キマイラ文庫

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目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode134

悪役令嬢、vs半人半Gの改造人間。

「やめるんだ、エトランジュ! あれは……! あれは私の妹だ!!」


 悲鳴に近いお父様の声に、さすがに闇魔法メテオの発動を思いとどまる。

 おそるおそる特殊ゴーグルを取って裸眼で目視すると、確かにそこにはGではなく叔母様と義叔父の姿があった。

 二人とも背中には、あのおぞましい大きなGの黒光りする羽を生やしている。

 あの羽で飛んできたのか。しかし、なぜ羽が?

 羽だけだからまだマシだけれど、それでもGの羽は鳥肌が立つほど気持ち悪い。


 叔母夫婦の瞳はうつろだ。天国の住人たちと同じ目をしている。

 どうやら洗脳されているようだ。

 しかし、地獄でお留守番しているはずの叔母夫婦がなぜ天国にいるのか?

 地獄との往来を不可能にしていた天国の門も今や解放されている。

 Gたちが地獄に出向いて拉致してきたのか?

 いや、叔母夫婦にそこまでする価値はない。

 では、叔母夫婦たちが天国に来たのか?

 うん。これはあり得る。

「エトランジュだけ天国へ行くなんてずるい! 許せん!」

「本当は私たちこそ天国へ行くべきよ!」

 そんな叔母夫婦の声が今にも聞こえてきそうだ。

 そうして天国へやって来たところをGたちに見つかった。

 で、ワタクシたちの情報をすべて教える代わりに天国の住人にしてくれと命乞い。

 洗脳された挙句に半人半Gの羽付きの姿に改造されてワタクシを殺すように命じられた。

 ……と、そんなところか。

 うん。あり得るあり得る。間違いない。


 ――この間、2.5秒。

 よし。いつも通り、ワタクシの頭脳は冴えわたっている。

 半人半Gにクラスチェンジしたとて所詮は叔母夫婦。ワタクシの敵ではない。


「エ、エトランジュ」


「ご心配なさらないで、お父様。叔母様たちを殺したりはしません。ほんの半殺しにするだけですわ」


「だからそれが心配なのだよ……」


 ここは天国の上空1000メートル。飛行するマカロンのデッキの上だ。

 目の前には肉体の一部をGに改造された叔母夫婦。そして叔母様の身を案ずるお父様。

 これ以上、面倒な状況にならないうちに、さっさと始末しよう。


 ズギューン!

 ズギューン!


 愛用の銃を抜いてすぐさま発砲する。狙いは叔母夫婦の眉間。

 なあに、当たってもすぐにイグナシオとアホーボーンに修復してもらえば死にはしない。だから半殺し。ギリギリセーフ。

 だが、驚いたことに叔母夫婦は人間離れしたスピードで銃弾をかわした。

 早撃ちにも射撃の腕にも自信あったのに。


 しからば闇魔法だ。発動時間の短さと連続で何発も撃てる点を重視して、ここはダークアローを選択する。

 今度は眉間だけを狙うのではなく、四方八方、背後からも無数の黒い光の矢を放つ。

 しかし、それもあっさりとかわされる。

 まるで連続で瞬間移動するように驚異のスピードで動く叔母夫婦。

 そのスピード、その瞬発力はまさしくGのものだ。

 今度は自分たちのターンとばかりに叔母夫婦がカサカサカサカサと俊敏に動き回る。

 そのまんまGというわけではないものの、Gを連想するには充分な動きで、かなり気持ち悪い。先程から猛烈な嫌悪感に襲われている。

 半殺しなんて面倒だし、いっそ全殺しにしてしまいたくなる。


「暗黒星よ。闇に煌めく星々よ。我が呼びかけに応え、怨敵を殲滅せよ。メテオ」


 闇魔法メテオは広範囲にわたる範囲攻撃だ。これはかわせまい。

 だが、そのメテオすらも叔母夫婦はかわしてのける。

 そ、そんな……!!

