キマイラ文庫

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目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode99

悪役令嬢、有能執事の訃報に動揺する。

 穏やかな風が心地いい午後。

 魔王の執務を終え、魔王城のテラスでのんびりとアフタヌーンティーとスイーツを楽しんでいるところへ、緊張した空気をまとったエリトとヒッヒがやってきた。


 ワタクシが地獄の魔王になって、我が地獄の軍団のエリトは宰相へと出世した。有事の際には従来通り総参謀長を兼務してもらう。

 執事役を務めてくれていたヒッヒには侍従長として、スイーツ以外のワタクシの身の回りのことの一切を任せている。

 スイーツのことだけは永遠に変える気はなく、専属メイドのスイーティアの仕事だ。今楽しんでいるスイーツも言うまでもなく彼女のお手製である。うん、いつもながら美味しい。

 他の仲間も同様に新魔王体制の中でそれぞれ要職についてもらっている。おかげでワタクシはこうして毎日、優雅に紅茶とスイーツを楽しめているというわけだ。


「ご主人様、ご報告したいことがございます」


 一礼してからエリトが神妙な面持ちで口を開く。

 当初、我が地獄の軍団の仲間たちはワタクシのことを「魔王様」と呼ぼうとしていたが、そんなの全然エレガントじゃないし、ちっとも可愛くないので、今まで通り呼んでもらうことにした。


「ご主人様亡き後の人間世界のことが気になったため、僕とエリト伯爵で調べたところ……その、申し上げにくいことながら、ご主人様の執事をなさっていたジュエルバトラー殿がお亡くなりになられたようです……」


「な、なんですって……!?」


 衝撃的なヒッヒの報告に思わず立ち上がる。


「そ、そんな……、ジュエルが……、どうして…………?」


 ジュエルは両親がまだ存命だった頃から共に過ごしてきた仲であり、彼のことは執事というよりも気を許せる幼馴染だと思っている。その彼が死んだとの突然の訃報に動揺を隠せない。

 手にしたティーカップは震え、紅茶がテーブルへこぼれ落ちる。

 忠誠心の塊のようなジュエルがワタクシの処刑を見せつけられて、冷静でいられるはずがないのはわかっていた。しかし、復讐など考えずに、ワタクシのことは忘れて静かに余生を過ごしてほしい、そう願っていた。

 いつかこうなることを恐れていたから……。


「部下たちに調べさせた結果、ご主人様の故郷であるエーデルシュタイン王国の第一王子とその婚約者が、魔王を退治するために勇者パーティーを結成。ジュエルバトラー殿はそのパーティーの一員として魔王とのラストバトルに挑んだ末に死亡なさったことが判明しました」


 報告書を読み上げるエリトの口調は、ワタクシの心情をおもんばかってか、重苦しい。

 勇者パーティーを結成?

 一体、何の冗談だろうか。勇者パーティーなんて現代においては完全に形骸化していて、今は聖ウリエール学園の生徒会に形を変えていたはずだ。

 しかも魔王を退治ですって?

 魔王は人間世界ではおとぎ話の世界の存在であり、誰も信じてはいない。

 実際には魔王は存在したのだが、その魔王は今、ワタクシである。ワタクシは今もこうして元気溌剌だし、退治した覚えはあっても退治された覚えはない。

 何かがおかしい……。


「第一王子やその婚約者はどうなったの?」


 もちろん彼らの安否を気遣ってのことではない。

 ジュエルを死なせておいて、まさかおめおめと自分たちだけが生き残るなんてことはあり得ませんわよね?

 けれども、一応確認しておきたい。


「はっ。魔王とのラストバトルで死亡したのはジュエルバトラー殿のみで、第一王子以下、勇者パーティーは全員生存。最大の功労者たる第一王子の婚約者アンジェリーナは、光の聖女に認定されることになったとのことです」


 アンジェリーナがワタクシの親族にあたることをすでに知っているエリトは、自分の失態でもないのに申し訳なさそうに報告する。

 なんという……。

 ジュエルだけが死に、他の連中は無事に魔王退治を終えて全員生還。しかも、アンジェリーナは魔王退治の功で光の聖女に認定されるという意味不明の展開。

 やはり、何かがおかしい。

 形骸化したはずの勇者パーティー、おとぎ話でしかなかったはずの魔王退治、ジュエルの死、アンジェリーナの光の聖女認定……。

 どうにもキナ臭い。作為を感じる。

 だが今はもっと重要なことを確認しなければならない。


「それでジュエルは? ジュエルは今、どこにいるの?」


「それが……」


 言いにくそうな表情でヒッヒが口を開く。


「地獄に堕ちていらっしゃる可能性を考慮して、他の仲間たちと地獄全土をくまなく探し回ったのですが、どこにも見当たらず……」


 それ以上言葉が出なかったのか、ヒッヒが申し訳なさそうに首を垂れる。


「気にしないで、ヒッヒ。貴方たちは、よく頑張ってくれたわ」


 可及的速やかに、また自主的に対応してくれたヒッヒたちの労をねぎらう。

 彼らのことだ。一切手抜かりはないだろう。

 以前の機能不全のままの地獄であればワタクシのように冤罪で地獄に堕ちることもあっただろうが、新魔王体制になって真っ先にそこは改善した。以降は人間世界の罪状をコピペして、そのまま地獄に堕とすような真似はさせていない。ちゃんと地獄で再審議をして冤罪を防いでいる。その再審議には経験豊富な有識者である先々代魔王ギルティアス……ネコタローを最高裁判長として充てているため万全の体制だ。

 第一、あの清廉潔白で質実剛健なあの口うるさいジュエルが地獄に堕ちるはずがない。曲がり間違えて人間世界の冤罪で地獄に堕ちそうになってもネコタローというセーフティーネットが機能するし、ネコタロー自身、ジュエルとは顔見知りだから見つけた時点でワタクシに報告が来る。

 つまり、この地獄にジュエルはいないということだ。

 そうなると……。


「エリト、ヒッヒ。お探しの人物を見つけたよ」


 誇らしげな表情で登場したのはアホーボーンだった。

 その顔には褒めて褒めてと書いてある。


「でかしましたわ、アホーボーン。それで? ジュエルはどこにおりますの?」


「うん、お姉様。それはね……」