エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山 浪漫
episode115
小休止:天国でグルメ紀行。 《プリン・ア・ラ・モード編》
ジュエル救出を果たした数時間後。親友のアリアがちょっとした祝宴を催してくれることになった。
何のお祝いかというと、幼馴染と無事に再会できたことのお祝い。そして、スイーツをこよなく愛する我らのこと、祝宴とはもちろんスイーツパーティーだ。
そんなに気を遣ってくれなくてもいいのに、などと遠慮したりはしない。
なにせワタクシに匹敵するほど敬虔なスイーツ信者であるアリアが用意してくれるのだ。一体、どんなスイーツが飛び出してくるのか楽しみで楽しみでウキウキしてしまう。
「何をそんなに嬉しそうにしておるのじゃ、エトランジュ? 幼馴染と再会できたことがそんなにも嬉しいのか?」
からかうように言うアリア。
ワタクシの隣には少し緊張した面持ちでジュエルが座っている。
言えない……。
スイーツが楽しみでウキウキしていたなんて。
「わらわは普段は食べ専なのじゃが、今日は親友にとって喜ばしい日。腕によりをかけて極上のスイーツをふるまおうぞ」
むきっ!っと棍棒のような二の腕に力拳を作っておどけるアリア。
ワタクシとジュエルが再会できたことを我が事のように喜んでくれている。
「お嬢様に親友と呼べるお友達ができる日が来るなんて……。このジュエルバトラー、感無量でございます」
瞳を潤ませながらジュエルが笑顔を向ける。
そんな大げさな……。
でも、確かに人間世界では親友なんて考えられなかった。それに近い存在としてジュエルとスイーティアとネコタローがいてくれたけれど、同じ年頃の女の子の友達は皆無だった。
地獄に堕ちたからこそ仲間ができ、親友ができたのだ。地獄に乾杯(プロージット)。
ま、だからと言ってワタクシをギロチン台へ送ってくれた連中に礼を言おうとまでは思わないけれど。
「アリア様とおっしゃいましたか。エトランジュお嬢様のこと、これからもよろしくお願い申し上げます」
「うむ、苦しゅうない。わらわのことは気軽にアリア姫と呼ぶがよいぞ、ジュエルバトラー殿」
姫って全然気軽じゃないと思うのだが。
「でしたら、俺のこともジュエルとお呼びくださいませ」
まあ、ジュエルがいいみたいだから、いいけれど。
「では、前置きはこのくらいにして、わらわの自信作を食してもらおうか」
そして、テーブルにどん!と置かれたのは一目見てそれとわかる老若男女問わず幅広く愛され続けている、みんな大好きプリンだった。
ただのプリンではない。
「どん!」というのは大げさでも何でもなく、実際に地響きするほどの音がしたのだ。理由は単純でそのサイズと重量のせいだ。
とにかくデカい。
具体的にはプリンだけでアリアの福々しい顔ぐらいはある。さながらモンスターだ。
プリン・ア・ラ・モードが あらわれた!!
隣に座っているジュエルと見ると、あんぐり口を開けて茫然としている。
こういうジュエルの顔を見るのは、ワタクシが17の誕生日に海の覇者リヴァイアサンを釣り上げたとき以来だ。
テーブルに置かれた巨大なプリン。
巨大なだけではない。プリンの周囲はホイップクリームに焼き菓子、色とりどりのフルーツで飾り付けられている。
「これは……」
「アリア特製プリン・ア・ラ・モードじゃ」
まるまるふっくらとしたアリアのドヤ顔。
豊満なボディがプリンのようにぷるるん♪と震える。
「ア、アリア姫……? これは、その、このサイズはサキュバス一族の風習か何かで……? さすが王族ともなれば豪華かつ豪快ですね。いや、祝宴にぴったりのスイーツだ。三人がかりでも食べきれないかもしれませんね。あはははは……」
冷静沈着をもって知られるジュエルが何とか動揺を悟られまいと努めて平静を装っているが、全然うまくいってない。
「何を言っておる。それは一人前の量じゃぞ」
ででん!
でででん!
なんと、さらに2つの巨大なプリン・ア・ラ・モードが出現した。
アリアは なかまを よんだ!!
プリン・ア・ラ・モード×2が あらわれた!!
フリーズ中のジュエルの額には大粒の冷や汗が浮かんでいる。
いくら別腹と言えどワタクシにもこの量の一人前を平らげることはできない。
だが、これは親友のアリアがワタクシたちのために用意してくれた大切なスイーツ。このバトル(スイーツパーティー)、逃げることはできない。
「どうじゃ、この見事なプリン・ア・ラ・モード。美しいじゃろう?」
うん、美しい。そして、デカい。
だが、サイズについては一切触れずアリアは続ける。
「プリン・ア・ラ・モードは、我ら地獄の軍団の旗印でもある。祝宴には申し分のないスイーツじゃろう」
ちゃんとそういうことを考慮したうえでプリン・ア・ラ・モードを選んだわけか。
せっかくそこまで考慮したのなら、分量についても考慮してほしかった……。
いや、いつまでもうだうだと逃げ道を探すなんてワタクシらしくない。
ええい、ままよ。
ワタクシは魔王エトランジュ・フォン・ローゼンブルク。
我これより修羅に入らん。
ぱく。
最初の一口は当然プリンからだ。
甘ーーーい!!
