キマイラ文庫

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目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode139

悪役令嬢、vs神。

「絶対に赦してはおけない!! 神の裁きを受けるがいい!!」


 かくして始まった神との最終戦争ではあるが、こちとら事と次第によっては神殺しを断行するつもりで天国を侵略しに来たのである。今更、神の裁きなんて言葉に尻込みするような者は、我が地獄の軍団には誰一人としていない。

 それどころか待ってましたとばかりに、準備万端整えてきた成果をお披露目しようとウキウキと後方へ駆け出す。ヒャッハーとスーに至ってはルンルン♪と鼻歌まじりにスキップしている。一応、神との最終戦争なのだから、もう少し緊張感を持つポーズだけでもしたほうがいいと思う。

 だって、さっきから神がその様子を見てポカンと呆れて口を開けたままだし。


「か、神よ!! やつらが逃げてしまいますぞ!! 神の怒りの鉄槌を喰らわせておやりなさい!!」


 仲間たちが後方へ走り出したのを見て、逃走だと勘違いしたゴキゼブブが慌てて神に鉄槌をふるうことを催促する。

 それを受けて神が右手をかざすと、強大な魔力反応とともに、いくつもの白い巨大な右手が宙に出現する。

 ほほう。これが神の怒りの鉄槌とやらか。

 普通はその一撃で決着がつくのだろう。

 しかし、我ら地獄の軍団をそんじょそこらの哀れな子羊たちと一緒にしてもらっては困る。


「神の怒りを喰らえっ!!」


 少年のように感情むき出しで叫ぶ神。


 ズズーン!!

 ドーーーン!!

 ドドドーーーン!!!!


 後方に下がった仲間たちのほうに向かって容赦なく無慈悲に神の怒りの鉄槌が振り落とされる。その威力に神殿全体が大きく揺れる。

 立ち上る白い煙。視界が悪くて状態を確認できない。

 しかし、状況は把握できる。なぜなら、仲間たちが何のために後方に下がったかをワタクシは知っているから。


 ズシーン。

 ズシーン。

 ズシーン。

 ズシーン。


 白い石の床を踏みしめる黒色の鉄の足。

 そこには召喚魔法によって呼び出された、かつてワルサンドロス商会本拠地で戦った鋼鉄の巨神ギデオンの姿があった。

 正確にはあのときのギデオンとは異なる点がいくつかある。


 一つめは、その数だ。あのときはまだ1体しか存在しなかったギデオンだが、あれから修復、そして増産と順調に数を増やしていき、現在は仲間たち全員が搭乗できるほどの数を所有するに至っている。


 二つめは、その性能だ。イグナシオのあくなき向上心はギデオンの修復だけにとどまらず、攻撃力、防御力、スピード、各種能力値を引き上げることに成功した。

 それだけではない。アホーボーンが仲間に加わってからは魔法への対策も万全となった。

 ゆえに、神の怒りの鉄槌を喰らっても傷一つ付いていない。


 三つめは、ここが一番大事なのだが、可愛さだ。

 鋼鉄の巨神ギデオンは素晴らしい作品だと高く評価しているが、いかんせん可愛くない。

 だからイグナシオに頼んで顔の部分を黒猫型移動要塞マカロンとおそろいの黒猫ちゃんにしてもらったのだ。

 可愛くなって性能は3倍(当社比)。

 可愛いは正義。

 可愛いは最強なのだ。


「お姉様。準備OKだよ」


 ギデオンに搭乗している我が弟イグナシオの声が響く。

 マカロンに一時帰還していた彼ではあるが、ギデオン軍団の出動の際には指揮を執るようにあらかじめ計画を決めてあったのだ。


「おーい、エトランジュ。私もいるぞ」


 お父様!?

 これは完全に計画外。

 確かにギデオンに乗ってみたいとおっしゃっていたけど……。

 きっとイグナシオに無理を言って頼んだのね。

 まあ、お父様の望みが叶って何よりということにしておきましょう。


「ワタクシもいるわよー、エトランジュ!」


 お母様!!?

