エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山 浪漫
episode125
悪役令嬢、衝撃の真実。
「エトランジュ。お前に伝えておきたいことがある。驚かずによく聞いておくれ」
子供頃の記憶では笑顔の印象しかないお父様が、真剣な表情をしている。
こんな顔を見るのはまだお父様がご存命中、ワタクシが聖ウリエール学園・初等部に入学して間もない頃、黒髪のことでいじめてやろうと因縁をつけてきた子息令嬢たちのお尻に闇魔法ダークアローを叩き込み、1ヶ月間の停学処分を喰らったとき以来かもしれない。
「実はな、エトランジュよ。お前はエーデルシュタイン王家の正統な後継者なのだ」
「は……?」
王家の正統な後継者……?
予想だにしなかった言葉に思わず、素っ頓狂な声が出てしまう。
「「「「「「「「「「「「「「ええええええーーーーーー!!!???」」」」」」」」」」」」」」
だが、そのワタクシよりも衝撃を受けたのは、どうやら仲間たちのほうだったようだ。
お父様との会話を遠巻きに静かに見守っていた彼らが、一斉に驚きの声を合唱する。
いやいや。ワタクシがエーデルシュタイン王家の正統な後継者だったとしても、そこまで驚く必要はないのに。この溢れ出る気品、この隠しきれないエレガント。どこに出しても恥ずかしくない王女の風格ではありませんこと?
まあ、ワタクシとて少々驚きはしたけれど、それは思いもよらないことだったからであって、正統な王位継承者だという事実そのものに驚いたわけではない。むしろ納得感のほうが強い。
あの玉座にふんぞり返っているだけの無能なバカ親の王や、顔だけしか取り柄のないアホの第一王子なんかよりもワタクシのほうがよっぽど王位に相応しいと思ったことは、数え上げればキリがない。
もっと言うと、すでに地獄の魔王という王位に就いているワタクシにとって今更人間世界の王位継承者の座など無価値に等しいから、さほど動じる理由がない。
それよりもワタクシが正統な王位継承者であるとしたときに、もっと別の、望ましくない結末が待っている可能性のほうが気にかかる。
「……お父様。まさかワタクシがお父様とお母様の実の子ではない……なんてことはおっしゃいませんわよね?」
そうなのだ。ワタクシにとっては、この問題のほうが遥かに大きいのだ。
万が一にも実の子ではないと言われたら、心の支えを失い、理性のたがが外れたワタクシは破壊神と化して、ストレス発散のためにダッシュで神をボコボコにしに行くだろう。
「いや。安心しなさい、エトランジュ。お前は間違いなく私と母さんの子だ」
ほっ。良かった……。
お母様のほうを見ると、優しくニコリと微笑んでくれる。
こういうところはやはりお母様だ。心が温かくなる。
「実は私の父の父の父の父の父の父の父の父がエーデルシュタイン王だったのだ」
んん?
……ということは、ひいひいひいひいひいひいひいおじい様?
本当に合ってる?
一度聞いただけでは正確なところはよくわかないし、この際、細かいことは置いておくとしよう。
「どうしてそれがおわかりになりましたの?」
「天国に来て本人に聞いたからだ」
お父様が初老の紳士のほうを向くと、当の本人が「どうも。ひいひいひいひいひいひいひいおじいちゃんだよ」と笑顔でVサイン。
「な、なるほど」
うーん、そうか。
本当にワタクシはエーデルシュタイン王家の正統な王位継承者なのか。
ひいひいひいひいひいひいひいおじい様をはじめとした歴代ローゼンブルク家の皆様に勢ぞろいで証言されると否定のしようがない。
先程は魔王だから人間世界の王座は無価値に等しいと思ったが、改めて証拠を突き付けられると徐々に実感が湧いてくる。我がローゼンブルク家が正当なる王家でのなら、あながち無価値ではないかもしれない。
もし、生前にこの事実がわかっていれば、アホな第一王子と婚約することもなく、ギロチン送りにされることもなかっただろう。
黒髪と闇魔法のことで後ろ指をささることもなかっただろう。
なぜなら、そんな不敬な輩は正統なる王位継承者として全員排除してしまえば済むことだから。
その代わりに『黒き惨劇のエトランジュ』『暗黒の魔女エトランジュ』『返り血のエトランジュ』という物騒な二つ名が、もっともっと物騒なものになっていた可能性はあるけれど。
まあ、すべては過去のこと。今更言っても栓無きことだ。
「お姉様がエーデルシュタイン王家の正統な後継者ってことは、『プリンセス・エトランジュ』、そして『女王(クイーン)・エトランジュ』という別の未来、世界線が存在するかもしれないってことか。その世界線もぜひ見てみたいな。どうすれば……」
アホーボーンが興味深そうに何やらつぶやいている。
プリンセス・エトランジュ? 女王(クイーン)・エトランジュ?
その二つ名は気に入った。歴代最高だ。
うん。やはり二つ名というのは、こういうのでないと。むっふっふっ。
「当時エーデルシュタイン王だった私の父の父の父の父の父の父の父の父は家臣の裏切りによって王座を追われ、辺境に逃れた後は身分を捨てて平民として生きることにしたのだ。だが、その血統の優秀さゆえか、教育のたまものか、ほとぼりが冷めて誰もがかつて王座を追われた一族のことなど忘れた頃……平民だった私の父の父の父の父の父の父が大手柄を立てて男爵位を得て、再び貴族となったのだよ」
ご先祖様の一人が「やっほー。ひいひいひいひいひいおじいちゃんだよー」と笑顔で手を振る。
なんかお茶目だなぁ、うちのご先祖様。
「本人も平民として育ったため、まさか本来の王家の血筋とは知らなかったし、爵位を与えた当時の王もそうとは知らずに取り立てたらしい。しかし、そこからローゼンブルク家の大躍進が始まる。男爵、子爵、侯爵、公爵と凄まじい勢いでお家を隆興させていったのだ」
公爵の地位を得たのはおじい様の代になってからだから、ほぼ代を重ねるごとに爵位を上げていったことになる。
爵位というものはそうそう簡単に上がるものではないし、王家や上級貴族にこびへつらったりワイロを贈ってまで爵位を手に入れたがるような方たちでもないだろうから、ガチンコで手柄を立てて出世したわけだ。
戦時中ならまだしもこの数百年間、平和ボケして過ごしているエーデルシュタイン王国において、それはもう凄まじい立身出世物語と言えよう。
むしろ優秀すぎて、立場を追われる危険を感じた王族や上級貴族に粛清される恐れがあったんじゃないかと心配してしまうぐらいだ。
ワタクシが地獄に堕ちた一介の罪人(※冤罪)から地獄の魔王に一代にして登り詰めたのも結構すごいと自負しているが、それは地獄が弱肉強食の実力主義の世界だから成立したことだ。
血統と爵位とお金がすべての人間世界において、ご先祖様が成し遂げたサクセスストーリーは比較にならないほどの偉業だと思う。
なんだったら大河小説として読みたいぐらいだ。
タイトルは、『華麗なるローゼンブルク一族』。
うん、いいかもしれない。
いつか機会があれば出版しよう。
とはいえ、そんな機会があったとしても、それはまた別の物語――
魔王にしてエーデルシュタイン王家の正統なる後継者、エトランジュ・フォン・ローゼンブルクの物語はまだまだ続きましてよ。
さあ、神よ。
今度こそ覚悟なさい。
地獄の魔王率いる地獄の軍団の恐ろしさを思い知らせて差し上げましてよ。
おほほほほほほほ。
第2部 天国編
第3幕
完