キマイラ文庫

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目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode113

悪役令嬢、有能執事と再会する。

「お嬢様!? エトランジュお嬢様!!?」


「ええ、そうよ! ワタクシよ、ジュエル!!」


「ああ、お嬢様!! 本当にお嬢様なのですね!!」


 感極まって駆け寄ってくるジュエル。

 ワタクシも待ちきれずに駆け出す。

 二人はお互いの無事を確認するように無言で相手を抱き締め合う。

 もう二度と会うことはないと思っていた幼馴染との再会。

 そこには主従関係を超えた深い愛情があった。


「ああ、お嬢様。本当にエトランジュお嬢様だ。どれだけお会いしたかったことか」


「ええ、ええ。ワタクシもよ、ジュエル」


 再会の喜びを噛み締め合う二人。


「天国に来てから、ずっとお嬢様を捜していたのですよ。天国の住人たちはエトランジュ・フォン・ローゼンブルクという女性は天国にいないなどと言うものですから少々もめてしまいまして、この工場に閉じ込められていたのです。しかし、俺は間違っていなかった。やはりお嬢様は天国にいらっしゃったのですね」


「うーん……。ま、まあ、そういうことになるのかしらね? おほほほほほ」


「おい、エトランジュ。取り繕ったところで、すぐにバレるんだ。正直に本当のことを話したほうがいいぞ」


「ネ、ネコタロー!? ネコタローがしゃべった!!?」


 あー、そこからか。

 どうやらジュエルにはワタクシが地獄に堕ちてから、ここに至るまでの経緯を包み隠さず話す必要があるようだ。

 長くなりそうだからスイーツと紅茶を楽しみながらにするとしよう。

 ・

 ・

 ・

「なんと……。まさかそのようなことになっていようとは……」


 ワタクシたちは今、最初の着陸地点の庭園にいる。ジュエル救出という目的を果たして、速やかに他の仲間たちと合流したのだ。

 そこでワタクシが地獄に堕ちてからの経緯を一通り聞き終えたジュエルは、信じられないと言った表情で嘆息を吐いた。


「それにしても何の罪もないお嬢様が地獄に堕ちるなんてあり得ない。これは何かの陰謀に違いありません。陰謀の首謀者を突き止めて、しかるべき処分を下してやりましょう」


 ギラリと瞳に殺気を宿すジュエル。美しい顔立ちをしているだけに、こういう冷血な表情をすると迫力がある。

 しかし、彼の言う陰謀とは効率化と称した手抜きのせいで人間世界の罪状がコピペされ、そのままワタクシが地獄行きになっただけの話であり、首謀者とは手抜きの原因である先代魔王アホーボーンのことになる。

 そのアホーボーンは今、すみっこのほうで小さくなっている。

 可哀そうだから魔王だった彼と戦って今は仲間であることは説明したが、ワタクシが地獄行きになった原因が彼の怠慢にあったことは伏せておいた。この勢いだとジュエルに殺されかねないし。


「まあまあ、ジュエルさん。こうしてまたお嬢様と会えたんですから。そのことを喜びましょうよ」


 笑顔でフォローを入れるスイーティア。さすが天使。天国で天使を名乗っている連中はみんな偽物に違いない。


「スイーティア。ネコタローだけじゃなくて、あなたまでいるとはな。昔に戻ったようだ」


 目を閉じて嬉しそうに懐かしむジュエル。

 嬉しそうにしているけど、貴方もワタクシもスイーティアもみんな死んじゃってるんだけどね。ついでに言うとネコタローは人間世界に転移してきた先々代地獄の魔王だったわけで。


「……ところで、ジュエル。貴方まで死んでしまったのは、なぜですの? 一体、人間世界……エーデルシュタイン王国で何がありましたの?」


 先程までの笑顔が一転。ジュエルはうつむき加減で表情に影を落とす。

 そして、ゆっくりと語り始めた。

 ワタクシの冤罪を証明するためにエーデルシュタイン王国で孤軍奮闘してきたこと。

 第一王子とアンジェリーナが婚約して大々的にパレードを開催したこと。

 叔母夫婦(ランデール公爵夫妻)が王族暗殺計画の真犯人としてギロチンにかけられたこと。

 勇者パーティーの結成。

 アンジェリーナの不義密通。

 ジュエルが仕立て上げた偽魔王・聖白竜との戦い。

 勇者パーティーの面々の死、そして……。


「ちょ、ちょっとお待ちになって、ジュエル!」


「はい、お嬢様」


 黙々と語るジュエルを思わず制止した。

 きょとんとした表情のジュエルは、自分の発言の異常性に気づいていない。


「もう一度、言ってくださらない。勇者パーティーの方々はお亡くなりになられましたの……?」


「?? ええ、ナイトハルト・フォン・アインツェルゲンガー。ジークフリード・フォン・ゼーレ。シュテルクスト・フォン・ヴァイザー。エミール・フォン・フリューゲル。以上4名、全員死亡するのをこの目で確認しました」


 ジュエルは嘘や冗談を言う人間ではない。至って真面目な、少々融通が利かないぐらいの人間だ。そのジュエルがはっきりと勇者パーティー4名の死を告げた。

 しかし、それでは地獄でエリトから聞かされた報告と大きく異なる。


「おかしいですわね。ワタクシが聞いたところでは、魔王との戦いで死亡したのは貴方だけ。第一王子以下、勇者パーティーは全員生存という話でしたもの」


「な、なんですって? いや、そんなはずはありません。俺は確かにこの目で見たのです。やつらが聖白竜に無残に殺されていく姿を……」


「ええ、ジュエル。貴方が嘘をついているとは思っていないし、夢や幻を見たのだろうなんてつまらないことを言うつもりもありませんわ。貴方は真実を述べている。しかし一方で、ワタクシは仲間たちが調べてくれた情報にも全幅の信頼を置いていますの。つまり――」


 勇者パーティーの面々は確かに死んだ。

 しかし、その後、何らかの方法で生き返ったということだ。

 名探偵曰く、あり得ないことを一つ一つ取り除いていけば、最後に残ったものがどれほどありえなさそうなことでも、それが真実だという。


「……いえ、今は根拠のないことを口にするのはよしておきましょう。いずれ時と機会が来れば真実はつまびらかになりますもの」


 それよりも、もう一つジュエルに確認しておきたいことがある。


「ジュエル。貴方は聖白竜と戦って死んでしまったのですの? それとも……」


「……それが思い出せないのです。思い出そうとすると、こう左胸のところがどうしようもなく苦しくなってしまって……」


 辛抱強いジュエルがこんなにも辛そうな表情を見せるとは。


「もしかして、眼鏡もそのときに……?」


 無言で悔しそうに頷くだけのジュエルは、ワタクシが彼の誕生日にプレゼントしたトレードマークの眼鏡をしていない。

 実は出会ったときから気になっていたのだ。本人が命よりも大切だと言っていたから、それを手放してしまうほどの出来事が彼の身に起こったに違いない。記憶がないのは、何かよほど恐ろしい体験をしたからだろう。


 ジュエルは殺されたのかもしれない。

 あまり考えたくはないが、聖白竜ではない何者かの手によって……。




 第2部 天国編

 第2幕

  完