キマイラ文庫

ビューワー設定

文字サイズ

フォント

背景色

組み方向

目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode97

悪役令嬢、頭痛が痛い。

「お姉様お姉様、エトランジュお姉様」


 はあ、頭が痛い。

 頭痛の原因は、脳疾患等の肉体的な不調によるものでも、魔王就任祝いのパーティーのお酒がまだ残っているからでもない。先程から玉座で憂鬱に頬杖をついているワタクシに、キラキラした瞳で話しかけてくるこの男のせいだ。


「あのね、アホーボーン。いつからワタクシは貴方の姉という設定になったのかしら?」


 そうなのだ。

 魔王就任祝いのパーティー以来、先代魔王アホーボーンはワタクシのことを「お姉様」と呼ぶようになり、いくら注意しても警告してもやめようとしないのだ。

 そして、それがとっても気に食わないらしく、アホーボーンの隣でムスッと口をとがらせている少年がいる。我が弟イグナシオだ。


「エトランジュお姉様をお姉様って呼んでいいのはボクだけなのに……」


 まっ。可愛いこと言ってくれちゃって。

 しかし、これがまたワタクシの頭痛の原因になっているのも事実。

 このところアホーボーンのおかげで、イグナシオが不機嫌このうえないのだ。

 今日という今日は、アホーボーンにしっかりと言って聞かせて、二度と姉と呼ばぬようにせねばなるまい。


「ねえ、アホーボーン。何をどう間違えればワタクシが貴方の姉になるわけなの?」


「僕だって何の根拠もなしに誰彼かまわずお姉様と呼ぶほどアホじゃないさ。ちゃんと根拠はあるよ」


 へー。

 アホだと思っていたけど、ちゃんとあるんだ、根拠。


「まず地獄の魔王だった僕に臆することなく平手打ちしたこと」


 ああ、あのときのビンタか。

 我が地獄の軍団の仲間であるケル、ベロ、スーに対して、あろうことかスイーツを人質にして言うことを聞かせようとしたこと、親友のアリアのコンプレックスに付け込んで思い通りに操ろうとしたことが腹立たしくて、つい手が出てしまったのだ。


「ママにもぶたれたことがなかったのに、あれは衝撃だったなぁ」


 懐かしそうに嬉しそうに、かつて打たれた頬をなでながら遠くを見るアホーボーン。

 なんであれがいい思い出っぽくなっているのか皆目見当がつかない。


「うんうん、あれは素晴らしいビンタだったよなぁ」


 アホーボーンと同じような遠い目をしているネコタローは、玉座に座るワタクシの足元で丸くなっている。

 ワタクシの魔王就任以来、ここがネコタローのポジションとして定着している。

 本人は新魔王の補佐のためと言い張っているが、大した仕事はしていないのでただ単にワタクシの近くにいたいだけじゃないかと思う。


「それにラストバトルの決定打となったあの強烈な一撃。あれで身も心も完全にノックダウンしたんだよ。あんな攻撃、ママにも喰らったことがない」


 そりゃそうだ。

 どこの世界に我が子にアッパーカットを喰らわせる母親がいるのだ。

 ワタクシの必殺技『キングコブラアッパーカット』はさぞかし痛かったはずなのに、なぜか恍惚とした表情になっているアホーボーン。もしかして、お父様の書斎にあったいけないご本に書いてあったSMとかいう上級者プレイのM(マゾ)の性癖の持ち主なのだろうか。


「トドメは、魔王就任祝いのパーティーの席のことさ」


「え? ワタクシ、何かしましたっけ?」


 あの場では一度もアホーボーンをド突いていないはずですけれど。

 酔って記憶がないだけで、何かしでかしたかしら?


「鍋だよ、鍋」


 記憶をたどっても一向に答えにたどり着きそうにないワタクシを、ネコタローが援護する。

 お、ちゃんと補佐してくれるじゃありませんの。

 でも、鍋と言われても何のことやらチンプンカンプンだ。


「正解! あのとき、しょぼくれていた僕に優しくプデチゲをよそってくれたでしょ?」


 ああ、確かに。そんなこともありましたわね。

 けど、それはだって、ラストバトルに負けるわ、叔父の先々代魔王に叱られるわ、魔王をクビにされるわ、自業自得とはいえ、さんざんな目に遭ったアホーボーンがさすがに気の毒になってきたから。

 なんだかんだ言っても、ワタクシは慈悲の女神のごとき心の持ち主なのだ。


「間違いを犯した僕を本気で叱ってくれた。意気消沈していた僕を優しく励ましてくれた。そんなのもう、お姉様じゃないか!!」


 なぜ、その結論に行き着く?

 うーん。この問題、なかなかに厄介だ。

 頭痛が痛い。あまりに頭が痛いから、あえて二重表現。

 嗚呼、誰か代わってほしい……。