キマイラ文庫

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目次

エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~

喜多山 浪漫

episode107

悪役令嬢、第一形態→第二形態→最終形態は????

「お嬢様、御髪を整えましょう」


 専属メイドのスイーティアが優しく髪を梳いてくれる。

 ワタクシたちは今、猫型移動要塞マカロンで天国上空を飛行中。ブリッジの艦長席で束の間の休息をとっている合間に髪の手入れをしてもらっている。

 髪は乙女の命。身だしなみは淑女のたしなみ。ギロチンにかけられて地獄に堕ちたときでも、幼馴染の執事を取り戻すために天国を侵略しに来たときでも、それは変わらない。


「……御髪の色はこのまま黒になさるのですね。元のお色は金髪なのですから金髪のほうがよろしいのでは?」


 と遠慮がちに意見を述べるスイーティア。

 有り余る闇属性の魔力ゆえにワタクシの髪は生まれたときから深淵のような黒だった。

 そのせいで人間世界では随分と疎まれ恐れられてきた。スイーティアもそれを間近で見てきたからこその進言なのだろう。

 しかし、先代魔王アホーボーンがレベルキャップという人間の限界を外してくれたおかげで闇属性の魔力の影響を受けなくなり、黒髪の呪縛から解放された。そして、両親から譲り受けた本来の髪の色――美しい輝きを放つ金髪を取り戻すことができた。

 両親の血を引き継いでいることの証明である金髪で生きていくことも考えた。けれども、黒髪を忌まわしいものとする人間世界でも何ら恥じることなく堂々と黒髪で突き通して来たという矜持がワタクシにはある。

 それに人間世界では最悪の三拍子だった黒髪、闇魔法、666が、地獄ではラッキー7の大フィーバー、逆転サヨナラ満塁トリプル役満だと聞いた以上、地獄の魔王たるエトランジュ・フォン・ローゼンブルクとしては、やはり黒髪を選択すべきだろう。


「ワタクシはこの黒髪に誇りを持っていますの。だから、これからも黒髪のままにしておきますわ」


「そうですか。そうですよね。やっぱりお嬢様にはこの美しい黒髪がお似合いですよね。すみません、変なこと言っちゃいました」


「ふふっ。気にすることはありませんわ。たまには気分転換にブロンドヘアに変えてみるのもいいかもしれませんわね」


 レベルキャップが外れた後の副作用というかオマケ機能というか、魔力を調整すれば髪の色を黒から金へ自由自在に変化できるようになった。

 地獄の三人組のように姿かたちからスキルまで劇的に変化する変身(メタモルフォーゼ)とまではいかないものの、魔王(ラスボス)という職責を預かる身としては、来たるべき勇者との戦いに向けて第二形態をゲットできたのは僥倖である。いつか最終形態も身につけたい。


《地獄の魔王エトランジュ・フォン・ローゼンブルク》

 第一形態:黒髪、闇魔法、666

 第二形態:闇魔法全開放最大出力→金髪に変身

 最終形態:????


 魔王(ラスボス)に相応しい姿と立ち振る舞いとは何か? 勇者がワタクシを退治しにやって来たときに、地獄の魔王の名に恥ずかしくないだけのマナーを身につけておく必要がある。

 髪は乙女の命。身だしなみは淑女のたしなみ。それと同じように魔王として、ラスボスとして、ちゃんと最終形態ぐらいは用意しておくのが最低限の礼儀作法というものだろう。

 マナーが、人を、紳士淑女を、魔王を作るのだ。


 とはいえ最終形態に向けて、まだ明確なビジョンを持ち合わせていない。いくつかの案を考えてみたが、いまだ納得のいく答えを導き出すには至っていない。


 案①:巨大化

 肉体を巨大に変化させるのはどうか?

 闇魔法ギガンテスを使えば簡単に実現できるが、魔王になる以前から使っていた魔法だし、ただの禁呪だ。勇者を迎え撃つにはいささか手抜き感がある。それに最終形態が大きくなるだけだなんて面白みにも欠ける。そんなのワタクシのプライドが許さない。


 案②:暗黒竜化

 これも闇魔法ドラゴニアンを使えばいいだけし、過去にやった。

 第一、魔王がドラゴンに変身するって、勇者からすればワンパターンに感じられるような気がしてならない。それではいけない。予想だにしない驚きを与えてこそ真のエンターテイナーと言える。


 すでにやったことがあること、その気になればすぐにできるようなことではダメだ。せっかくワタクシを退治しにはるばるやって来てくださる勇者に出がらしのお茶を出すようなものだ。それでは申し訳ない。魔王の沽券にかかわる。


 漆黒の翼が生える……?

 うーん、パンチに欠ける。


 巨大ロボに変身……?

 インパクトはあるかもしれないけど魔王の最終形態としては好みが分かれそうだ。


 うむむむ……。悩ましい。

 でも当面の敵は神だし、まあいいか。

 最終形態は、いつの日か勇者と戦うときまでの宿題としておこう。