エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山 浪漫
episode102
悪役令嬢、バグ修正する。
天国との唯一の経路である転移門へ猫型移動要塞マカロンで飛行する間、予想外の嬉しい事実が判明した。
それはワタクシが魔法を使えなくなった原因だ。その原因さえ排除すれば、再び闇魔法が使えるようになるという。神との戦いを前にして、これはとてつもなく大きい。
吉報をもたらしてくれたのは、先日我が弟として迎え入れたばかりの先代魔王アホーボーンだった。
「お姉様が闇魔法の使い手だっていうのはラストバトル前に調べていたから知っていたんだけどね。まさか魔法が使えなくなっていたなんて……。道理でなるほど一度も魔法を使わなかったわけだ」
うんうん、なるほど、と一人納得した様子のアホーボーン。
しかし、ワタクシも他の仲間たちも一向に納得できておらず、頭の上にはいくつもの疑問符が並んでいる。
「それで、アホーボーン。ワタクシが魔法を使えなくなった原因は何ですの? 呪いかしら? それとも天罰? 天罰だとしたら神を殴ってやる理由がまた増えましたわね」
「違うよ。呪いでも天罰でもない。原因はバグさ」
「バグ???」
聞きなれない単語にみんなして首をかしげる。
唯一イグナシオだけが「なるほど、バグか」と得心している。
弟が二人とも天才なのは嬉しいばかりだが、お姉さん、ちょっとついていくのがしんどいですわ。
「説明をお願いできるかしら?」
「うん、もちろん」
その後、アホーボーンが懇切丁寧に解説してくれたおかげで全容が明らかになった。
バグとは不具合のことで、地獄に堕ちてレベル1からやり直しになったワタクシが低レベルにもかかわらず無理無茶な闇魔法を連発したこと、普通なら魔力不足で使えない禁呪等々もスイーティアの極上スイーツの効果でやりたい放題やれてしまったこと、そのため普通なら倒せない高レベルの敵を次々と打ち倒して急激かつ極端なレベルアップが発生し、不具合を起こしたのだという。
「お姉様。突然めまいがして気を失ったでしょ?」
「ええ、その通りよ」
「うん、そのタイミングで不具合が発生して魔法が使えなくなったんだね」
あっさりと原因を究明したアホーボーン。
「ただのアホじゃなかったんだな」「まったくなのでスー」と感心?するように囁き合うベロとスー。魔王の側近として仕えてきた彼女たちも、このアホーボーンの智謀の冴えには驚きを隠せないようだ。
「アホーボーン。貴方って……ひょっとして本当は賢いの?」
「そうだよ。僕はなかなか本気を出さないだけで、本気を出せばすごいのさ」
確かにラストバトルで見せた闇魔法も凄まじいものがあった。
なら本気の出し惜しみなどせずに、普段から本気を出せばいいものを。
「うむ。我が甥は亡き姉に似て本当はかなりできる子なのだ。……やる気がないだけで」
叔父のネコタローが鼻高々に言った後、最後の一言を情けなそうに弱弱しく付け加える。
「僕って、ナンバー1よりもナンバー2のほうが向いているんだよね」
気分を良くして叔父と同じく鼻高々に自己評価するアホーボーン。今まで引きこもってゲーム三昧だったのにナンバー2も何もあったものじゃないと思うけど、その発言に敏感に反応する仲間たちがいた。
ひそかに我こそがナンバー2であると自負しているネコタロー、スイーティア、ヒッヒ、エリト、シュワルツ、イグナシオ、アリアだ。
皆、動揺を悟られないようにしているが、眉をひくひくさせていてわかりやすい。
「……本題に戻しましょう。どうすればワタクシが再び魔法を使えるようになりますの?」
「そんなの簡単さ。お姉様と同じ闇属性を持つ魔力を身体に注ぎ込んで、体内で不具合を起こしている魔力回路を正常に戻してあげればいいんだよ」
アホーボーンはこともなげに言うが、そう簡単なものではないだろうに。
やはり彼はちょっと抜けたところがあるだけで、天才のカテゴリーに属する人物のようだ。
「それじゃあ、さっそくお願いできるかしら?」
「もちろん! 喜んで!」
笑顔のままアホーボーンがワタクシに向けて両手をかざす。
その手からは黒い霧のようなものがあふれ出て、ワタクシの身体を包み込む。
これは……。はたから見たら邪悪な暗黒の儀式にしか見えないだろう。
笑顔だったアホーボーンが目を閉じて、その表情は次第に険しいものになっていく。
体内の魔力回路の不具合を正常に戻す作業だ。さも簡単そうに言っていたが、その実とても緻密な作業に違いない。
「はぁぁぁぁあああああぁぁぁああぁぁぁあああああ…………!!!!」
真面目な顔のアホーボーンを見ていると、つい吹き出してしまいそうになる。
いけない、いけない。
ここは真面目な場面なのだから、ワタクシも真面目にしないとね。