 早撃ち、ダークアロー、メテオ。

 これらすべてをかわせる者が我が地獄の軍団に何名いるか。おそらく片手で数えるほどしかいないだろう。

 ということは、半人半Gに改造された叔母夫婦は、少なくともスピードにおいては我が地獄の軍団の幹部クラスの実力があるということだ。

 信じられない。

 いや、信じたくない。


 闇魔法メテオは禁呪であり、とてつもない威力がある分、発動後の隙も大きい。

 更には真実から目を背けようとするワタクシが、すぐに次の行動に移れずにいるところを好機と見た叔母様がお父様の、義叔父様がお母様の身体にしがみつき、ブブブブブと黒光りする羽を羽ばたかせる。


「お父様!! お母様!!」


 ワタクシと近くにいた仲間たちも危険を察知して捕縛を試みるも、Gのスピードと瞬発力を持つ叔母夫婦はカサカサカサとすり抜ける。

 そして、飛び立った彼らは人ひとり運んでいるとは思えないほどの猛烈な速度で逃走していく。


「逃がしてはなりませんわよ!!」


 だが、全速前進で追跡するマカロンとの距離はぐんぐんと広がっていくばかり。


「1000……1500……2000……ロスト…………。すまねえ、姐さん。見失っちまった」


 シュワルツの悔しそうな声が、両親との二度目の別れを告げた。

 しまった。

 すっかり油断していた。

 唯一最大の弱点を克服したがゆえの万能感、マカロンで飛行しながら次々とG(叔母夫婦)を撃墜する爽快感で、己が無敵であるなどと錯覚していた。

 半人半Gになった叔母夫婦に対しても、所詮は叔母夫婦だと完全にあなどっていた。だから、つい両親に危険が迫る可能性を忘れていた。

 ああ!!

 10分前のワタクシを思いっきりぶん殴ってやりたい。


「お嬢様、ご自分をお責めにならないでください。わざわざ人質を取るような真似をしたのはGどもがすぐに旦那様と奥様を害するつもりはないということです。挽回の機会はあります」


「その通りですよ、ご主人様。今は落ち込むよりも、一刻も早くご両親を取り戻すことを考えましょう」


 そばにいた執事のジュエルと侍従長のヒッヒが、肩落とすワタクシに励ましの声をかけてくれる。

 しかし、今のワタクシにその励ましを受ける資格はない。


「………………」


「大丈夫だよ、お姉様。万が一に備えてマカロンをオープンモードにするとき、ママに発信機を渡しておいたんだ。だいぶ距離は開いちゃったけど追跡可能だよ」


 なんですと!?


「でかしましたわ、イグナシオ!!」


 ありがたい。姉の失点を弟がすぐさま挽回してくれるとは。

 イグナシオの素晴らしい機転に感謝だ。

 そうとなれば今は落ち込んでいる場合ではない。Gと化した叔母夫婦にさらわれた両親を奪回すべく、さっそく行動を開始せねば。


「黒猫型移動要塞マカロン、全速前進!! お父様とお母様を取り返しますわよ!!」


「はい、お姉様!!」


 両親を人質に取ったGたちが何を要求してくるかはわからない。

 しかし、相手が交換条件を持ちかけてくるのを座して待つなんて性に合わない。

 だいたいGを相手に取引なんてするつもりもない。

 人質がいるから有利だと思って油断している間に、こちらから奇襲を仕掛けて差し上げてやりますわ。


「お姉様。発信機の信号が止まったよ。ここは……天国の神殿じゃないか。お父様とママは、天国に神殿へ連れて行かれたみたいだ」


 つまり主犯は神ということか。

 ワタクシとスイーティアが冤罪で地獄に堕ちるのを見過ごしたことは、地獄でハッピーライフを過ごせたことだし、許して差し上げても構わない。

 無実のジュエルをむざむざと死なせてしまったことは許せないけれど、100発ぐらい殴ったら許して差し上げるつもりだった。

 でも、ようやく再会した両親を人質に取るなんて。こればかりは断じて許せない。万死どころか億死にも兆死にも値する。


 そうですか。

 そんなにワタクシに神殺しをさせたいのですか、神は。

 よろしくてよ。

 しからば見せてご覧に入れましょう。

 地獄の魔王の怒りというものを――