身も心も脳みそもとろけそうな甘さ。甘さだけではない。頭頂部のカラメルが苦みと更なる甘みを与えている。それがぷるんぷるんと口の中で踊り、溶けていく快感。
至福だ。量が多すぎるという問題を除けば。
お次はプリン・ア・ラ・モードをプリン・ア・ラ・モードたらしめているバラエティー豊かな甘味たちだ。
純白のホイップクリーム。
プリンの卵を使用した濃厚な甘みとは異なる乳と砂糖のみで生み出された純然たる甘さ。
真っ赤な大粒のイチゴ。
甘くなった口の中にベリー種独特の酸味が広がり、食欲を刺激する。
よく熟れたメロン。
噛むとじゅわっと甘い果汁と豊潤な果実の香りが口いっぱいに充満していく。
黒猫型の可愛らしい焼き菓子。
これはチョコレートクッキーだ。なんだか食べるのが可哀そうになるぐらいに可愛い。でも食べる。ぱくっ。
鮮やかな黄色のみかん。
イチゴとはまた違った柑橘系の酸味。シロップ漬けにしている分、甘みのほうが強い。これまたいいアクセントになっている。
黒猫型の板チョコレート。
パリパリポリポリ。はい、躊躇うことなくかじりました。いくら可愛くてもスイーツはスイーツ、チョコはチョコ。迷わず食べますとも。
美しく飾り切りされたリンゴ。
しゃくしゃくとした歯応え。豊富な果汁は食べるジュースのようだ。
雪のように冷たくて甘いアイスクリーム。
エーデルシュタイン王国では上級貴族でも稀にしか口にできない貴重な氷菓だ。このヴァニラの香りがたまらない。
ホイップクリームの上にちょこんと乗ったサクランボ。
肉厚で弾力のある実を噛むと果汁があふれ出る。口の中でもぐもぐしながら種を取り出すのはお上品とは言えないが、こういうのもまた楽しい。
薄切りにされて並んだバナナ。
もっちりした食感に南国を連想させる甘さ。色が黒く変化する直前まで熟した最高糖度はそれ自体がスイーツである。
特に順番などは考えずに、心の赴くままに食す。
どれも至高にして究極。それ単体で勝負ができるほどの甘味たち。
そんなスーパースターたちが一堂に会したフルーツの祭典。
それがプリン・ア・ラ・モードだ。
こんな贅沢、こんな幸せがあってもいいのだろうか。
ただし、やっぱり量が多すぎる。
美味しいんだけど、デカすぎる。
デカすぎるんだけど、美味しい。
食べる順番を変え、口を飽きさせないように攻略していこうと試行錯誤しながら果敢に挑んだが、ここらが限界だ。それでも半分は食べた自分を褒めてあげたい。
自分の戦いに集中するあまり忘れていたが、ジュエルは……。
一割も食べないうちに限界に達したようだ。土気色の顔をして微動だにせず固まっている。
アリアは……。
もう全部平らげている。うん、わかってた。
しかし、どうしたものか。
この素晴らしいスイーツを残すなんていうのは犯罪行為だ。神への反逆なんて比較にならないほど罪深い。
「ねえ、アリア。提案があるのだけれど……」
「なんじゃ、エトランジュ?」
「ワタクシたちは仲間でしょ? 辛いことも楽しいことも嬉しいことも分かち合うべきだと思いますの」
「うむ、その通りじゃな」
「だから、このとっても美味しいプリン・ア・ラ・モードを他の仲間たちにも食べてもらって、是非一緒にジュエルと再会できた喜びを分かち合いたいの。よろしいかしら?」
「おお、是非もない。もちろんじゃ。そなたの仲間たちを想う優しい心には、ほとほと感心させられるのぅ。あいわかった。祝宴じゃ、祝宴! プリン・ア・ラ・モードパーティーじゃ!!」
これは決して詭弁ではない。
これは決して逃げ口上でもない。
心の底からこのスイーツを素晴らしいと思い、残すのは忍びないと考え、そして大切な仲間たちに想いを馳せた結果なのだ。
集まって来た仲間たちが巨大なプリン・ア・ラ・モードにビックリ仰天し、楽しそうに思い思い好きなところから食べていく。みんな美味しい美味しいと喜んで頬張っていく。
復活したジュエルは、仲間たちとの会話を楽しんでいる。
我が地獄の軍団の面々もジュエルを新たな仲間として快く受け入れてくれている。
到底食べきれそうにプリン・ア・ラ・モードを消費するために呼んだ助っ人だったけど、こうして同じ釜の飯を食うではないが同じスイーツを食べることで絆がさらに深まった。
うん、よし。計算通り。これにて一件落着。
めでたしめでたし。
……でも、食べ過ぎでぽってりと出たお腹は全然めでたくない。
仕方ない。
腹ごなしに神殺しにでもまいりましょうか。