まっていった。

 いずれ仲間内から恋人同士になったり、結婚したり、なんだったら子供を授かったりなんてこともあったりして。

 将来どんなカップリングが生まれるか、ついつい勝手な妄想を膨らませてニヤニヤしてしまう。


 一方、痴話喧嘩だの、別れ話だの、離婚だのとチーム内の人間関係に亀裂が入るような事態が発生したときのことを想像すると今から胃が痛くなってくる。そこはそれぞれの相手に対する感情の問題なのでワタクシにどうにかできるものではないのだけれど、可能な限りご勘弁願いたいものだ。


 以上のような経緯で現在に至る。

 時は約1ヶ月が経過。所は魔王城へ向かう道中にて。

 ワタクシは、射撃と打撃という新スキルをひっさげ、晴れて戦線復帰。

 新メンバーとしてイグナシオが参入。というわけで、はい、ご挨拶。


「改めまして、エトランジュお姉様の弟、イグナシオです。特技は武器の開発と射撃、それから近接戦闘を少々。皆さんの足を引っ張らないように頑張りますので、これからよろしくお願いします」


 パチパチパチパチ。と歓迎の拍手で迎えられる。


「おいおい、エトランジュ。こんなガキを前線に引っ張り出して、大丈夫なのかよ?」


 口は悪いが真っ当な意見をしてくれたのはベロ。彼女は意外と良識派のようだ。


「でも、エトランジュちゃんの弟なんでしょ。だったら大丈夫じゃない?」


「スーは、スーのスイーツを横取りさえしなければ何でもOKなのでスー」


 良識派の次女に比べて、楽観的な長女のケル。甘やかされて育った末っ子のスーに至っては自分のスイーツのことしか頭にないようだ。


「イグナシオ坊ちゃんの戦闘スキルについては、この俺が保証するぜ。銃を持たせりゃ、お前ら三姉妹よりも戦闘力は上かもな」


 シュワルツがわざわざ三姉妹を挑発するかのように我が弟の腕前のほどを保証する。

 彼にとってイグナシオは元雇い主。子供の身で武器商人として頂点を極めたイグナシオには金銭による契約関係を超えた敬意を今も抱いているのだろう。


「ふーん。でも、シュワルツに保証されたところで、まったく説得力ないけどな」


「そうね。シュワルツちゃんは凄腕傭兵らしいけど、エトランジュちゃんと戦ったときには、おしっこチビってしっぽを巻いて逃げたって話だものね」


「あはははははは。だったら、シュワルツじゃなくて、チビルツなんでスー」


「だから、チビってねえっつーの!! 誰だよ、新顔の連中にまで余計な嘘を吹き込みやがったのは!?」


 シュワルツと三人娘の軽口の応酬に、他の仲間たちは笑ったり、囃し立てたりして楽しんでいる。こんな軽口を言い合えるぐらいには絆が深まっていることを確認でき、安心する。


 どしーん。

 ずしーん。


 だが、そんな仲間たちの談笑を打ち消すように、遠くから地鳴りのような音が響き渡る。

 一体、何事か?


 どしーん。

 ずしーん。


「何の音でありましょうか?」


「ひゃは!? もしかして、大怪獣のご登場かな~!?」


「いえ、お嬢様ならここにいらっしゃいますよ」


 誰が大怪獣やねん。

 確かに大怪獣に変身したことはありますけれど。

 スイーティアってば、たまに毒舌。


 どしーん。

 ずしーん。


 傷心のマイハートに追い打ちをかけるかのように地響きが近づいてくる。

 だが、そんなことでひるむワタクシではない。

 ワタクシは、エトランジュ・フォン・ローゼンブルク公爵令嬢。

 どんなバケモノのご登場かは知らないが、今のワタクシは新スキルを習得し、頼もしい仲間たちに囲まれて、心は無敵状態。

 この世にもあの世にも恐れるものは何もなし。

 魔王だろうが邪神だろうが、どんとこいだ。