キマイラ文庫

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目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode130

悪役令嬢、弟の空想に弄ばれる。

 ワタクシの予想通り、今回もアホーボーンの無罪を勝ち取った敏腕弁護人イグナシオは、両親が去った後、再び黒猫移動要塞マカロンの修復作業に取り掛かっている。その背中からは、いつもよりもご機嫌である様子が見て取れる。

 鼻歌まで歌っちゃって。お父様とお母様に受け容れてもらえたことがあんなに嬉しかったのね。

 彼にしてみれば、姉、弟についで父親と、念願のママまでできたのだから上機嫌にもなろうというものだ。


 草葉の陰から見守るのは、ここまで。

 ここからは神との戦いに向けて、魔王軍総司令として修復作業の進捗を確認しておきたい。

「草葉の陰から」という表現は「あの世から見ている」という意味だけど、ワタクシの場合、もう死んでいるのだから、あながち間違いではありませんわよね?


「お疲れ様、イグナシオ。マカロンの修復状況はいかがかしら?」


「あ、お姉様。うん、順調さ。アホーボーンも手伝ってくれているから思いのほか早く終わりそうだよ」


「それは重畳」


「お姉様、お姉様、僕も頑張ってるんだよー」


 褒めてほしくて子犬のように駆け寄ってくる先代魔王アホーボーン。

 どうもこのところ急速にイグナシオの金魚のフン・アホーボーン、忠犬アホーボーンが定着しているように思う。それでいいのか、先代魔王。

 しかし、それでも先代魔王だけあってアホーボーンの魔法技術は大したものらしい。イグナシオ曰く、ボクの科学技術と組み合わせれば大抵のことは難なく解決できそうだと豪語していたぐらいだから事実大したものなのだろう。

 そのアホーボーン魔法技術にしても先代魔王だからということではなく、むしろ先代魔王の職責をほっぽり出して引きこもっていた成果なのだろうけど。

 まあ、それも怪我の功名というやつか。ワタクシとスイーティアが冤罪で地獄に堕ちたことと差し引くとプラマイゼロ、いやそれでもマイナスか。


「そうだ、お姉様。ボク、いいこと思いついたよ」


 可愛い我が弟イグナシオ。この天才少年が思いついたことなら世紀の大発明に違いあるまい。


「ボク、マカロンが墜落したときにお姉様とお別れになるんじゃないかと思って怖かったって言ったよね?」


「ええ、そうでしたわね」


 ネコタローには魔王なんだから墜落したぐらいで死なないと言われたけど、せっかくの世紀の大発明に水を差してはいけないので黙っておく。


「もし、お姉様が修復不可能なぐらいのとんでもない大怪我を負ったとしても、マカロンと同じようにボクの科学技術とアホーボーンの魔法技術で修復すればいいんだよ!」


「へ?」


「いや、修復だけじゃない。お姉様はフィジカルが弱いから、いっそ肉体を超合金製に改造してしまえばいいんじゃないかな? そうすれば防御力も何倍も上がってオーガの一撃ぐらいじゃビクともしなくなるよ」


 純真な瞳を輝かせながら、早口にまくし立てる天才少年……というか、なんだか狂気の科学者(マッドサイエンティスト)っぽくて怖いのだが。

 名案みたいに話しているけど、超合金製の公爵令嬢とかあり得ませんからね? そんなのエレガントさの欠片もありませんもの。


「人造人間エトランジュはどうかな?」


「人造人間ならエトランジャーとか、エトランダーのほうがカッコいいと思うけど」


「さすが、アホーボーン。わかっているじゃないか」


「お姉様はもう人間じゃないから人造魔王エトランジャーでどうかな、イグナシオ兄さん?」


「うん、いいかも!!」


 いや、全然よくないし。

 興奮した様子で夢中になって空想を広げていくイグナシオとアホーボーン。二人の弟の暴走が止まらない。

 盛り上がっているところ大変恐縮なんですけど、全然良くありませんわよ、我が弟よ。

 どこの世界に姉の肉体を超合金製に改造する弟がいるの?


 しかし、夢中になって空想というか妄想を始めたイグナシオとアホーボーンには何を言っても聞こえそうにない。二人とも少年のようにキラキラした目で楽しそうに議論を続けている。

 仕方ない。今はそのままそっとしておいてあげよう。

 弟たちの無邪気な空想をいちいち否定するなんて、器の小さい姉のすることだ。器の大きい姉であるワタクシとしては、ここは大らかな気持ちで彼らに好きなだけ空想させてあげるとしよう。

 要するにアレだ、ワタクシとしては彼らに改造されるようなハメにならないようにヘマをしなければいいだけの話なのだから。


 以降、人造人間……もとい、人造魔王エトランジュが爆誕するような事態を避けるために、くれぐれも無理無茶無謀はやらないように心がけるワタクシなのであった。