エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山 浪漫
episode117
悪役令嬢、地獄耳を立てる。
神との戦いに向けて、我が地獄の軍団のメンバーたちが着々と準備を進めていく。
天国の住人から神の居場所を聞き出す者たち、重火器の整備にあたる者たち、連携技の最終確認をする者たちと、ワタクシが逐一指示をしなくても最善の動きをしている。
まったく頼もしい限りだ。
そんな中、若干暇を持て余している様子のネコタローとジュエルが話をしている姿が見えた。二人は人間世界からの付き合いだ。久しぶりの会話に花を咲かせていてもおかしくはない。
しかし、ネコタローの正体は地獄の先々代魔王ギルティアスであり、彼が黒髪、闇魔法だったせいでワタクシが風評被害を受けていたという事実もある。一応、そのことはジュエルには伏せてあるものの、どこかで漏れている可能性も否めない。
果たして彼らは、どんな会話をしているのだろうか。
好奇心猫を殺すというが、この場合、殺されるのはネコタローだ。安心して聞き耳を立ててみるとしよう。魔王だけに地獄耳……なんてね。おほほほほほ。
「ネコタローよ。噂ではお嬢様にプロポーズしたと聞いたが?」
「だ、誰から聞いたのだ?」
「誰だっていい。それよりも猫が人間にプロポーズしてどうしようっていうんだ?」
「俺は猫だが、猫ではない」
ネコタローは矛盾した答えを口にしながら、先々代魔王ギルティアスへと姿を変える。
一瞬目を見開いたジュエルだったが、すぐに平静を取り戻して笑顔になる。
「ほう、見事な黒髪だな。聞くところによると、闇魔法を極めているらしいじゃないか。ネコタローにそんな特技があったとは驚きだな」
「ふっふっふっ、まあな」
まんざらでもなさそうにネコタローがニヤリと笑う。
しかし、これはジュエルの狡猾な罠だった。
「確か人間世界で黒髪と闇魔法が忌み嫌われているのは、地獄の魔王が黒髪で闇魔法を極めし者だという言い伝えのせいだったなぁ。その馬鹿馬鹿しい言い伝えのせいで、どれほどお嬢様がいわれのない誹謗中傷を受けたことか……。その地獄の魔王とやらが、まさかネコタロー、お前ということはないよな? んん?」
「は、謀ったな、ジュエル!」
「黙れ。道端でくたばりかけていた黒猫のお前をお嬢様は拾ってくださった。そして大切に育ててくださった。お前は命の恩人であるお嬢様をずっと裏切り続けていたのだ。これは断じて許しがたい。万死に値する」
怒れるジュエルが袖口から暗器を取り出す。
今やネコタローの命は風前の灯火。果たしてネコタローの命運やいかに。
「ま、待て、ジュエルよ。これには深い事情がだな……」
「ほほう、どんな事情があるというのだ? 聞かせてもらおうか」
しどろもどろになりながらも必死に言い訳を始めるネコタロー。
転移時の問題で魔力を失っていたせいで、人間世界ではただの黒猫として過ごすしかなかったこと。
ワタクシが黒髪、闇魔法のせいで不当な差別を受けている姿を見て、身が引き裂かれる思いをしてきたこと。
地獄でようやく魔力を取り戻してしゃべれるようになったけど、罪悪感ゆえになかなか真実を口にすることができずに苦しんだこと。
ネコタローは包み隠さず、思いの丈を吐露した。
「……悪かったと思っている。しかし、エトランジュに嫌われるのが怖かくて、すぐに言い出せなったのだ」
「ふん、この卑怯者め」
容赦ないな、ジュエル。
相手は一応、地獄では尊敬を集めている先々代魔王様なんだけど。
「……返す言葉もない」
「まあ、充分反省はしているようだし、お嬢様がギロチンにかけられた後、アンジェリーナの手の甲を引っ搔いて一矢報いたことも知っている。地獄に堕ちてからは真っ先にお嬢様の家来として馳せ参じ、幾たびもお嬢様の危機を救ったことについても調べさせてもらった」
あらかじめ全部調べ上げたうえでのネコタローへの尋問というわけか。
怖いな、ジュエル。ワタクシもあまりお転婆しすぎて怒らせないように注意せねば。
「……よってネコタロー、お前を殺すのは保留にしておいてやる」
「ほ、保留?」
「何か文句でも?」
ジュエルの殺気を込めた瞳がギラリと光る。
だから怖いってば。
「いえ、保留でお願いします」
ふふふ、地獄の先々代魔王もジュエルの前じゃ形無しね。
「今度お嬢様にプロポーズしたらその場で殺す」
「ん? んん~? それはどうかなぁ~……?」
何その反応。
もしかして、まだ諦めずにプロポーズする気だったの?
ジュエル。殺っちゃいなさい。