 ワタクシのことをさんざんお転婆だとおっしゃっていましたけれど、お母様も大概でしてよ。

 とんだ飛び入り参加のゲストの登場ではあるが、戦力が増えただけのこと。問題はない。……ということにしておく。


「お次はワタクシのターンでよろしいですわね? ワタクシ、平和主義でも博愛主義でもないので、遠慮なくボコボコにさせていただきます。神におかれましてはどうぞ覚悟なさってくださいね(^^)」


「こ、こんな! ずるいぞ!!」


「ずるくて結構。だってワタクシ、地獄の魔王ですもの。おほほほほほ」


 半泣きの顔で喚き散らす神は、下町で駆け回っている少年たちと変わらない。

 だが駄々をこね、暴れ回る子供というのは手が付けられないものだ。しかも、それが神ともなれば駄々をこねるにしても、暴れ回まるにして、一撃一撃の威力が途方もない。

 いつだったかアンジェリーナが学園の武闘会で放った光属性の全体魔法や、まばゆい光と轟音とともに襲い掛かってくる稲妻、邪悪な存在を浄化する聖なる炎……。

 それらを駆使して必死に抵抗する神。その隣では巻き添えを喰らったゴキゼブブが仰向けになって泡を吹いている。


「腐っても神。なかなかやりますわね。しかし、これはどうかしら? ネコタロー。アホーボーン」


「うむ。あれをやるか、エトランジュよ」


「うん。任せて、お姉様」


 神との最終戦争が苦戦するにしても楽勝だとしても、どちらにせよ最後はこの技で決着をつけるつもりだった。

 せっかく地獄から天国へやって来たのだから、闇の象徴たる地獄の魔王から光の象徴たる天国の神への超ド級のプレゼント。

 現魔王のワタクシ、先代魔王のアホーボーン、先々代魔王のネコタローがそろい踏みの、地獄の三大魔王による合体技。

 闇魔法の中でも最上級の禁呪メテオと双璧をなす闇の最大火力魔法『インフェルノ』――地獄の業火を召喚して敵を焼き尽くすこの魔法を、三柱の魔王で同時発動する究極至高の合成魔法、名付けてその名も『インフェルノ・トライアングル』。


「これで、おしまいですわ!!」

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 勝った。

 完膚なきまでに神を叩きのめした。

 何て罰当たりな、という人もいるかもしれないが、そんなの関係ない。

 ワタクシはエトランジュ・フォン・ローゼンブルク公爵令嬢であり、魔王エトランジュ・フォン・ローゼンブルクなのだから。


 で、勝ったのはいいとして、新たな問題が一つばかり浮上した。

 何かというと……。


「ねえねえ、お姉様。どうして途方に暮れた顔で天を見上げているの?」


 それは貴方のせいです。

 ワタクシの腕につかまりながら無邪気に問いかけてきた少年は……神。

 戦いを終えた後、なぜだかとっても懐かれてしまって絶賛困っている。


「ね、ねえ、貴方は神でしょ? 神様が人間の……しかも魔王でもあるワタクシをお姉様と呼ぶのはちょっと問題があるのではないかしら?」


「なんで? ボクは全知全能で、森羅万象を司る神なんだよ。そのボクがお姉様だと決めたんだから誰にも文句は言わせないさ」


 こういう尊大なところは、やはり神だ。

 助けを求めようと、イグナシオとアホーボーンのほうを見ると、二人ともササッと目を逸らす。

 おい、弟たちよ。姉を見殺しにする気か。


「ボ、ボクは、ボクが上のお兄ちゃんってことでいいなら別に構わないけど……」


「み、右に同じく……」


 賛成多数で三人目の弟が誕生した。

 姉 ワタクシ   魔王(元人間) 年齢17歳

 弟 イグナシオ  人間      年齢10歳

 弟 アホーボーン 元魔王     年齢12851歳

 弟 名前なし   神       年齢不詳(宇宙創造時に誕生?)


 どんな姉弟だ。

 どう考えてもおかしいだろ。

 まるで意味不明だが、とにもかくにも文字通り神に愛される乙女になってしまった。

 これを喜ぶべきか、悲しむべきか、それとも笑い飛ばしてしまうべきか。

 どうやら全知全能、森羅万象の神の前にはこれ以上抵抗しても無駄のようだし、この際、笑い飛ばしておくとしよう。

 おほほのほ。

 ……はぁぁ~(ため息)。


 後世の歴史たちが『神々の黄昏(ラグナロック)』の顛末を知ったとき、ワタクシと同じように大きなため息を吐く羽目になることを、この時点ではまだ誰も知らない。