エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山 浪漫
episode123
悪役令嬢、両親と再会してティータイム。
あー。スッキリした。
あー。恥ずかしい。
魔王ともあろう者が人前でメチャクチャ泣いてしまった……。
天国で愛する両親と再会したワタクシはひとしきり泣き終えて、今はいつもの冷静さを取り戻している。
「いつも娘がお世話になっており、感謝いたします。この子の親として皆さんには心からお礼申し上げたい」
我が地獄の軍団の仲間たち一人一人の目を見ながら丁寧に礼をする父、ウォルフガング・フォン・ローゼンブルク公爵。
「うちのエトランジュはお転婆で面倒を見るのが大変でしょ? 本当にごめんなさいね」
全然ごめんなさいと思っていない笑顔で余計な補足をする母、カトリーナ・フォン・ローゼンブルク公爵夫人。
「も、もうお母様ったら! やめてくださらない!?」
こうして両親と一緒にいるところを仲間に見られるのは、今更ながら何だかとっても照れくさい。
魔王の両親と対面した仲間たちと言えば、恐縮するあまりにいつもよりも三割ほど小さくなっている。その彼らの目のあたりはワタクシと同じように赤く腫れぼったくなっている。
ワタクシと両親の感動の対面に大いにもらい泣きしたようだ。
みんな人情に厚い心優しい者ばかりだ。……大半は悪魔だけれど。
「噂には聞いていましたが、本当にご両親が実在したとは……」
片眼鏡をくいっと上げながら、まじまじと両親の顔を眺めるエリト。
うちの両親は珍獣ではありませんことよ?
それとワタクシは木の股の間から生まれたわけでも、コウノトリに運ばれてきたわけでもございません。ちゃんと両親の愛の結晶として誕生しましたのよ?
「旦那様、奥様。お久しゅうございます。お元気そうで何よりです」
「ジュエルか。大きくなったな。死んで天国にいるわけだから元気というのもおかしな話だが、まあ元気と言えば元気か。私たちの死後も変わらずエトランジュの味方でいてくれたこと、礼を言うぞ」
「そんな……。もったいないお言葉です」
「貴方がそばでたしなめてくれなかったら、エトランジュはもっと無茶苦茶して監獄行きになっていたか、エーデルシュタイン王国を乗って取っていたでしょうからね」
「そんな……。いえ、その通りですね」
おい。
そこは否定しなさいよ。
「しかし、俺はお嬢様が処刑されるのを防げなかった無能な男です……」
やはりジュエルはそのことを気に病んでいたか。
口にこそしないものの、どこかワタクシに対して引け目を感じているような態度が気になっていたのだ。
「……あれはお前の責任ではないよ、ジュエル」
そうそう。
ジュエルは何も悪くない。
「そうそう。あれはやりたい放題やり過ぎたエトランジュの自業自得なんだから」
お母様!?
ジュエルの罪悪感を和らげてあげるためとはいえ、いくらなんでも娘に対してひどすぎませんこと?
ま、まあ、やりたい放題やり過ぎたことを認めるのにやぶさかではありませんけれど。
「……とはいえ、娘をギロチン台に追いやった者たちには、いずれすべからく代償を払っていただきますけどね」
そう言ったお母様の瞳がギラリと光る。
こういうところを見ると、ワタクシは母親似なんだろうなと思う。
お母様は生前、叔母様に相当いびられたと聞くし、地獄に帰ったら叔母夫婦をお母様への生贄に捧げるとしよう。うん、それがいい。
「旦那様。奥様。お茶が入りましたので、どうぞ」
「おお、キミはスイーティアだね? いつも娘の世話をしてくれて、ありがとう。キミがいなかったら娘の人生は、もっと無味単調な色どりのないものだったに違いない」
「いえ、そんな。とんでもないことです。私のほうこそお嬢様にお会いできて素晴らしい毎日を送れています」
うんうん。さもありなん。
さすがワタクシの嫁。100点満点の回答ですわ。
「本当に? エトランジュのせいで巻き添えになって地獄行きになったのに?」
お母様ったら……。
それを言っちゃあ、おしまいですわよ?
「ワタクシはもとよりお嬢様のいるところでしたら、たとえ火の中水の中、そこが地獄の果てであろうともお供する覚悟でしたから、なんてことありませんわ」
お母様の意地悪な質問に対して満面の笑みで返すスイーティア。
さすがワタクシの天使。スイーティアに1億点。
どうです、お母様?
これが本物の天使というものでしてよ。おほほほほほ。
「にゃーご」
久しぶりに猫の鳴き声を聞く。
登場したのは、このほのぼのとしたティータイムに乗じて、ただの黒猫のふりをしてやって来たネコタローだ。
「おや? キミはネコタローか」
笑顔でネコタローの頭をひとなでするお父様。
「にゃー……」
「……娘はやらんぞ」
ぴし。
冷ややかな視線にネコタローが凍る。
よくぞ言ってくださいましたわ、お父様。
「この黒猫が先々代地獄の魔王だなんて信じられないわねー。娘がギロチンにかけられるのも防げなかったし、地獄の魔王というのも案外大したことないのかしら?」
辛辣なお母様の言葉にすごすごと退散するネコタロー。
その哀愁漂う背中に、あのジュエルですら同情の視線を送っている。
「お父様。お母様。随分とお詳しいですわね」
「ああ。それはもう、お前のことが気がかりでならなかったからね。死んでからというもの、ずっと天国から見守っていたのだよ」
「え?」
「お父様ったら、貴方のことが心配で心配で毎日のように天国から様子を見ていらしたのよ」
「え? え?」
……ということは、もしかしてワタクシのあんな場面やあんな場面やあんな場面まで見られていたってことかしら?
だとしたら、それは結構マズいのでは……? はわわわわ。