キマイラ文庫

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目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode96

悪役令嬢、転移事故の真相を知る。

 理想の花嫁を見つけるべく100000年のときを超えて(?)地獄からやって来た魔王ギルティアスは、転移の際に思わぬ事故が発生して魔力を失い、ただの黒猫のネコタローになってしまったと語る。

 その転移事故というのが、ワタクシが気になっているもう一つの謎だ。

 謎を解明すべく、ネコタローとアホーボーンへの事情聴取は続く。


「あれは完全に転移事故だ。初めての人間世界、何があるかわからぬから念のために記憶も魔力もスキルもそのまま引き継ぎ、1からやり直しの転生ではなく、人間の青年の姿に変わるだけの転移に魔方陣を設定したのだ。それなのに、なぜ……?」


 得心がいかぬという表情で腕組みをして、むむむと唸る黒猫のネコタロー。


「しかし、あの転移事故のおかげで俺は魔力のないただの黒猫となり、人間世界で迫害され傷を負い、エトランジュに拾われることになったわけだから、怪我の功名というか、災い転じて福となすというか、とにかく結果良ければすべてよしで、長年探し求め続けてきた理想の女性を見つけることができたのだ」


 そう言って、お前のことだぞと言いたげに、ちらりとこちらに視線を送る。

 が、そういうアピールはもうお腹いっぱいなのでスンとそっぽを向いて受け流す。


「転移事故? ああ、あれは事故なんかじゃないよ」


 事情聴取が始まってからというもの、ずっと口をとがらせてつまらなそうに爪をいじったり足をプラプラさせていただけの先代魔王アホーボーンが初めて口を開いた。

 魔王として退治したときは、魔王としての体裁を気にしてか厳かな口調だったが、ラストバトルを終えて以降は、本来の悪戯な少年のような口調になっている。


「事故じゃない? それは聞き捨てなりませんわね。どういうことか、聞かせてもらえるかしら、アホーボーン」


「うん、いいよ。あれは転移事故じゃなくて、ちゃんと僕が計算してやったことさ」


「は? 何だと……? 詳しく聞かせてもらおうじゃないか」


 転移事故ではなく計画的な犯行であれば、アホーボーンが犯人でネコタローは被害者ということになる。

 被害者であるネコタローは、怒りと驚きに顔をひくひくさせながら、犯行を白状し始めた甥に続きを促す。


「せっかく人間世界に転移するのに、記憶も魔力もスキルも全部引き継いで見た目だけ人間になるなんて、そんなのインチキじゃん? そういうときは、やっぱりレベル1からやり直しが常識でしょ」


 さも当然のようにゲーム大好きアホーボーンは語る。

 その自慢げに語る表情が被害者の神経を逆なでしていることに気づいている様子はない。


「元魔王だからって、ずるはよくないよ。僕に無理やり魔王の座を押し付けて自分だけ花嫁探しにいくわけだから、叔父上にもそれぐらいの苦労は背負ってもらわないとね」


「アホか!!!!」


 わなわなと怒りのあまりに何も言えずにいたネコタローが、ようやく絞り出すように一言だけ叫んだ。


「えー……。そんなに怒らなくてもいいじゃない」


「お前な……。自分が余計なことをしたせいで、危うく叔父を黒猫のまま死なせてしまうところだったという自覚はないのか?」


「別に。叔父上なら絶対大丈夫だと思ったけど」


 きょとんとした表情で、叔父に絶対的な信頼を示すアホーボーン。

 彼は幼い頃から偉大な魔王としての叔父を間近に見てきたばかりに、叔父ならどんな事態もいとも簡単に解決するものと確信しているようだ。おそらくアホーボーンにとってネコタローは叔父であると同時に無敵のヒーローのような存在なのだろう。

 そんな純粋無垢な信頼を寄せられては、それ以上は怒るに怒れず、ネコタローも押し黙ってしまう。


「ぐ、む……」


「それにレベル1のやり直しで黒猫の姿に転移したおかげで、理想の花嫁を見つけることができたって叔父さんも言ってたじゃない。むしろ感謝して、ご褒美がほしいぐらいだよ」


「う、む……。ま、それもそうだな」


 それもそうなのか?

 本当にそれでいいのか、先々代魔王ギルティアスよ。


「うむ! でかした、アホーボーンよ! ご褒美にお前の大好きなゲームを好きなだけ買ってやろう」


「ホント!? やったー!!」


 というわけで、とにもかくにも先々代魔王ギルティアスの人間世界への転移の経緯の謎はすべて解けた。これにて一件落着……?

 この事情聴取で得られたものは特になく、ワタクシは新魔王としての最初の仕事を徒労感に包まれて終えることになった。

 確実に言えることは、この二人には今や第二の故郷となった地獄を任せることができないということと、ならばワタクシが魔王として地獄を改革していくしかないということだ。