エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山 浪漫
episode100
悪役令嬢、天国へ行くことにする。
魔王とのラストバトルで死亡したというワタクシの幼馴染の執事ジュエルバトラー。
人間世界で勇者パーティーが結成されたという話にも、それが魔王を退治するためだという話にも禍々しい意志を感じる。
しかし、まずはとにかくジュエルの行方を追うことだ。
死んでその魂がどこかで一人寂しく彷徨っているのならば、なんとしても救わねばならない。
そのジュエルの行方をアホーボーンが見つけたという知らせに気が逸る。
「それで? ジュエルはどこにおりますの?」
「うん、お姉様。それはね……天国さ」
「天、国……」
そうか。ジュエルは天国に行ったのか。
ワタクシもスイーティアもネコタローも漏れなく地獄行きだったから、てっきりジュエルも地獄に堕ちてくるか、そうでないならどこかで迷子になっているかと思ったが、そうか天国か。
「アホーボーン様、どうして天国にいるとおわかりになったのですか? 地獄と天国は不可侵というのが暗黙の了解。ひとたび天国に行った者のことは地獄からは把握しようがないはずでは……?」
首をかしげるエリトに対して、こともなげにアホーボーンが答える。
「そんなの簡単だよ。ネットで調べたら、今時大抵のことはわかるからね。僕だって伊達にママが死んで以来、ゲームとパソコンだけを友達と信じて引きこもり続けてきたわけじゃない。天国の住民基本台帳のデータベースにアクセス……っていうか、まあハッキングを仕掛けてやったのさ」
えへっ、と悪戯っ子のように微笑む先代魔王に、エリトが青ざめて冷や汗を流す。
口をパクパクさせるだけのエリトに成り代わって、ヒッヒが指摘する。
「あの、アホーボーン様? それは天国との不可侵協定を破る重大な犯罪行為なのでは……?」
「そうだけど? それがどうかしたの?」
「どうかしたのって……」
「だって、エトランジュお姉様より重要なことなんてないでしょ。そのお姉様の大切な人が行方不明になって、みんなも方々探し回ってたわけじゃん。この際、天国との不可侵協定なんて、どうだっていいと思わない?」
さも当たり前のように言ってのけるアホーボーンが、なんだかとっても頼もしい。
あれ?
アホーボーンって、こんなキャラだっけ? もっとアホだと思っていたけれど。
「……アホーボーン様のおっしゃる通りですね。魔王様……いえ、ご主人様のお心に叶うことが我々にとっての最重要任務です。その前では天国との不可侵協定などゴミ同然。このエリト、目が覚める思いです」
ああ、言っちゃったよ。
公式な手続きを踏んでいない暗黙の了解、紳士協定とはいえ、仮にも天国との約束事をゴミ同然と言い放つ地獄の宰相。本当にそれでいいのか。
「ですよね。僕たちは悪魔のくせに、ちょっと常識にとらわれ過ぎていたかもしれません。ご主人様を見習って、もっと悪魔らしく非常識にならないといけませんね」
おい。
ワタクシは悪魔ではなく人間です。
今は魔王だけれど……。
そして非常識ではない……はず。
「そうそう。悪魔は悪魔らしく何でもアリじゃなきゃ、ね」
こうしていると、アホーボーンもひとかどの人物のように見える。
ちゃんと魔王の仕事さえしていれば、もっと尊敬を集められただろうし、そうすればいとも簡単に人間であるワタクシに魔王の座を明け渡すこともなかったろうに。
「アホーボーン。貴方、もしかして意外と優秀なのかしら?」
「やだなぁ、お姉様ったら。僕は最初から超優秀だよ」
いえいえ。
最初からポンコツ魔王にしか見えませんでしたけれど?
「どうして、ちゃんと働かなかったの? 貴方がその気になれば、魔王の仕事だって立派にこなせたでしょうに」
「え? だって面倒じゃん」
先代魔王が身も蓋もない答えを返してきた。
ワタクシは今、元をたどれば貴方のせいでその面倒な役目を押し付けられているのだが?
「魔王が真面目に働いたりしたら、勇者が来ちゃうじゃない。勇者と言えば対魔王用に生み出された人間世界の最終兵器でしょ。魔王を殺すために地獄の果てまで追いかけてくる殺戮マシンだって聞いてるよ。そんなの無理無理無理。僕、死にたくないもん」
勇者って、地獄ではそんな扱いになってるんだ……。
まあ、追われる側からすれば同族を片っ端から殺しまくりながら、じわりじわりと距離を詰めてくる勇者は恐怖でしかないだろう。魔王からすれば完全にホラー案件だ。
「アホーボーン様のヘタレっぷりはともかく、天国にいらっしゃるのであれば一安心ですね」
「ええ、僕も同感です。このまま天国で心安らかに過ごしていただくのがジュエルバトラー殿にとっては最善かもしれません」
ジュエルの天国行きを確認できたことで、ようやく安堵の表情になるエリトとヒッヒ。
しかし、ワタクシはまったくもって納得していない。
「そんなのダメよ。ジュエルは、ワタクシの元へ取り返します」
「「「ええー???」」」
これこれ、三人とも。そんなふうに「また無茶苦茶言い出したよ、コイツは」みたいな顔をしてワタクシを見るんじゃありません。
「そんなに不思議なことかしら? だって、天国にいる方たちって、罪のないワタクシやスイーティアが地獄に堕ちているというのに、何も手を打ってこなかった無能集団でしょ? そんな連中にワタクシの大切な執事を預けておくことなんてできませんわ」
「じゃあ、どうするというのですか、ご主人様……?」
まさかまさかと、おののきながら聞くエリト。
他の二人も息を飲んで、戦々恐々としている。
「天国へ乗り込んでジュエルを奪い返しに行きます。そもそもジュエルは死ぬべきじゃないから、天国のトップに話をつけて無理矢理にでも生き返らせるように交渉します。場合によっては力ずくでね(ニヤリ)」
「ねえ、お姉様。一応、聞いてみるけど、その天国のトップって誰のことかな……?」
「もちろん、神ですわ」