エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山 浪漫
episode98
悪役令嬢、弟が増える。しかも遥か年上の。
ワタクシを姉だと言い張り、駄々をこね始める地獄の先代魔王アホーボーン。
しかし、ワタクシにはすでにイグナシオという弟がいる。孤児という境遇への共感と、ほんの少しばかりの欲望(より快適な地獄ライフを目指すのに、近代兵器と魔法技術を融合した魔導兵器の数々を生み出す彼を囲わない手はない!)から、我が弟とすることにしたのだ。
ここでアホーボーンまで弟にするとなると、血のつながりのない弟が二人もできることになる。うっかり甘い顔を見せると、今後もとめどなく弟が増えそうな予感がして恐ろしい。
しかもアホーボーンはどこからどう見てもワタクシよりも年上。なんとしても彼を弟にすることだけは阻止せねば。
「お姉様って言いますけれど、貴方、ワタクシより年上でしょ?」
「うん。たぶん……。今年で12851歳だけど」
1万オーバーかい。
たぶんも何も、普通の人間なら100歳まで生きたとしても128回以上転生してようやく同世代ではないか。そんな年上の弟、絶対にやだ。
「ワタクシより何倍年上だと思っているの。弟だなんて却下よ、却下ですわ」
「じゃあ、ママ?」
なぜそうなる!!?
思わず大声でツッコミそうになる。
いけない。ローゼンブルク公爵家の令嬢として恥ずかしくないよう、いつも通りエレガントに、いつも通りお淑やかにせねば。
それにしても、イグナシオといい、アホーボーンといい、いくらワタクシが母性本能の塊とはいえ、17歳で花の乙女真っ盛りの未婚の女の子をママと呼ぼうとするのはいかがなものか。
「でも、いかにお姉様でもママの座はさすがに渡せないよ。僕のママはもう死んでしまったけど、僕の心の中では永遠に不滅なのさ」
あー、そうですか。
誰もママになるとは言ってないのに、断る前に断られてしまった。
なんだろう、このやるせなさ。
男はみんなマザコンだと聞いたことがあるが、どうやらこの男は筋金入りらしい。
「エトランジュよ。アホーボーンを許してやってくれ。コイツの母……つまり俺の姉は素晴らしい女性でな。生まれながらの不治の難病を患ってさえいなければ、俺ではなく姉上が魔王になっていただろう。人望、魔力、知性、どれをとっても俺などより遥かに優れたそれはそれは立派な人物だったのだ」
ネコタローがさも自慢げに亡き姉の偉大さを語る。
やれやれ、ここにシスコンもいたか。
「というわけでママの座は渡せないので、お姉様ってことでオナシャス!」
いやいや。
ママはもちろん、お姉様にもならないからね?
ママの座は渡せないからお姉様でヨロシクみたいな論調も腹立たしい。
先刻から大人しく事態の成り行きを難しい顔をして見守っているイグナシオも、きっと腹に据えかねているに違いない。
「イグナシオ。何か言いたそうね? 遠慮せずに自分の意見をおっしゃいなさい」
さあ、我が弟よ。バシッと言っておやりなさい。
「僕の弟になるならいいけど」
おい。
いいんかい。
「エトランジュお姉様が僕のお姉様になってくれて、そのうえ弟までできるだなんて……。地球で生きていた頃には考えられないことだよ。なんだか本当に家族ができたみたい……」
「イグナシオ……」
ワタクシと出会うまでは地球でも地獄でも天涯孤独だったイグナシオは、家族のぬくもりに飢えている。
ワタクシという姉ができてからというもの、毎日が嬉しくて楽しくてたまらないといった様子だったが、ここに来てアホーボーンもワタクシをお姉様と呼び始めたものだから、さあ大変。ライバル出現とばかりに警戒していた。
しかし、アホーボーンの亡き母の話を聞いたせいか、イグナシオの心に同情と妥協が芽生え、いっそ年上の弟ができることを喜ぶことにして、折り合いをつけたようだ。
「イグナシオお兄様」
助け舟を送ってくれた年下の兄にキラキラした瞳で感謝を捧げるアホーボーン。
「アホーボーン」
お兄様と呼ばれて、嬉しいような、くすぐったいような表情のイグナシオ。
早くもお兄ちゃん気分を満喫している。
もう。そんなに嬉しそうな顔をされたら、これ以上ダメだって言えないじゃありませんの。
「……仕方ありませんわね。好きにお呼びなさいな」
「ありがとう、エトランジュお姉様!!」
満面の笑みで喜ぶアホーボーン。
その肩をポンポンと優しく叩きながら「良かったね」と一緒に喜ぶイグナシオ。
芽生えたばかりの兄弟の絆を感じる。見ていて微笑ましい。まだまだ時間はかかるだろうが、少しずつ少しずつ絆を強くしていってほしいものだ。
そんな二人の姿をうらやましそうに眺めるネコタロー。
言っときますけど、ダメですわよ?
もうこれ以上、弟も妹も兄も姉も増やしませんからね?