エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山 浪漫
episode128
悪役令嬢、とある仮説にたどり着く。
ここは黒猫型移動要塞マカロンの内部。収納魔法の恩恵で外観からは想像もつかないほど広々としている。その広さは我が地獄の軍団全員を収容してもまだまだ余裕があるどころの騒ぎではなく、各自の部屋、食堂、キッチン、倉庫、武器庫、訓練施設、医療施設、研究開発施設、娯楽施設と何でもそろっているうえに、それでもまだスペースに余裕があるのだから驚きだ。
使い方次第では収納魔法だけで天下が取れてしまいそうだ。もっとも天下なんかに興味はない。天下よりもスイーツのほうが大事に決まっているのだから。
ワタクシたちは今、黒猫型移動要塞マカロンの内部に複数備えてある会議室のうちの一つで、マカロンの修復作業の合間に、とある議論をしている。
上空には、まだあの黒い天使……いや、Gに天使という呼び名は適切ではない。ただのGで充分だ。とにかく、あのGたちが我々を捜しだそうと躍起になっているようだが、見つかる心配はない。
理由は簡単。マカロンを透明にしたからだ。
実際には透明なのではなくイグナシオが光学迷彩とかいう科学技術を使って限りなく透明に近い状態にしたところに、アホーボーンの魔法技術で補完して完璧な透明を実現したのだ。
理屈はまったくわからない。でも、あの二人は実現した。結果良ければすべてよし。そうしてマカロンは完全に存在を消した。
前置きが長くなったが、先刻ワタクシがエーデルシュタイン王国の正統な王位継承者であるという事実が判明した。今更そんなことがわかったところで何が変わるというものでもない。いくら魔王とて、過去は変えられないのだから。
しかし、未来には多少の影響があるかもしれない。そこで集まったのが我が地獄の軍団の中でもエーデルシュタイン王国出身であるスイーティアとジュエル、それからネコタローだ。
ネコタローは、実際には地獄出身者なのだが、人間世界に転移してからは生粋のエーデルシュタイン王国っ子であると本人からの強い主張があったため、会議に参加している。
王国の事情に詳しい者は一人でも多いほうがいいので、ジュエルも氷のような視線を送っただけでネコタローの参加を拒むことはしなかった。
「お嬢様がプリンセスだってことがわかって、私、とっても嬉しいです!!」
鼻高々といった様子のスイーティアがニコニコしている。会議のお供のスイーツも心なしか普段よりも豪華で品数も多い気がする。
「現在、エーデルシュタイン王国で語られている歴史も、学園の授業で教えられた歴史も、全部ウソだったということか! 許せん!!」
会議室のテーブルを叩きつけて、ジュエルが怒りをあらわにする。
そして珍しく興奮しているジュエルを、年長者としてネコタローがたしなめる。
「落ち着け、ジュエル」
「これが落ち着いていられるか!!」
「エトランジュが王女として幸せに過ごしていた未来があったかもしれないと思えば怒りが湧くのも当然だが、勝者が歴史を都合よく改ざんするのは世の常ではないか」
「ネコタローの言う通りよ、ジュエル。歴史とは勝者が作るものであり、真実を伝えるためのものではありませんことよ。歴史だけじゃありませんわ。勝者は伝統も文化も規則もすべて自分の都合のいいように改変して敗者たちを支配する。今に始まったことではありませんわ」
「し、しかし、お嬢様……!」
これ以上ないというほど口惜しそうな顔のジュエル。
彼にとっては頭では理解していても心で受け止めるのは難しい問題なのかもしれない。
「過ぎたことを悔やんでも仕方ありませんわ。それよりも大事なのは未来でしてよ。長らく歴史に埋もれていたこの真実を知っていた者がエーデルシュタイン王国内にいたと仮定した場合、どういう可能性が考えられるかしら……?」
それが、この会議の主題だ。
ワタクシの問題提起に、ジュエルがピクリと光る。眼鏡を失くしていなければ、眼鏡がキラリと光る場面だ。
「……もしかして、その隠された真実のせいで旦那様と奥様は事故死に見せかけて暗殺されたとお考えなのですか?」
「あくまで仮定の話でしてよ」
「え? え? じゃあ、お嬢様が王族暗殺計画なんて濡れ衣を着せられて処刑されたのも……」
「エトランジュが正統な王位継承者だと知っていて仕組んだ。不都合な真実が表沙汰にならないように、あえて反逆者として処刑されるように……。充分ありえるな」
「そんな……ひどい。誰が一体そんなことを……」
悲しみ怯えるスイーティアの言葉に、ジュエルは目を閉じ、ネコタローは虚空を見上げる。
それぞれ思い当たる人物を頭の中に浮かべようとしているのだろうが、容疑者は少ないため答えが出るのにそう時間のかかる問題ではない。
まず、この真実が白日の下にさらされて一番困るのは、王とその後継者である第一王子だ。
だが、ワタクシが真のエーデルシュタイン王国王位継承者だと知っていたなら、第一王子の婚約者などにせず、ただちに抹殺しているはず。
叔母夫婦も有力な容疑者候補と言えるが、彼らはむしろワタクシを担ぎ上げて自分たちが権力の中心になろうとするだろう。わざわざワタクシを第一王子の婚約者として売り飛ばす必要がない。
残るは――
アンジェリーナだ。
だが、お父様とお母様が事故死したとき、彼女はまだ6歳。
6歳の幼子がそんな恐ろしい計画を企てるだろうか。
……いや、アンジェリーナならやる。
自分がヒロインになるためなら、あの子は何だってやるだろう。
顔を見ると、どうやらジュエルも、ネコタローも、スイーティアも同じ答えに行き着いたようだ。
ジュエルは青い顔をして苦しそうに左の胸を押さえている。
ネコタローはこの先の戦いに想いを馳せているのか、目を閉じて憂いの色を浮かべている。
可哀そうなスイーティアは怯えて涙を浮かべて震えている。
今はまだ仮説でしかない。
しかし、この仮説が真実だとしたら、そのときは――