エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山 浪漫
episode95
悪役令嬢、事情聴取する。
地獄の魔王に就任して早数日――
新魔王として最初の仕事としてワタクシが選んだのは、先代魔王アホーボーンと、その叔父である先々代魔王ギルティアスへの事情聴取だった。
事情聴取というと物々しいかもしれないが、先々代魔王ギルティアスが人間世界へ転移した経緯について、いまだ不明瞭な点があるため、問いただして真実を把握しておく必要がある。
何事も善は急げ、問題は早期発見早期解決に限る。
「では、まず先々代魔王ギルティアスに質問します」
「その前にエトランジュよ。俺のことは今まで通りネコタローと呼んでほしいと言ったはずだが?」
ネコタローではなく人の姿をした先々代魔王ギルティアスが質問を遮って不平を漏らす。
本人はいついかなる時、いかなる姿であろうとも「ネコタロー」と呼んでほしいようだが、そうはいかない。
ネコタローという名前はあの愛くるしかった黒猫のネコタローに付けた名前であって、いかに闇魔法を極めし元魔王のイケメンであろうとも、ネコタローの名で呼ぶのはネコタローに失礼である。ゆえに人の姿のときは「ギルティアス」、黒猫の姿のときだけ「ネコタロー」と呼ぶことにしたのだ。
「ネコタローと呼んでほしいのなら、黒猫の姿でいることですわね」
そっけなく答えを教えて差し上げると、先々代魔王ギルティアスはしょぼくれた様子で渋々と黒猫へ姿を変える。
「これで満足か、エトランジュ?」
よしよし。それでこそネコタロー。
うん、可愛い。余は満足じゃ。
こうして我が心の平穏は取り戻された。めでたしめでたし。
「この黒猫の姿なら、昔のように一緒に過ごせるということだな? よし、今夜は一緒に寝るとしよう。キスもしてくれていいぞ」
くっ……。そう来たか。
確かに黒猫のネコタローとは何度も一緒に寝たし、キスもした。
しかしそれは相手が猫だと思ってのことだ。中身がいい歳こいた人間(ではなく悪魔、しかも魔王)の男とわかっていたなら、寝室に入れることはなかったし、キスどころか抱き締めることすらしなかったであろう。
あれは完全に詐欺だ。
「ワタクシの可愛いネコタローはそんなはしたないことは言いません。そっちがその気でしたら、ネコタローはワタクシの中で死んだことにして、これからは黒猫のときもギルティアスと呼ぶことにしても一向にかまいませんのよ?」
「ごめんなさい。これからもネコタローでいさせてください」
ワタクシの反撃に対して、一撃で降参するネコタロー。
可愛い。……おっと、でも中身はいい歳した男だった。危ない危ない。
ごほん、と一つ咳払いをして本題に戻す。
「では、改めて。ネコタローに質問します」
約束は約束。ちゃんとネコタローと呼んであげることにする。
「貴方が甥のアホーボーンの教育のために魔王の座を譲り、人間世界へ転移したことは聞きましたわ。けれども、転移なんてしなくても地獄にいたまま身をひそめるなり姿を隠すなり、いくらでも方法はあったのではなくて? ワタクシが腑に堕ちないのは、なぜ人間世界に転移したのかということですわ。実際、そのせいで貴方はただの黒猫になり、もしワタクシが拾わなかったら、そのまま死んでしまうところでしたもの。そんな危険を冒してまで人間世界に転移したのは、なぜですの?」
ワタクシの質問に即答しかねているネコタロー。
唸ったり、首をひねったり、天を見上げたり、うなだれたり。先程から百面相を繰り返している。
面白いし可愛いのでしばらくそのままにしておいたら、ついに意を決したネコタローが絞り出すような声で白状した。
「……花嫁探しのためだ」
目的を告白したネコタローのほっぺは真っ赤だ。
斜め下を見て、ワタクシから意識的に目を逸らしている。
こうなってくると少々いじわるしたくなってくるのが乙女心というものである。
「ほうほう? 甥の教育にかこつけて、魔王の職責を放り出して地獄を離れたのは、花嫁探しであったと、そういうことでしたの?」
「ああ、そうだ! 地獄の悪魔として生を享けて100000年超! 人生を共に歩んでいきたいと思える女性は、ついに地獄では見つからなかったのだ! 地獄の魔王として孤高に生きることも考えてはみたものの、やっぱり魔王とて恋はしてみたい! あわよくば結婚もしてみたい! そこで地獄以外の世界、人間世界で花嫁探しの旅をすることにしたのだ!!」
もうヤケクソだという勢いでネコタローが饒舌にまくし立てる。
彼がリスクを冒してまで人間世界へやって来た理由は、花嫁探しだった。
これで謎が一つ解けた。
にしても100000年て。悪魔の寿命、えげつない。
100000年探し続けても見つからなかった花嫁が、人間世界へやって来てワタクシと出会って、ようやく見つかったというわけか。
100000年に一人の花嫁エトランジュ――
そう考えると悪い気分はしませんわね。